第18節31部ー神気の分け与えー
「お米……?」
中に入っていたのは、淡く白い光を放つ生米だった。光っているだけでなく、少しばかり暖かい。
「黒狼様からもらった神気。あんたの取り分さ」
「ありがとうござ……」
「それにしても、突然なんだってんだい? 今頃黒狼様としっぽりヤってるもんだと思ってたんだけどさ。他の女たちもずいぶん羨ましがって——……」
と、寝込んでいる銀露の顔を覗き込んだ槐さんが言葉を途切れさせて、目を見開き血相を変えた。
僕はその様子をおかしく思い、どうしたんですかと声をかけながら槐さんの顔を横から覗き込むと……。
「こ、この方……銀毛狼様じゃないか!」
「槐さん、銀露の知り合いですか?」
「知り合いだなんてとんでもないよ。あたしらにとっちゃ雲の上のお方さ! しかし随分小さくなってるじゃないか。何があったんだい?」
そう言われて、僕はすぐに槐さんにさっきあったことを手短に伝えた。
特に、銀露がこうなった理由を……。
「神気の封印……。この方がそんな手に引っかかるとは思えないんだけど。実際目の前にしちまってるからねぇ」
そう言ってから槐さんは少し考え込んで、ふいに僕が持つ神気が宿ったお米の袋を指差した。
「お前さんがいいってんなら、その神気を銀毛狼様に与えて差し上げれば……急場しのぎにはなるだろうね」
「そんなことができるんですか!?」
「あ、ああ……。でも貴重な黒狼様の神気だよ。いいのかい?」
「大丈夫です! 全部銀露に……」
と、槐さんは少しこの場を離れて、木の器になみなみと水を注いで持ってきた。
どうも、この生米を飲むことで宿っていた神気を取り込むことができるみたいなんだ。
と、言うことで僕は銀露の上半身を起こして支えて、袋の縁を湿った銀露の薄い唇に当てがった。
「銀露、少しだけ口開けて……!」
「……」
銀露は苦しげに右目を少しだけ開けて、僕が何をしようとしているのかを察すると本当に小さく口を開けた。
漏れてくる吐息は熱く、じとりと湿ってる。
さらさらと、飲み込めるくらいの量を口に出してから、水を注ぎ込む。
ゆっくりと、丁寧に。
そうしてもこぼれてしまう水が僕の膝を濡らすけれど、そんなことかまってられるもんか。
それを何度か繰り返しているうち、赤みを帯びていた銀露の顔色がどんどん良くなってきた。
「これで全部……」
最後のお米を飲んでもらう頃には、上半身を支えていた僕の腕に少しだけ負担がかかるようになってきた。
あまりに幼かった銀露の体が、少しばかり成長したんだ。
それでもまだまだ幼い。見た目、14歳くらいかな……子鞠よりお姉さんだけど、僕から見たらまだまだ妹って感じだ。
「ほんとにぜんぶ飲んでもらったんだねぇ。あんたと銀狼様って、いったいどんな関係なんだい?」
「えっと、銀露は僕の……」
……と、答えようとしたところで銀露が僕の手首を握ってきた。
随分頼りない、小さい手だけれど、それでも僕はほっと胸をなで下ろした。




