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小説の湧き出る小川

運命のコントローラー

作者: レモン

 グリン・シェリーが自分の父親を殺そうと計画し始めたのはまだ13歳の時だった。

 外からは、彼は悪そうにもタフにも派手にも見えなかった。彼はTシャツと短パンを着た普通の男の子で、濃い茶髪の髪の毛はきちんとし過ぎずだらしなくもなく、短すぎず長くもなかった。学校では一番優しい男の子だと思われていた。でも人気は中ぐらい。彼のことを好きな人たちもいれば、ダサいと思う人たちもいた。グリンは自分のことをダサいと思う人たちが大嫌いだったが、けんかしようという気にはなれなかった。彼は臆病者で、物事を複雑にしてしまうのが怖かった。彼はその人たちが彼のことをダサいと思わなくなり、彼の存在自体を忘れてくれることを期待していたが、そうはいかなかった。その人たちは機会があるといつでも彼のことをダサいと言った。

 グリン自身も自分のことが嫌いだった。彼は本当に自分でいるのが嫌だった。もううんざりだった。変わりたかったけど、簡単には変われない。彼は変わり方が分からないので、自分のことや自分でいることを嫌うことしかできなかった。

 ところで、なぜ彼は彼の父親を殺したかったのだろうか?彼の父親はどう関係しているのか?

 これには深い理由がある。グリンは彼の父親を殺したくなった正確な理由は覚えていない。グリンは父親のすべての行動が嫌いだった。まぁ、すべてではなくてもほとんどが。彼の父親はみんなと違って、だからグリンもみんなと違った。グリンは父親から遺伝したすべての遺伝子が嫌いだった。まぁ、ほとんどすべての。身体的なものも精神的なものも。父親の性格も自分の性格と同じぐらい嫌いだった。恥ずかしかった。簡潔に言えば、彼は自分の父親が嫌いだった。そう、だから父親を殺したかった。

 その夜、グリンは父親が買ってくれた気持ちのいいベッドで横になった。グリンは時間が太陽の下にあるアイスクリームのように溶けていく間、じっと時計を見ていた。なんだか緊張して、お腹が痛かった。彼はなぜ自分がこのように生まれてきたのだろうと考えた。これは彼の父親のせいだ。彼は頭の中で、全部父のせいだ、僕は父が大嫌いだ、と繰り返した。彼の開いている目はゆっくり閉じていき、彼は深い眠りについた。


 グリンの父はグリンの部屋を開けた。グリンが以前ノックしてから入るように言ってたのをノックしないで入ってから思い出した。しかし、電気は消えていて、グリンは寝ていたから関係なかった。

 グリンの父は時々、グリンは寝ている時が一番可愛いと感じることがあった。本当に息子のことを可愛がっていたが、息子に愛していることを伝えても、グリンは冷たい視線を送ってくるだけだった。グリンは父親からの愛はダサいと感じているようであった。グリンの父にとっては素晴らしいものだった。息子と過ごす時間は、職場や上司からのささやかな逃げ場であり、ひと時の喜びであった。グリンが寝ている時は、お父さんと一緒にいることについて文句を言わない。あっちへ行けとも言わない。

 グリンの父はグリンの布団を直し、暗い中で部屋を30分ほど掃除し、去る前にもう一度息子の顔を見た。彼は彼の息子が明日彼を殺そうと思っているなんて夢にも思わなかった。


 グリンはどこかへ続く長くて白い階段を登っていた。きっと頂上には何かあるだろう。彼は珍しく父のことを忘れ、一番上まで登ることに夢中になった。最後の数段を登ったら、そこには何もなく、彼はがっかりした。いや、小さな紫の石の形をした物体がある。彼はそれを触ろうか迷ったが、やっぱり触らないことにした。もし触ったら何が起きるか分からない。手の中で爆発したり、燃えたりするかもしれない。彼に噛みついてきたり、目に当たったりするかもしれない。不思議な物体だったが、とても小さかったので、彼はあまりそれに興味を持たなかった。

 グリンはためいきをつきながら、一番上の段に座った。下を見ると、一番下に青紫色の何かがあった。行ってみようかな?数分考えてから、やっぱり下に降りてみようと思った。階段を下りるのはそれほど大変ではなかった。グリンは階段の一番下に着いた。

