#31~35
全てが物語っていた。
哀れな残骸ばかりが部屋を占領し、
足の踏み場もないこの部屋は余裕のなさと比例している。
視えぬ泡は一つ、二つと浮かび上がり、
息を攫って爪を立てる。
嗚呼、この心臓は今も尚無様に、
未練がましく日々を刻む。
手荒に扱う螺子も朽ちず、
深い深い底に堕ちる。
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珈琲も煙草もアルコールも、
不可思議な苦味に魅了された。
解る人にだけでいい、解る人にだけ味わってほしい。
彼等は存在を主張して、甘美を葬り今に至る。
私の役目は夢ではない、私の役目は仄暗い運命。
見上げた空には無数の塵。
月明かりに溶く紫煙と湯気。
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チチ、ヂヂと鳴く煙草。
誰も居ぬ部屋、灯火世界。
ちくりチクリと喉を刺す。
優越至極の舞台上、
此処は何処かと尋ねる少女は
彼の元を離れはしない。
揺蕩う灰に軋む球体、
「君はさっさと夢にお帰り」
呟く声は肺の奥。
此処は何処かと二度目の言葉、
彼の耳にはもう届かない。
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血濡れた唇にたりと弓月、
ここはサイハテようこそ壺へ。
賽は投げられ海の底、その手に握るは何のイト。
見えぬ世界の真と裏、
明ける遊戯の代償に君の望んだ糧一つ。
求む欠けた渓谷にて、
滅びとあぶくを携えたなら一つ目の問いは既に底へ、
見つけんと嘆けば夜は沈み、
忌々しくも緋は灯る。
・・・---・・・
無味無臭の人の子に成り下がるぐらいならば、
私は禁断の果実や、
たんと毒を蓄えた嫌われ者に生ナりたかった。
隠れんぼに投じる幼い月夜、
暗闇の梺で奇妙な煙は天まで届かず、
視界の端にて形を消し行く。
さようなら、愛しい紫煙よ。
二度と見れぬ軌跡を前に、
優越の刻をきざもうか。