交わりだす世界
「……殺された」
殺されただって?
「ええ」
希望の光が消えたかのように感じた。
話を聞くと、どうやら秘密裏に持ち込んだ拳銃を使い、こちらの世界に送られてきたばかりのマモを殺したらしい。マモは女性で。犯人。つまり、女性のペアとなるはずのもう一人の自分は男。
俺たちの状況とよく似ている。
「それで、男の方は」
「消えたわ。犯行現場から忽然と。追いかけようにも消息不明だし。でも、身元は判明してるからそこからいろいろ調べたんだけどやっぱり機械の故障なんかじゃなかったらしいわ。ちゃんともう一人の自分だったみたい。それで各研究機関は大騒ぎ。もし、次に同じような症例の人が出てきたら血眼で探すでしょうね」
確かに悪い知らせだ。
一瞬でも喜んだ俺が間違えだった。
「いい。あなたたちは私が逃がしたからいまだに認知されてないし、辺りの人から見ればただのカップルとしか見られない。だけど、魔法を人前で使ったら一発で終わりよ。気を付けて」
唯はコクリとうなづく。
「それでいいわ」
芹沢さんは荷が下りたとばかりに肩の力を抜いた。
「なんか、疲れちゃった。あなたたちも何か食べる? 今日くらいはおごりでいいわよ」
先ほどと比べて、随分だらしなく姿勢を崩した芹沢はこちらにメニュー票を渡す。
その誘いに真っ先に飛びついたのは唯だった。すぐさまメニュー票を受け取るとどれが行かなと選び出したのだ。
「随分おなかがすいてるみたいね。そういば買い物帰り?」
「ええ、まあ一応」
内心ドキドキしながらそう答えた。なにせ、ここにある購入物は偽札で買ったものなのだから。
「そう。まあ何かあれば私も差し入れくらい持ていくわ」
そこからは今の生活状況についてのあれやこれやと、とりとめもない世間話になった。
そして入店してから一時間ほどで店を後にすることになった。芹沢さんは車で来たらしく店の前で分かれる。
「じゃあ、また何かあれば連絡するわ」
それだけ言い残し、俺たちとは反対方向へと向かった。
「俺たちも帰るか」
「ああ」
もう、日も落ち始めている。
通りには帰宅途中の学生もちらほらと見受けられた。
そんな中。
「レイ……君?」
聞き覚えのある声で呼ばれた。
ふっと振り向く。
そこには栗色の髪を肩までさげている少女の、いつも見慣れていた顔があった。
本来ならば、この場で一番合いたくない相手――
葵に。
今回で一日一投稿が終了します。
私の書くスピードの関係上これからは、週一回投稿になってしまいます。
筆が遅くて申し訳ありません……。
次回以降、更新は毎週火曜となります。
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では、以降も俺ヒロをよろしくお願いします。
同じ世界観で書いている夜芽時雨さんの作品『魔法世界と二重身狩り—ドッペルハンター』もよろしくお願いします。




