#11~15
公演がまた一つ幕を閉じた。
アンコールもなく淡々と。
ただ一人の物語、ただ一人の出演者。
せっせと片付けるのもまた一人で、
名の知れないエキストラは今何処で何をしているのやら。
空虚な頭に酒を注ぎ込み、
明日の公演に備えて束の間の休息。
巡り巡って訪れる幕開けからは、逃れられない。
・・・---・・・
求めていた器が違った。
陽光を含んで輝きを放つ装飾が施された硝子細工も、
たちまち温度が逃げて夜の冷たさを孕む打ちっぱなしのコンクリートも、
簡単に優劣はつけられない。
所持者の観点で異なる。
だから単純な話、
私にこの器は不釣り合いで、忌々しかった。
ただそれだけの話だった。
・・・---・・・
誰も居なかった。
主人公もヒーローも、
ヒロインやヒールさえも、
誰も居ない世界はあまりに静かで平穏だった。
吐いた戯言は誰も傷付けず、傷付かず、
ひっそり落ちて消えるだけ。
掌に蓄えた暖かさも、
ひっそり溶けて消えるだけ。
・・・---・・・
白んだ息は煙草のようで、何時かの誰かが脳裏で燻る。
もうそんな時期になるのかと、
溜まる腹から零したそれも相変わらずの無彩色。
無情と空虚が漂う中、
意図的に吐けど無意識に吐けど
何ら変わりなく靄を生む。
音もないまま浮かんでは、音もないまま消えていく。
尚も残るは何の色だか。
・・・---・・・
あまりに奇妙な感覚だった。
所謂記憶喪失とは違ったものだと分かったのは、
数十分をかけて一つ一つ、
要領悪くも幼子が花を摘むように思い出せたから。
ならばあれは何だったのだろう。
そこにいたのは、私ではなかった。
全てが無に帰した存在は、
たまらなく空しいものだった。