ナナちゃんとおばけ
ナナちゃんは普通の女の子。
やさしくて、ちょっとだけ気が強い。
でもひとつだけみんなとちがうところがあります。
ナナちゃんには、おばけが見えるのです。
ナナちゃんのまわりには、いろんなおばけがいます。
朝、家を出ると、となりの家のよしこおばさんに出会いました。おばさんのうしろでは、『ルンルンおばけ』がルンルンおどっています。
「おはようございます。よしこおばさん、なにかいいことあったの?」
ナナちゃんが聞くと、おばさんは笑顔で言いました。
「あら、わかるー? 今日は息子が孫を連れて帰ってくるの。もう楽しみでねぇ」
よしこおばさんもルンルンおばけも、本当にうれしそうです。
小学校に着くと、まりこ先生のうしろに、おばけがいました。
あれは怒っている人にとりつく『おこりんぼうおばけ』です。
そばにいってみると、ガキだいしょうのタカシくんが、怒られています。
どうやら、はしゃいで教室の花瓶を割ってしまったようです。
タカシくんにとりついている『ふうせんおばけ』も、タカシくんといっしょにしぼんでしまっています。
いつもは、体をパンパンにふくらませて、いばっているふうせんおばけがしぼんでいるので、ナナちゃんはちょっとおかしくなって、くすっとわらいました。
その日の昼休み、タカシくんがななちゃんの机の前に立って言いました。
後ろにいるふうせんおばけは、朝とちがって、パンパンにふくらんでいます。
「おまえ朝、おれのことわらっただろ」
ナナちゃんはいっしゅんなんの事かわかりませんでしたが、すぐに思い出しました。
「なにいってるの タカシくんのこと わらったわけじゃないから」
ナナちゃんは口をとがらせて言いました。
「おれのほう見て わらってたじゃねえか」
「ちがうもん!」
ナナちゃんはがたんと立ち上がりました。
「ちょっとまって!」
突然、となりの席のユウスケくんが、立ち上がっていいました。
「ナナちゃんは タカシのこと わらったんじゃないって いってるじゃないか」
ユウスケくんは、タカシくんの前に立っていいました。
「でもあいつ ぜったい わらったもん」
タカシくんのふうせんおばけは、ちょっとだけ小さくなりました。
ユウスケくんは、みんなの人気者。タカシくんも頭が上がりません。
「ナナちゃん、タカシくんの勘違いかもしれないけど、一言だけ あやまってあげない?」
ユウスケくんは申し訳なさそうにいいました。
「……ごめんね」
ナナちゃんがそういうと、タカシくんのふうせんおばけはしゅーっと小さくなっていきました。
「いいよ、きにしてねえし」
そういって、タカシくんは、つくえからはなれていきました。
「ありがとう」
ななちゃんはユウスケくんに笑顔でお礼を言いました。
「う、うん」
ユウスケくんは急に目をそらして、もじもじしながら自分の席にもどりました。
そのとき、ふとナナちゃんは、ユウスケくんの後ろにおばけがいるのを見つけました。
でも、ぼんやりとしていてちゃんとした姿はわかりません。どこかで見たことがあるような気もします。
ナナちゃんはおかしいな、と思いましたが、あまり気にしませんでした。
ナナちゃんの知らないおばけは、まだまだたくさんいます。
しかし、その日からだんだん、ユウスケくんの様子がおかしくなってきました。
ナナちゃんが話しかけても、すぐに目をそらすし、授業中もよくぼーっとしています。
ユウスケくんのうしろにいるおばけは、だんだんはっきりと見えるようになりました。
やっぱり見たことがある気はするのですが、なんのおばけかわかりません。
おばけのせいかどうかはわかりませんが、ユウスケくんの様子はやっぱりおかしいです。
いつもの元気がなくなっています。
後ろにいるのは『コンコンおばけ』ではないから、風邪ではないようです。
「ユウスケくん、元気ないね。だいじょうぶ?」
ナナちゃんが聞いても、顔を赤くして「だいじょうぶ」と言うだけ。
もしかしたら熱があるのかもしれない。
悪いおばけにとりつかれて、病気になってるのかもしれない。
そう思うと、ナナちゃんは心配でたまらなくなりました。
その日、学校が終わり家に帰ると、おかあさんがソファーに座ったまま眠っています。
うしろには『いねむりおばけ』がいます。
「おかあさんただいま!」
ナナちゃんがさけぶと、いねむりおばけはとんでいき、おかあさんが目を覚ましました。
「あら、ナナちゃん、おかえりなさい。手洗いうがいをしてきなさい。今日のごはんはハンバーグよ。」
おかあさんはそう言うと、ニコニコしながら、台所に向かいました。
そういえば今日は、お父さんが出張から帰ってくる日です。