 近づくと、その青紫色のものは洞窟になっていた。それに青紫ではなかった。真っ赤だった。

 洞窟の前で躊躇した。「すみません。」彼は呼びかけた。

 「どうぞ、お入りなさい。」ある声が返事をした。優しい女性の声だった。

 これはもしや罠ではないか。彼はストーリーがどうなるか分かるような気がした:彼は父を殺そうと計画している悪い男の子で、女性の声で洞窟に招き入れられ、好奇心旺盛に中に入ると怖い怪物に食べられてしまう。終わり。

 しかし、彼は化石化するまでそこで待っている気にもなれなかった。彼は上手に生きられたことなんてない。彼は世界一幸せな男の子でもない。もしかしたら、入って食べられてしまった方がいいかもしれない。

 「おいでなさい。」声が再び聞こえてきた。「大丈夫よ。」

 彼は慎重に2歩だけ入っていった。怪物が現れるのを待ったが、怪物は現れなかった。もう何歩か歩き、洞窟の奥へと入っていった。

 洞窟の中は濃い緑色だった。緑茶の色だった。真ん中辺まで来ると、何かが彼の方に飛んできた。人間の形をしていた。彼女に足があるのかどうか良く分からなかった。長いローブを着ていて、足があるとすればそれを完全に隠していたからだ。彼女の表情は…表現しにくい。怖くて脅すようなものでもなければ、優しく愛に満ちたものでもなかった。悲しくも嬉しくもない。きれいな顔立ちではあった。彼が今まで見た中で一番きれいだった。

 「僕のことを呼んだ?」グリンは声を震わせながら聞いた。彼はよく知らない人の前ではいつも声が震える。多くの人の前で話す時も声が震える。だからダサいのだ。

 「そうよ。」彼女は彼の目を見つめながら言った。

 「どうやって飛んできたの?」グリンは聞いた。

 「私はあなた方とは違って歩かないの。普段は人間の言葉で話したり、人間の体になったりしないけど、あなたを怖がらせたくなかったから。」

 「足はあるの?」

 「いいえ。腕も指も髪も顔もないのよ。そういうのは何も持っていない。でも私は全てを持っている。」

 「え?」グリンは混乱して言った。

 「『え』なんて言わないで。失礼だわ。権力があるのは私の方よ。いいわね?」

 グリンは頷いた。しかし、彼はなぜ彼女が自分より権力があるのか分からなかった。考えてもみれば、今まで付き合った人もみんなそうだった。彼に対し、権力を握っていて、彼を奴隷のように扱った。父だけは違う。父に対しては彼がほとんどいつも権力を握っている。父は文句を言わない。グリンも文句を言わない。

 「小さい子よ、聞いて。私はあなたとはとても違う。私は色を見ないし、感情も持たない。この洞窟の中も濃い緑ではないのよ。本当は真っ黒。こっちの世界ではすべてが黒だけど、人間はそれが色に見えるようなの。」

 「あなたは一体誰?」

 「私は運命のコントローラーよ。すべての出来事を実現させるの。何でもできるの。でも、何もしない。ただ、地球上のすべての出来事を実現させるだけ。いい出来事も悪い出来事も。」

 「どうやってそれをするの?」

 「それは人間には分からないわ。だから聞いても意味がない。どうやってとかなぜの問題ではない。私はただすべてを実現させるの。」

 グリンはこの回避的な答えにしかめ面をした。「長い階段の頂上にあった物体は何なの?」

 「物体ではないわよ。あれは私の助手よ。」

 「助手?」

 「そう。彼も私のように具体的な形を持たないの。私たちは何にでもなれるの。外見は私たちには関係ないの。あなたたち人間には関係あるかもしれないけど。私たちは特別なの。太陽より大きくもなれるし、点より小さくもなれる。」

 「助手は何をしているの?」

 「細かい物事の担当をしてくれるの。いつも情報を集めてきたり。私の秘書のようなものよ。記録も彼がとっているの。」

 「僕もあなたの助手になれる?」グリンは聞いた。

 「いいえ。」

 「そう言うと思った。なぜ?」

 「あなたにはその能力がない。あなたはただの人間。」

 「それならなぜここに呼んだの?」

 「あなたはまだ若い子ども。まだ人生が何十年も残っているのに、あなたは永遠に後悔する過ちを犯そうとしている。」

 「なんの過ち?」グリンは聞いたが、彼女が何のことを言っているのか本当には分かっていた。

 「普段、私は人間関係に干渉しない。人に過ちをさせて、そこからの教訓を学ばせるの。まあ学ばない人もいるけど。私は彼らが学ぶかどうかには関心がない。つらい思いをしている人に同情することもなければ、幸せな人をひいきすることもない。全ての出来事を自然に、あるいは不自然に起こす。全ての出来事を実現させる。」

