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二人の居場所

「理由は分かった。――で、なんで俺のところに連れてくるんだ。このチンパン!」


 吉野が急な罵りと共に、机をバンッとたたいた。


 こうなるとは思っていたが、予想していた以上に怒っている。


 まあ、それはそうだろう。今いるのは吉野の自宅なのだから。


 そう、現在俺たち二人は手をつなぎあって吉野の家に押しかけているのである。


 それも、厄介な事柄を抱えて。


「で、お前ら二人が異質でたまたま居合わせた研究員にお前らがモルモットにならないよう、こっそりと裏口から逃してくれたっていうのはよくわかった。で、なんで俺のところに来たんだ」


 実は、芹沢さん個人のペットモルモットになることを承諾したというのは内緒である。


「いや、もちろんお前が一人暮らしで部屋が適当に空いてるっていう合理的判断のもとで……」


 大体、家に帰っても親がいる状態だ。そこへもう一人の俺とは家でも女子を連れ込むとなったら一体どう思われるか。


 まず、事情を話して信じてもらえるかが疑問である。適当なでっち上げ話だと思われるに違いない。仮に信じてもらえたとしてもどこからこの情報が洩れるか不明である。


 それに比べて、こいつならそこそこの信頼もあった。無論、親が信じられないというわけではないが、近所だとどこから情報が洩れるかわからないのだ。意図しなくとも漏れる可能性がある。


「で、俺のプライべートもろもろはどうなるんだ?」


「ほ、本当に申し訳ないが……」


 これはもう頭を下げるしかないか。そう思い、椅子から立ち上がろうとしたとき思いもよらぬところから声がかかった。


「申し訳ないが、私からも頼む。私はこんな事態など想定していなかったんだ。どうか、泊めてくれないか」


 意外なことに、彼女が頭を下げてきたのだ。気が強くて融通が利かないように感じていたが認識を改めなければならないらしい。


 さすがに女子からの頼みともなれば吉野も素直になってくれるだろ。


「彼女が、お前の」


「ああ、確か名前は」


 そういえば、名前をまだ教えてもらっていなかった。


「自己紹介していなかったな。唯だ。彩夢唯あやめゆい


 彼女の名前を聞いて、吉野は少し考えてから行動を起こした。


「――わかった。少し待ってろ」


 それだけを言い残し、吉野は奥へと姿を消した。


 二人取り残された空間。あるのは消えているテレビとパソコン。暖かい空気を吐き出し続けているエアコンだけだ。


 なんとも言えない時間が過ぎていく。こういう時間が俺は苦手なのだ。もう一人の自分とはいえ、女の子と一緒にいて話すに話せない時間。


 それに、俺はあいつをもう一人の自分だなんて認められないのだ。

夜色の長い髪に白い肌。透き通った力強い瞳。触っただけで分かる柔らかい肌。


 これがもう一人の自分だって?


 信じられるか!


 改めて横目で彼女を見ると、少し俯いているのだが、その表情は悲しそうなものではない。何か、考え事をしているような表情だった。


「ん。なんだ?」


 彼女がこちらの目線に気が付いて言葉を投げかけてくる。


「いや、いきなりこんなことになって不安じゃないのかって思ってな。俺はともかくとしてお前の世界はここじゃないだろ?」


「まあ、不安がないといえば嘘になるが、気にしてたら先に進めないだろ。それに、私はいざとなれば魔法を使ってどうにかするさ」


 彼女は自信満々の表情をこちらに向けた。だが。


「言い忘れていたが、魔力の無駄遣いは避けたいからお前の危機は自分で脱しろ」


 ああ、やっぱり。


 そんなとりとめのない会話で場を濁していると、吉野が電話を終えて戻ってきた。


 そして、唐突に言ったのだ。


「よし、おまえら。今日から俺の隣の部屋だ」


『え?』


 その時は二人の息がピッタリと重なった。


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