23
夜はすっかり更けて、公園の時計を見ると、午後十時を回ったところだった。
気温はどんどん下がっていき、アオイはベンチの上で静かにその体を震わせた。
涙は止まり、心も次第に落ち着いてきたが、同時にかなり疲弊していることに気づいた。
昨日のノイズから、さっきの鮫島君の件が立て続き、アオイの心は休むことを必要としていた、のだが。
「・・・・・・なるほど。じゃあ鮫島君の家にいたのは、ミスコちゃんのせいなのね・・・」
ハルから告げられたその『染崎ミスコ』という存在が更に頭を悩ませる問題となっていた。
『アオイ、あの人格は放っておくと危険よ・・・。下手をすれば、ミスコが満足するまで見境いなしで色んな男と関係を持つかもしれないわ』
「・・・でも、そんなこと言われてもどうすればいいかわからないよ・・・」
『・・・カヨイだって今は大人しいけど、これから何をするかわからない。とにかく主人格はアオイなんだから、肉体の管理はきちんとしないとだめ。肉体の権限を強めないと好き放題にされるよ』
「・・・権限を強めるなんて、そんな簡単に言わないでよ。やり方もわからないし・・・」
『カヨイとミスコが肉体を使おうと入れ替わると、わたしもアオイもその時の記憶は全くない。しかもあの子たちは、肉体を使おうとするとアオイの許可なしにいつでも入れ替われる・・・。とにかくこの状態を続けてもいいことはないわ。何か対策を考えないと』
「・・・カヨイちゃんもミスコちゃんも私には認識出来ないし・・・」
『なら、認識できるわたしがガツンと言うしかない、か。・・・とにかく肉体を使わせないようにしないと』
「・・・・・・」
『・・・・・・アオイ?』
突如黙りこくって、悩まし気な様子のアオイが気になった。
少しだけ間を空け、アオイは口を開いた。
「それは駄目よハル。肉体を貸さないのは絶対ダメ!」
『・・・アオイ、けどそれは・・・』
「・・・だって、あの子たちも私から肉体を持たずに生まれて、私の中にいる大事な友達じゃない。なのに肉体を使えないなんてそんなの可哀想だよ」
『アオイ!そんなことしたらあなたと、あなたの肉体が傷つくことになるのよ!?』
「わかってるよ!・・・わかってるけど、あの子たちもハルと同じだもん!『私』の中から生まれた『私』なんだもん!なのに体を使っちゃ駄目なんて・・・そんなの私は望んでないよ・・・ハル・・・」
『・・・・・・ならもう、やっぱり博士のところに行くしかない・・・』
「ハル、それは・・・!」
『・・・まあ、落ち着いて聞いて。考えがあるの。まずライカさんに連絡して、わたしじゃなくてミスコだけを先に移植できるか聞いてみるの。それならアオイも問題はないでしょ?ミスコの問題はアオイの肉体を自由に使われることにあるのだから、ミスコには別の肉体を与えるのよ』
「それは・・・」
少し言葉に詰まる。確かにハルの提案はこの状況での最適解のように思えたのだ。
「・・・可能よ。あなたたちの場合は全く問題ないわ」
とライカさんは電話越しにそう言った。
久々のライカさんの綺麗な声を聞きつつ、私は心の中で静かにガッツポーズをする。そんな私はともかくとしてライカさんは「けれど・・・」と続けた。
「可能は可能なんだけど、それはアオイちゃんとハルちゃんの間だけの話でしょう?」
見透かされたようなライカさんの言葉にわたしはドキリとした。
「・・・ミスコちゃんにその話をしてみたの?」
「・・・そんなのやだなあ」
ミスコは困り顔を浮かべ、わたしを非難の目で見つめた。
「・・・・・・どうして?一人だけの肉体があった方がアンタも都合が良いんじゃないの?」
肉体関係を求めているなら、字面通り肉体があった方がミスコも都合が良いのではないかと高をくくっていたわたしにとって、その答えは想定外だった。
「・・・死ぬかもしれないんでしょう?だったらそんな変な実験、ワタシはいや。せめて誰かが最初にしてくれるならともかくね」
いくらミスコといえど拒む理由は全く正当なものだった。
なによりこの提案は、アオイがわたしに賛成できない理由でもあって、わたしはそれ以上ミスコを追求することを躊躇してしまった。
結局、問題解決に至ることなく、仲介役のわたしがミスコをしっかりと見張ることに決めてわたしとアオイは帰路につくことにした。
アオイの疲労は心身ともに限界に達していた。明日も学校は休むことにしようと思っている。
アオイに許可はとっていないけれど、休んだ方がアオイのためにもなるだろう。わたしたちには、とにかく落ち着ける時間が必要だった。
けれどその時。わたしはそんな時間がこれから先あるわけないのだと、心のどこかで無意識に予感していたのだった。
じじじじじじじじじざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎああああああああああああああああああああああああああああああああああああああるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるぐあんぐあんぐあんぐあんぐあんぐあんがががががががががががががががががああああああああああああああああああああああああざざざざざざざざざざざざ
そして深夜に家に辿り着くと同時に、再び例の『ノイズ』がアオイを襲った。




