学生の重大案件
ゆっくりと目を開ける。カーテンで程よく加減された朝陽で目が覚めた。
柔らかな毛布に真っ白な天井。横を見ると、真新しそうな家具。
だが、その中身はなぜか少ない。と、いうよりも最低限の物しかない。
反対側に顔を向けると、長い夜色の髪を左右に垂らした少女が安らかに眠っていた。
うっ。
おいおい、顔を向けたはいいがどうすればいいんだ。
その柔らかそうな、頬に艶やかな唇。整った顔立ち。
ドキッとしてしまうのだが。
こいつ、寝顔は思ったよりも可愛いな。
少しづつ顔を近づける。これがアニメや漫画ならきっとこの後は……。
いや、これは本来夢でなければならないんだ!
起きろ、俺は未だに夢の中なのだ!
頬を強くつねってみるが。
「って、やっぱ自分でやっても意味がないか……」
そう呟くと、それが聞こえたのか、彼女が目覚めた。
ゆっくりと瞼をあげていき、その先にある澄んだ瞳が姿を現した。
「……んん? もう朝か?って、きゃああ!」
直後、俺の目の前には俺と手を繋いででいない方の腕が蒼い輝きを放ちまっすぐにって!
「おい、待て、待て! なんで、なんで」
殴られるんだ!
唯の魔法で威力をあげられた拳が顔面に直撃する。
「お、俺が何をしたって……いうんだ」
ゆっくりと意識がフェードアウトしていく。
それから、どれほどたったころだろうか。俺の意識はゆっくりと目覚めた。
「やっと目覚めたか。もう朝だぞ」
「何言ってんだ、誰が俺の意識を飛ばしたと思ってる」
殴られた部分を擦りながら起き上がる。今の頭ではこれくらいの皮肉しか思いつかなかった。きっと、あいつならこれ以上にひどいことを言うんだろうがな。
「てめえはいつまで寝てるつもりだ。ミトコンドリアの方が朝は早いぞ」
聞き覚えのあるわけのわからない罵倒の方法。
と、いうことは一人しかいないのだ。
「吉野、どうしたんだ?」
一体こんな朝早くから。いつものあいつなら、登校時間ギリギリまで惰眠をむさぼっているはずだ。
「お前、学校どうするんだ」
あっ……。
完全に忘れていた。
学生で一番融通の利かない事。
無断欠席だけはまずい。非常にまずい。
一日や二日なら誤差の範囲内でどうでもいいが、これがいつまで続くかわからないのだ。それに加えて、今の俺の状況を葵に見られてみろ!
俺は終わりだ。
葵は素直で物わかりのいい子だとは思うが、それゆえ心もものすごく純粋だ。そんな彼女の彼氏がどんな事情であろうと異性と一日中手を繋いだり、すぐそばで異性と寝ていたりしたりしているのを知ったらどう思うだろうか。
見かけはこちらに心配をかけまいと笑ってそういう事情ならと言うだろうかもしれない。だが、心では傷つくのではないだろうか。
そう思うと、やはり絶対に知られてはならないと思う。
「とりあえずは病欠でごまかすかな。後で電話しとくわ。葵にもそう言っておいてくれ」
「貸だからな」
ニヤッと吉野はこちらを見つめると、ドアを閉めて去っていった。
「いい奴だな」
唯がつぶやく。
「ああ」