手遅れ
「ごめん、もう気持ちがなくなった」
とてもすまなそうな顔で、彼は告げた。
「俺みたいな奴のことなんか忘れてさ、もっと良いやつを見つけるといいよ」
自分勝手だ、とても。
簡単に忘れろなんて、よく言える
身勝手な言葉に声も出せずにいると、さよなら、の一言で彼は去っていった。
唐突な別れに、へなへなとその場にへたり込んで…と言うのがありがちだが、そういうタイプではない
(ここで追いかけて縋るなり、泣きわめくなりすれば、まだ可愛げがあるのだろな…)
と思いながら、いつも通り過ごしていた
いや、過ごせていたはずだった。
自宅に帰り、彼に関わる品を片付け、小さなダンボール箱へ閉じ込めて。
携帯からアドレスを消して、メールを消して、写真を消して…
ぽつ…ぽつ…
(あれ…?)
涙が手のひらに落ちて初めて、自分が泣いていることに気づいた。
私は、こんなことで泣くような女だったっけ?
忙しくて会えなくても
デートをドタキャンされても
他の女の子と二人で会っているのを知っても
しょうがないよ、気にしないでと返す、そんな所が可愛くないと言われていた私が。
やがて涙は止まり気づく
ああ、それほどまでに好きになってたんだ、と。
今更気付いても、仕様のないことだけど。