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博士の研究施設からY県まで一時間半ほどかかった。


交通の便が良いから大して乗り換えもせず、私は湧き立つ色んな想いを胸に抱えたままずっと電車に揺られていた。最寄り駅に着き、すやすやと眠っていたアナを叩き起こし、少し速足で歩くこと十数分、私たちはレシートに書いてあるスーパーに辿り着いた。


住宅地の中にあるそれは、緑色を基調にしたどこにでもあるスーパーマーケットだった。時間帯のせいか店内の客は少なく、レジも一箇所しか解放されておらず、店員同士で暇そうに話しこんだりしている姿もあった。


「・・・・・・閑散としたスーパーだな」


拍子抜けするほどに穏やかな空間だった。アナは眠気がまだ抜け切れていないのか眠そうに目をこすっている。


「・・・・・・来たのはいいけどどうするの?アオイおねえちゃん」


アナは、ふあぁ、とまぬけな欠伸をしながら言った。


「・・・私に考えがある。とりあえずは・・・」


言いながら店内をキョロキョロと見回してみると、ちょうどいい具合の男の店員を見つけた。中年の小太りした男で、客が少ないせいなのか、それとも単にやる気がないだけなのか、どこか退屈そうにのろのろと品出しをしている姿がすぐに目に入った。


「・・・あれがよさそうだな」


私は総菜コーナーで指をくわえているアナの腕を引っ張って、その暇そうな店員に近づいて行った。


「あのぉ、すいません、ちょっとお尋ねしたいんですけども・・・」


我ながら反吐が出る手弱女ぶりだった。


「・・・あ、はあ、何でしょう?」


私が話しかけると、男はどこか気の抜けた返事をした。

名札を見ると、名前の上に『店長』とハイランクな役職が書かれてあった。

間抜けそうに欠伸をしていたこいつが店長とは。いくらアイドルタイムだとはいえ店の雰囲気全体がどこか緩み切っているのはこいつの仕事ぶりのせいじゃないのか、と私は高校生の身ながら訝しんでみるのだった。


「じつは私、財布を落としてしまったみたいで・・・」


「はあ、財布・・・」


店長はのんきに髪の薄い頭をポリポリとかきながら繰り返した。


「・・・色々と探し回ったんですけど無くて、あと心あたりがあるのは昨日来たこのスーパーだけなんです。落とし物として届いていませんか?」


「・・・はあ、なるほど、わかりました、ちょっと待っていてください。事務室の落とし物届けを見てきますので」


「いえ、それではいけません」


私がビシッと言うと「え、なぜ?」と店長は小首をかしげた。


「それより監視カメラの映像を見た方がいいかと思うんです」


数秒間、私と店長は無言で視線が合わせた。店長は眉をひそめて私を見ている。


「そのほうが確実ですので」と私は付け加えた。


「・・・・・・はあ。しかしそれは・・・」


「私がここで買い物をした時の行動を見てみたいんです」


「・・・・・・・・・・」


店長の目がわずかに虚ろになる。


「ついでに私も一緒に見せてもらっていいですか?」


いいから案内して、見せろ。私はひたすらそんな思念を乗せた視線を送った。店長は間抜けそうに口をぽかんと開けている。


「・・・・・・わかりました。じゃあ、こちらにどうぞ」


しばし目が合った後、店長は促す手ぶりで私をバックヤードに案内し始めた。簡単なものだ。思わず笑ってしまいそうになる。


私は「どうも」と適当にお礼を言い、アナに、行くぞと合図した。


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