1 鉄と油の街
暗い底。冷たい風。落ちる私は姫様の言葉を思い出した。
「ピアノがあなたを導くわ。だって、あなたと私をつなげたのはピアノなんですもの」
白い透き通るような声だったあの時の言葉は夢か現実かわからない、何もない暗い世界の私に光を灯す。
目が覚めた。ということは夢だったのか、いや落ちる恐怖の走馬燈と言っても過言ではない。
顔の前にはウトウトしているスーさん後頭部にはなんだか柔らかい感触が……
起こすのも忍びないのでもう一眠りすることにした。
辺りは真っ暗で何も見えない。
♰
「おい、おはよメイドちゃん」
「ふぇ……」
なんとも気の抜けた声。
少しの仮眠のつもりががっつり寝てしまった。
あくびと共にスーッと大きく深呼吸をしたが異様に息が苦しい。
それもそのはず、辺りはスモッグで覆われ石畳の道には人ではなく、大量の煙を吐き出しながら歩く多くのロボットがまるで人間のように商店を構え、ロボット同士で話し、人間と同じ言葉を話している。
ものすごく気味が悪い。AIに乗っ取られるとこうなるのかとしみじみ思った。
「スーさん……」
私は怖くなって思わずスーさんの後ろに隠れた。
だけどスーさんは臆することなく私の手を握り、
「大丈夫、姫様はきっと見つかる」と言った、言ってくれた。
その後私たちは街の至る処を周った。
目の前にあった油といろんな歯車を売る露店通り、街の中央の巨大な時計塔の下で執り行われている何かの式、ロボットの腕屋、足屋、頭屋、はたまた雑多な金属が埋まってる畑。
疲れた二人は時計塔下のベンチに腰を下ろす。
そして成果は無いまま時計塔が夜の9時の鐘を鳴らした。
「スーさん、今日の所はこれぐらいにして宿を探しましょう」
「ん、そうだ……。ねぇメイドちゃんあの光なんだと思う」
「え?」
視線を前に向けると遠くから黒煙を煙らせ、煙の隙間から無数のロボットのヘッドライトが見える。
「こっち来てますよね……?」
「隠れるぞ」
「うわっぷ」
スーさんに抱えられ、近くの茂みに息をひそめた。
ロボットたちは二人には気づかず、そのまま時計塔下で並び始めた。
「何してるんですかね」
「しっ」
手で口を押えられた。
暫くすると時計塔に扉が現れロボットたちが入っていった。
そして辺りは真っ暗な世界に静まり帰った。
「ぷはっ! はあはあ……」
「あ、悪かったな」
「鼻まで隠すことなかったですよ」
「ははは」
笑うなよ。
「で、どうします? たぶん街から人……いえ、ロボットいなくなりましたよ」
「しょうがない、空いてる家を探すしかない」
「それって……」
「借りるだけだからセーフ」
「ま、いっか」
このままだと私の泊まる家がなさそうなので目を瞑ることにした。
時計は10時の鐘を鳴らした。
二人きりの世界に鐘の音が心臓にまで響く。