第18節43部ー銀狼様が愛でるものー
兎にも角にも、僕は女装をやめることに。九十九さんの好意でつけられた、偽物の耳や尻尾、長い髪が銀露の干渉によって消されてしまった。
髪はともかく、尻尾と耳はお別れするとき少し寂しかったかな。
制服は取られちゃってて、これもまた、槐さんが持ってきてくれた黒い和服に身を包んだ。
「なんだい。結局可愛らしい風貌は変わらないじゃないか」
「男は見た目じゃなく心意気で示すもんです!」
「くふふ。心意気を見せてくれるのは嬉しいが、あまり無茶せんようにの」
なんて、銀露は僕より幼い姿をしているにもかかわらず、優しい笑顔でそんなことを、少しだけ顎を上げて僕を見上げ言ってくれる。
見た目は小さくなっても、心は変わってないから年上っぽさが残ってるんだよ。
くう、生粋のお姉さんめ!
「槐さん。匿ってくれてありがとうございましたっ」
裏口から出て行く前に、僕は大きく頭を下げて槐さんにお礼を言った。
すると、槐さんは二本の猫尻尾を揺らしながら、からっと笑みを浮かべて……。
「んふふ、いいさね。働きっぷりもよかったし。真っ直ぐでいい匂いのする子だ。また来てくれたらあたしが直々にサービスしてあげるよ」
「サービス……!!」
ごくり、と喉を鳴らした僕に対して顔を寄せてきて、艶やかな唇を艶めかしく動かし、“そ、サービス”と繰り返してくれた。
「こやつはわしのじゃ。勝手にサービスするでない……と言いたいところじゃが、ぬしには世話になった。そうじゃな……千草はいかんが」
と、銀露は少しばかりお礼について考えて……むふりと笑みを浮かべ、出した答えというのは……。
「んむ。わしがぬしを可愛がってやろう。くふふ」
「なっ! そんな……っ、恐れ多いです!」
「かか、遠慮するでない。ぬしは器量のよい娘じゃ、姿が戻うたらたっぷり愛でてやろう」
銀露がそう言うと、頬を染めてしまった槐さん。え、なにその艶めいた女の顔は。
銀露が不自然に敬われてるのが不思議だったけどなんだかこの反応を見て、ちょっとだけ察することができたようなできないような……。
と、僕がドキドキしていると後ろに控えていた芙蓉さんが、ぼそりとつぶやいた。
“花魁殺し”と。
えっと……銀露は昔ここでなにしてたのかなあ。僕高校生だからわかんないや。わかんないから……。
「芙蓉さん、その言葉についてくわしく」
「わたくしも詳しくは存じ上げませんが。端的に言うと、この方が愛でられた遊女や花魁方までもが、二度と男の相手をできなくなったと……」
「……」
昔、銀露が封印される前。他の神様に対しても超大荒れだった時期に、男の相手をすれば丸くなるだろうと、銀露が半ば強引にここに連れてこられた時期があったんだって。
なのに男の相手を一切せず……美しいものや愛らしい、可愛いものを囲っていたらいつの間にかついたという異名だという。
銀露って、男からだけじゃなく、もしかして女の人からもモテるのか……?
欲張りすぎだよ!
「ひっ……非生産的だよう……」
「あなた方人間は、宝石を愛でるでしょう。それと同じことかと」
「くふう……ぐうの音もでないよう……」
だめだ……聞くんじゃなかった。頭がパンクしそうだ……パンクしてる場合じゃないのに!