お父さんも、ナナちゃんも、ハンバーグは大好物です。
ナナちゃんが洗面所で手を洗いながら、鏡を見たそのときです。
ナナちゃんはおどろいて石鹸を手から落としてしまいました。
ナナちゃんの後ろには、ユウスケくんと同じおばけがいたのです。
ユウスケくんのおばけよりはぼんやりしていますが、たしかにおなじおばけです
でもナナちゃんは病気になってなんかいません。
「いったい なんのおばけなんだろう?」
ナナちゃんは首をひねりました。
それにしてもやっぱりどこかで見たことがある気がします。
ナナちゃんが不思議に思っていると、玄関のチャイムが鳴りました。
ピーンポーン。
ナナちゃんが出てみると、そこにはお父さんが笑顔で立っていました。
「ただいま。おみやげ買ってきたぞ。」
普段ならおみやげでよろこぶナナちゃんですが、今はおどろいてかたまってしまいました。
お父さんの後ろにも、あの、おばけがいたのです。
「あら、おかえりなさい」
台所から出てきたお母さんを見て、ナナちゃんはもっともっと驚きました。
なんとお母さんの後ろにも、同じおばけがいます。
お父さんとお母さんが抱き合うと、後ろのおばけもぎゅっと抱き合いました。
ナナちゃんはわけがわからなくなりましたが、玄関で抱き合っている二人と、二匹のおばけを見て、ふと気がつくことがありました。
そういえば今まで、このおばけを何度も見たことがあります。
思い出せなかったのは、どれも色が全然ちがうからです。
いまお父さんとお母さんの後ろで抱き合っているのは、どちらも水色のおばけです。
他にも、オレンジ色や青色のおばけも見たことがある気がします。
そしてナナちゃんの後ろにいるのは、ピンク色のおばけです。
ナナちゃんは、ふとあることを思い出して、お父さんの部屋にかけあがりました。
お父さんの昔のアルバムを引っ張り出し、ページをめくってゆきます。
アルバムのいろんな写真の横に、おばけの名前を書いていたのです。
ありました、結婚式のときの写真です。
お父さんとウエディングドレス姿のお母さんがうつってうる写真の横に書いてある名前は『だいすきおばけ』。大好きな人がいると、とりつくおばけのようです。
「でも、どうして色がちがうんだろう……あ、そうか。だいすきな人のおばけとおなじ色になるんだ」
ナナちゃんは手をポンとたたきました。
今まで見た、だいすきおばけは、同じ色の二匹のおばけが、男の人と女の人に、一匹ずつとりついていました。
好きな人ができると、その人と同じ色のおばけがとりつくようです。
「ナナちゃーん、ごはんですよー」
下からお母さんの声が聞こえました。
ナナちゃんは台所に行く前に、洗面所の鏡をのぞいてみました。
後ろには、きれいなピンク色のだいすきおばけがいます。
ユウスケくんのだいすきおばけは何色だったかしら……。
次の日、ナナちゃんは元気に学校に向かいました。
となりの家のよしこおばさんが、かわいい孫をだっこしています。
おばさんの後ろでは、今日もルンルンおばけが踊っています。
横にいる、おばさんの息子と、奥さんの後ろでは、同じミドリ色のだいすきおばけが、よりそってました。
小学校につくと、まりこ先生が校門でみんなにあいさつをしています。
今日はおこりんぼうおばけはいません。
「おはようございます」
ナナちゃんは元気よくあいさつをして、学校に入っていきました。
今日もユウスケくんは来てるかな。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、誰かとごつんとぶつかりました。
顔を上げると、ぶつかったのは、ガキだいしょうのタカシくんです。
また怒りだすのではないかと思って、ナナちゃんは首をすくめました。
「……ごめんな」
そういうと、タカシくんはすたすたと歩いていきました。
よく見ると、タカシくんの後ろには、もう、ふうせんおばけはいませんでした。
教室に入ったナナちゃんは、どきどきしながら席に着きました。
ユウスケくんは、となりの席で、うつむいて本を読んでいます。
「おはよう」
ナナちゃんは、笑顔であいさつをしました。
「ああ…おはよ」
かたい表情であいさつをした、ユウスケくんの後ろには、満面の笑みを浮かべて飛び跳ねている、ピンク色のだいすきおばけがいました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
数年前に書いたものをあげさせてもらいます。
けっして妖怪〇ォッチをパクったわけではありません!
ナナちゃんはかわいくて好きなので、また続きを書くかもしれません。