十七話
「食事が胃を通らない」
何たることか。あれか、こいつ実はもう一人の俺とかなんじゃなくて俺を殺すための死神なんじゃないか。来たところも魔法が使える世界とかじゃなくて地獄とか魔界とかなんじゃないか。
もう、こいつの手を離してやろうか。
俺がこう思っている間にも彼女は嬉しそうな顔で夕食を食べている。
こんな笑顔見せられたらそんなことはできん。
「では、お前の分の唐揚げは私がいただくぞ」
「あ、おいこら。俺が食おうとしていたんだぞ!」
「遅いのが悪い」
やっぱり手を離してやろうか。
「で、お前は良かったのか。自分の調査は」
「こっちに来て観光もせずに帰るのもあれだからな。それより、説得する言葉は思いついたか?」
「よ、よくもまあ他人事のように」
「他人じゃないぞ、私と思えは同じ人間だ。私にはそうは思えんというのが本音だがな」
イライラとしていた時だ。
「そういえば、風呂はどうするんだ?」
「あっ……すっかり忘れていた」
昨日は昨日で大忙し。それで風呂に入らず。
だが、二日連続は精神的にキツイ。
今までトイレはどうにかしてきた。
目隠しをしたうえで腕や足を延ばしてそのたびに体の接触箇所を変えていったのだ。
だが、風呂はどう頑張っても無理だろ!
「私は入るぞ、お前が目隠しをした上で入れば問題ない」
「いや、俺の服が濡れるだろ!」
「だったら、私が服を濡らした状態でいろというのか!」
「いや、それはまずい」
「だろ、ならば貴様が服を着たまま付き合え。狸か何かの置物だと思っていろ。自分で動かなければ何かのミスで私が手を離すことは無い」
「だからって!」
「では、これ以上の解決策を出してもらおうか」
何か、何か解決策は。
「……」
「無い様だな」
「おい、待ってくれって」
「なら、お前は私が上がった後濡らしたタオルか何かで体を拭け。その間私は目隠しをしている」
「いや、だから」
「だからなんだ?」
結局、その案に乗るしかなかったのだ。




