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重い瞼を開く。


私は床にうつぶせに倒れていた。

頭がやたら痛い。口には血の味があった。口内を切っているらしい。倒れたのだろうか。どうしてこうなったのか記憶がぼんやりとして思い出せない。


視界がぼやけて不明瞭だった。手探りをすると、ベッドの脚に触れた。とりあえず自分の部屋のようだった。ベッドの上で眠ろう、そう思ったが体が鉛のように固まってうまく動けない。「う・・・」とうめき声をあげるので精いっぱいだ。


数分後、私はもぞもぞと這うように動き、何とかベッドに上って仰向けに転がることが出来た。それでも体は熱に浮かされたように全体的にぼうっとする。五感が回復するにはまだ時間がかかりそうだった。しばし、休んでいると私はようやく『ノイズ』が起きたことを思い出した。


『・・・ハル・・・聞こえる?』


私はハルを呼ぶ。


『・・・・・・アオイ!起きたのね、よかった!』


ハルの声はすぐに返ってきた。


『・・・また、あのノイズだったね・・・ハルは大丈夫・・・?』


『わたしは大丈夫だけど・・・アオイは?』


『・・・・・・』


私は黙ってしまった。

正直大丈夫ではなかった。体は重いし、頭の中は手でかき回されたようにぐちゃぐちゃだ。思考がうまく働かないし、今も少し気分が悪い。


『・・・ハル、カヨイちゃんは大丈夫?』


私は認知できない友達のことがふと心配になった。


『カヨイは、うん、大丈夫・・・だよ』


と聞いてほっとしたが、同時に、どこか歯切れが悪いハルに気づいた。


『・・・どうしたの?ハル』


『・・・アオイはまた認識できないみたいだね。あのね、アオイ、落ち着いて聞いてね』


『・・・・・・?』


ハルの声音はやたら神妙だった。


「実は―――」


ハルの口調はどこか重々しく口を開いているようだった。そして告げた。


『―――――また増えてるの。人格が』


『・・・・・・・・・』


また増えたんだ、と思った私の心は、驚きか落胆か自分でもわからないが、今は感情を表に出す元気も無かった。


『その子の、名前は・・・?』


『名前は“染崎ミスコ”って言ってた。アオイとは全く違う性格の持ち主よ』


『そう・・・』


私は何となく横向きに寝返りを打った。それだけの動作でも気怠さを感じた。


『・・・・・・』


ハルは何を言えばいいのか迷っているようだった。


『・・・ハル、今何時?』


『・・・朝の八時だよ。今日は学校を休もうよアオイ。その体じゃ無理よ』


『うん、そうだね。ハル、ごめんだけど交代して学校に連絡してくれないかな?』


『うん、わかった。任せて』


そうしてわたしは交代して肉体とつながった。わたしが肉体を動かしてもどこにもノイズのダメージはなかった。やはりあれはアオイの中で鳴っている音なのだ。どうしようかと悩みつつもとりあえずアオイに頼まれた通り、学校に電話をして、体を休めようと再びベッドに寝ころび、眠りについた。




―――――そして同日、時刻は午後四時半。ワタシは静かに起き上がった。


「へえ、これが肉体ね。やっぱり素敵」


手を動かし、足を動かす。頭を揺らす。一通りの動作チェック終わり。

その後おもむろに制服に着替えて、髪をセットした。好みの下着を探したがなかったのは残念。それに本当はもっとオシャレな服を着たいけれど・・・まあ学校に行くなら制服でいる方が目立たないし、仕方ないな。


「お母さん、結構好いもの持ってるじゃない。ラッキー」


お母さんが使っているヘアアイロンと化粧品を勝手に使い、姿鏡に自分の姿を映した。幼く儚いイメージは少し払しょくできたかもしれない。しかし染崎アオイというこの体は本当に綺麗だ。我ながら嬉しくなる。そしてワタシは意気揚々と家を出た。

学校に着いた。燃えるような夕焼けが校舎を茜色に照らしている。

どこか艶めかしく優美な茜色だ。嗚呼、審美眼がゾクゾクと刺激される。担任の先生やクラスメイトに遭わないように警戒しつつ、体育館に向かった。


体育館の近くまで行くと、スキッシュ音とボールをつく音、そして部員達の声が聞こえてきた。良かった。まだ練習しているみたいだ。ワタシは体育館の裏手に回り、窓から中の様子を見ることにした。彼は確か推薦が決まっているから、今もまだ冬の大会に向けて部活動を続けているはずだ。そして小窓から屋内を覗くと案の定彼はいた。遠目に見ても彼の綺麗な顔が鮮明に映った。ワタシは思わず頬を緩めた。それから静かに部活が終わる時間を待った。


待つこと約四十分。


時刻は午後六時を過ぎたところだ。

既に夜の帳は降りている。ワタシは校門が見える場所の陰に隠れて待っていると、彼はやって来た。校門を出て友達と別れ、スポーツバッグを肩にかけてひとりで歩いている。


ワタシはその後を追って、静かに歩み寄る。


「お疲れさま」


「あれ、君は・・・?」


彼は驚いた様子だった。まあ無理もないよね。


この後、ワタシの思った通り、事は簡単に運ばれていった。


ワタシは男をよく理解していたからだった。


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