#06~10
宵闇に落とした水風船。
弾けて濡れた下駄と爪先。
時間に溶けたアスファルトの先、提灯が手招きニイと笑う。
「おいでおいで、代わりは此処に。
おいでおいで、来たれば魔寄へ」
通りすがりの猫が一匹、二俣揺らして行くのは果てか。
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見離された公園に一つ、古びたベンチ。
二人がけにはいつも一人、とある少女の特等席。
好きでも嫌いでもない音楽をイヤホンで流し込み、
五時のサイレンが隙間を潜って鳴り届くその時まで、
少女は一人、空いた隣を撫でていた。
雨風にさらされて出来た木のささくれを、
一人いじくっていた。
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蛍の光は幻の一つだった。
かつて存在していたとて、
今見えなくば妄想の種に他ならない。
夜に浮かんだ淡い灯も、
溶けては彼方、憧憬の産物。
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名前など要らなかった。
飾りに関心などなかった。
人間に興味など、何一つなかったのだ。
眩しい朝焼けと底無しの宵闇さえあれば、
他の道楽も暇潰しも下らぬ産物で、
私はただ、延々流るる今日を消費していたし、
未来永劫そのつもりだった。
君が起こした、ちゃちな偶然に巡り逢うまではの話。
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朝焼けが舞っていた。
ごった返した駅のホーム。
誰ともなく気怠い空気を充満させた電車の中。
鬱屈しながらも規則的に流れる人波。
ふりだしの場として誰彼々をも排出する終着駅。
朝焼けが舞っていた。
俯く皆に気付かれないまま。
悠々と広々と、
あまりに眩しすぎたせいで目も当てられない。