 「それ言うの3回目ですよ。」

 「100回でも言うわよ。」

 「いいえ、結構です。」グリンは急いで言った。「でも、あなたが全ての出来事を実現させているのなら、僕の人生をもっと良くしてほしかった。自己中かもしれないけど、僕は本当にもっといい人生に恵まれたかった。」

 「あなたがどんなに願っても、あなたの運命は変わらない。でも、あなたはラッキーだわ。私に会えたから。結構名誉なことなのよ。」

 グリンは苛ついてきた。「さっきからそればっかり言うけど、何か特別なことをしてくれないの?なぜあなたと出会ったのが名誉なの?あなたは僕をつらくさせているだけだよ。」

 「グリン、あなたよりもつらい思いをしている人はいるのよ。でも、私はあなたを選んだ。それはあなたのことが好きだからでも、助けたかったからでもない。」

 「そうしたらなぜ僕を選んだの?」

 「それはそういう運命に私がしたから。許されぬことをあなたがする前に、チャンスを与えることにしたの。」

 「殺人ってそんなにいけないの?」グリンはつい言ってしまい、すぐに後悔した。これで運命のコントローラーはどう反応するのか?

 「自殺するのと同じぐらいいけないことよ。他の生き物の命を短縮するには大きな動機が必要。たとえば生存のためとか。あなたの動機はとても大したことではない。」

 「あなたは人間関係に干渉しないんじゃなかったの?」

 沈黙があった。

 「わかったわ。ではあなたを解放しますよ。」

 グリンはその答えに驚き、また心配になった。すると突然、竜巻のようなものに彼は巻き込まれた。強い風に打たれた。目を開けようとしても不可能だった。目が飛び出ていってしまいそうで。

 「聞いて、グリン。」コントローラーの声は震えて小さくなっていた。「あなたは自分の運命を変えられないかもしれない。しかし、あなたの前向きな精神やすべての考え、判断、行動、そして心の中にある愛や理解はあなたの人生に大きな影響を与えるのよ。」


 グリンは目を開けた。もう風を感じない。彼は自分が生きているのか死んでいるのかも分からなかった。しかし、運命のコントローラーの声は彼の心に残っていた。「許されぬことをあなたがする前に、チャンスを与えることにしたの。」彼は殺人が重罪であることは知っていた。しかし、彼はそれをしてしまうと、人生を捨てることになってしまうことに気づいた。重い心を海の底に沈めてしまうようなもの。「あなたは自分の運命を変えられないかもしれない。しかし、あなたの前向きな精神やすべての考え、判断、行動、そして心の中にある愛や理解はあなたの人生に大きな影響を与えるのよ。」これは深い知性から来た言葉。いい運命、悪い運命。彼が生まれ持ったもの。幸運、不運。彼は今までの人生で起きた良かったことを思い出した。1000メートルリレーで3位になったことがあった。3位になるのは運命だったかもしれないけど、彼が一生懸命速く走ろうとしたからそうなったのである。そして悪かったことも思い出した。例えば劇で台詞を忘れてしまい、怒鳴られたことがあった。それは彼があがってしまったからで、不運なことでもあったかもしれない。しかし、一部彼のせいでもあった。もっと練習すれば良かった。もっと気をつければ良かった。

 人生は長いUNOのゲームみたいだった。最初の7枚のカードは大事で、それは運命に依存している。そしてカードの束からひくカードも運命に依存している。しかし、どのように遊ぶかは、運命にもよるが、自分にもよる。人生は運命によるところが大きいが、それでも人々は人生を良くするか悪くするか変える小さな力をもっている。

 人生がUNOと違うのは、必ずしもいつも競争する必要はない。お互いに愛し合ったり、理解し合ったりできる。お互いに助け合うことができる。一緒に生きることができる。

 「グリン!どこに行っていたの?」

 グリンは父の懐かしい顔を見た。彼に運命を与えた人。命をくれた人。一緒に生きるように運命づけられている人。生きるのを手伝ってくれる人。彼がどんなに意地悪でひどくても、いつも愛し理解してくれる人。「こんにちは、お父さん。」グリンはかすれた声で言い、目を閉じた。

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