第18節35部ー失礼なことー
う……確かにこれは弱みを突いてってことになるのかもしれないけど……。
いや、別にそんな下心あっての言葉じゃないから!
「ぐぅ……じゃが、まあ、悪くはない……の。わしに向かって護るなどと言った雄は今まで誰一人とおらんかったでなっ」
銀露がうつむき気味にごにょごにょとそんなことを言うと、槐さんの視線が僕に向けられたのを感じ、同時に「雄っ……!?」という短い悲鳴のような声が聞こえたような気がした……。
「へへへ、男らしいでしょ」
「たわけ! このわしに向かって護るなどという不敬な言葉を吐いたのはぬしが初めてじゃということじゃっ。わしが護られんといかんほど弱い女とぬしは言ったのじゃぞっ」
「でも今は弱々しいよ?」
「ぐぬっ……じゃから……!」
さっきまでのは、槐さんもいる前だからかあくまであがいてやったという、強がりの言葉だったんだろう。
銀露は僕にグッと近づいて、耳元に口を寄せるとささやき声で……。
「覚悟することじゃ。神気が戻るまで存分に甘えさせてもらうからの」
「ん」
そう言って、銀露は僕の胸板にグリグリと頭を押し付けてきたのだった。
僕の前では強く神らしくありたくて、でもこんな姿になってしまって。
恥ずかしくて照れてどうしようもなくてぎりぎりと歯を鳴らしながら思いっきりぐりぐりしてくる。
「たわけじゃ……ぬしは底抜けのたわけものじゃ……、この……っ」
でも、尻尾もお耳もヘタレちゃって、もう悪あがきにしかなっていない。
そんな銀露の頭を撫でてあげて、落ち着くまでそうしていると……。
「あんた、男って……ほんとかい?」
「ごめんなさい……。僕、色々とわけあってこんな格好してるんです」
「謝ることなんてないよ! いや、こっちこそ悪かったね。まさかあたしが見抜けないとは思わなかったからさ。男の相手させちまって」
「お酒注いで、お話ししただけですし大丈夫ですよ!」
すっかり落ち着いた銀露は、僕の膝の上にちょんと座って煙管を口にくわえてた。
僕がここのお仕事を手伝っていたことについては、なにも言わず大人しくしてくれている。
それより……その姿で煙管吸うのはどうかとおもうんだけども……。こんなだけど、吸いっぷりはいつもの銀露のそれだから、板についてるのがまた……。
「人の子じゃ。愛らしいじゃろ」
「人のっ……。では、もしかしてこの子が蛇姫様の求めているという」
「渡しはせんがの……多分」
あの銀露が自信なさげだ。それほどまでに、今の銀露は弱っているんだろうな。
「蛇姫様に会いたがったのはなんでだい? あんた狙われてんだろうに」
「はっきり、あなたのものにはなりませんって言いたかったからです」
「ううん、あの方が言って聞くような神様ならいいんだけどねぇ。なにせわがままだからさ」
そう言って、槐さんは苦笑いを浮かべて頰を指先でぽりぽりと掻く。