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切ない初恋  作者: 雪見だいふく
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変わらない想い




私、カールと結婚する!…――――――



それが口癖だった幼い自分を思い浮かべ、アンジェリークは皮肉な笑みを浮かべる。


アンジェリークは今、広い草原の中で白い小さな花を摘んでいた。

花は薬草であり、薬味にも使われるのでスープで煮込むと身体に良いのだ。

そんな地味な作業に没頭していると、遠くから笑い声が聞こえる。


アンジェリークが振り向くと、二人の男女が肩を寄せ合いながら、こちらに近づいてくる。

アンジェリークが硬直していると、男性と目があった。

男性もアンジェリークに気づき、少し目を開くと隣の女性に何か言った後、一人でこちらに歩いてくる。

アンジェリークは反射的に立ち上がり、近づいてくる男性を見つめる。



「久しぶり、アンジェ」



よく通る穏やかな声に、アンジェリークは懐かしさに胸が苦しくなった。

淡いグレーの瞳に見つめられると、さっと目をそらしてしまい、気を悪くしてしまったかと思ったが、男性を見れず顔は上げれなかった。

アンジェリークが俯いたまま、何も返さずにいると男性は苦笑する。


「邪魔してごめんね。もうじき暗くなるから送るよ」

「…大丈夫です。一緒に来た女の人を送ってあげて下さい」

「彼女とはここで別れるんだ。別の人と会うことになっているから」

「……それでも大丈夫です。一人で帰ります」


(かたく)なに男性の申し出を断っていると、男性は寂しそうに笑った。


「もう…、昔みたいに話せない?私の名を呼んでくれないの?アンジェ」


眉を下げて苦笑する男性に、アンジェリークの胸が痛んだ。

ずるいわ…――――――

そうさせたのはあなたなのに。



「……帰ります。さようなら、カーライル様」


最後まで敬語を使うアンジェリークに、男性は笑みを消し、じっと見つめてくる。


なに…―――――


男性の感情を()ぎ落としたような表情に、アンジェリークは(ひる)んだ。


「そんな他人行儀に言わないで。カールでいい」

「っ…、帰ります」


男性の射ぬくような眼差しにビクッとなり、アンジェリークは慌てて(きびす)を返した。


男性から離れることにどこか安堵を覚えつつも、離れがたい思いもあった。


幼い頃は無礼な程に、カールと距離を縮めていたが、成長していくにつれ、それはダメなことなのだと分かってきた。

彼はこの国の有数な貴族で、アンジェリークは一般市民だ。


釣り合う訳がない。


この想いは(ふた)をして、カールとは関わらなければ良い。

その方が何も期待しないで良いし、平穏に暮らしていける。


そう思っていたのに、神様は残酷だった――――――。












アンジェリークの家に一通の手紙が来た。


【親愛なるメナード様】


達筆な字に目を奪われつつも、一般市民には貴重な油紙の手紙に、アンジェリークは慎重に開く。

そして、手紙の内容にアンジェリークはため息を吐いた。


手紙には、屋敷に招待するので是非来ないかと招待状が書かれていた。

最後に、カーライル・リンスと書かれ、カールが送ってきたものだと分かった。

今までも何度かこのような招待状は送られてきたことがあるが、全て丁重にお断りしてきた。


実はカールとアンジェリークの父親が親友で、父が亡くなってからもカールの家には度々お世話になっている。

母は早くに亡くなっており、父も亡くなると屋敷に来ないかと何度も誘いの手紙が来る。


アンジェリークは17年間、この家で育ってきたので出る気は全くなく、このような誘いはありがたいが、答えは毎回同じだ。

返事を書こうと油紙よりも安い紙に、筆を走らせた。


【親愛なるリンス様】


最初の自分が書いた言葉に、アンジェリークは恥ずかしくなる。

まるで、親しい人に送るみたいだ。


二年前に父が亡くなってから、カールの家とは距離を置いてきた。

あちらからしてみれば、疑問だと思うが、ただの一般市民が貴族の家を出入りすると良く思わない人がいる。

それに、カールは25歳だが結婚はしていない。

加えて、中性的な美貌に穏やかな物腰、心地良いよく通る声に若い女性から大人の女性までに人気だった。


アンジェリークは今一人暮らしで、心配されるのはありがたいが、出来ればそっとしておいてほしい。

何も望まないし、何も入らない。


手紙を書き終えると、明日役所に出しに行こうと思い机の上に置いた。













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