第18節32部-幼い銀狼様-
僕の腕で支えられながら銀露は少し元気が戻った声で言う。
「すまぬ千草、随分心配させたようじゃ、情けない」
「大丈夫だよ! それよりも、銀露はもう大丈夫なのっ?」
「うむ。だいぶとマシになった。旧知の仲じゃと……油断しておった。まさか黒狼のやつが……」
その小さな体を僕の支えなしでちょこんと座らせて、銀露は浅くため息をついた。
顔色も随分良くなったかな。完全に戻ってないところを見ると、やっぱり急場凌ぎなんだ。
「おいそこの、世話になる。礼を言うぞ」
「いえいえ! まさか銀狼様とお話しできるとは思いませんでした」
「名はなんという」
「槐と申します」
「ふむ、悪くない名じゃ。覚えておこう」
ここでは偉い人のはずの槐さんが光栄です、だなんて! なんだか銀露が偉い人みたいじゃないか!
「なんじゃその顔は……」
「銀露が元気になってよかった!」
「嘘じゃろ。馬鹿にしとるじゃろぬし」
「してないよ! ただ、銀露があからさまに偉い人っぽいから違和感感じちゃって」
「これ、やめんかくすぐったい」
銀露が持ち直してくれたことが嬉しくて、抱き寄せて頬ずりしてしまった。
いつもと違って小さくて可愛いから……なんだろ、背伸びして偉そうに振る舞ってるように見えてたまらなくなるんだよね。
あ、槐さんが信じられない光景を見ているかのような顔で見てる。
「難儀なことになったのう。こんな姿になったのは初めてじゃ。黒狼め……」
「神気が封印されちゃったの?」
「うむ。直接封じておるのは蛇姫じゃがな」
銀露は今、着物のサイズが合わなくて真っ裸なんだ。
掛け布団を巻いて一応隠してはいるんだけど。
なんで僕が今、それを言ったかというと……。
「おお! つるつるじゃぞ、千草」
「こら、見せなくていいから! わかってるから!」
巻いた布団を開いて、裸体を晒してくる!
ぺったんことはいかないまでも、慎ましやかな胸と相変わらずの白い肌。
目つきは相変わらず鋭いけど、やっぱりここまで小さくなっちゃうと、普段からのギャップもあって可愛らしい。
そんな悠長に話している場合でなくて……。
「銀露、子鞠と汰鞠が助けてくれたんだけど……」
「あやつらのことなら心配いらん。子鞠はまだまだ未熟じゃが、汰鞠はあれで申し分ないからの」
それに、狐の神使共も来ておったしなと続けてから、すぐ近くに置いてあった鉄扇と煙管に目をやった。
「着物がいるの。槐、ワシに合うものを用意できるか?」
「申し訳ないです。銀狼様にお貸しできるほどの上等なものはありません」
「この際贅沢は言わん。この体に合うものならなんでもよい」
着物を掛けるための衣桁に掛かった、本来の銀露の着物。
その黒を基調とした着物は、相当上等な物みたいだ。