第１８節２７部ー銀狼様の恐ろしさー
「少年、俺は今、かなり驚いてる」
「え……？」
「こいつが結構真面目に不愉快に感じてるってことがまずおかしい。昔なら、人の子がどうなろうが、他の神がどうなろうが知ったこっちゃないと振舞っていたこいつがだぞ。たった一人の人の子が、他の神に世話をされたからといって臍を曲げるなんてこたァありえなかった」
昔の銀露を知らない僕からすれば、今の銀露が全てなんだけど……。むしろ、昔の銀露しか知らない黒狼様からしてみれば、今の銀露は相当変わって見えるのかな。
「ふん、だからと言って、うぬに対してまで臍を曲げることはありえんぞ、黒狼。こやつは特別じゃ」
そう言って、銀露は僕の膝の上に自分の尻尾を回してきて、ふわりと置いた。
僕は反射的にその尻尾を左手で優しく押さえて、右手で毛を梳いて整えてあげていた。
その様子を見た黒狼様の瞳から、もはやハイライトが消えていた。
「な……なあ、少年。狼が尻尾を好きにさせる意味って知ってるのか？」
「僕、それしらないんですよ。銀露も初めは全然触らせてくれなかったんですけど……。最近ようやくもふらせてくれるようになって」
「もふ……？ いや、まて……銀狼、お前さん、本気で……」
「……！！」
と、そこで驚いたのは、まさかまさかの銀露だった。さっきまで僕の膝の上で大人しくしていた銀露の尻尾が跳ね上がって、僕の顎を打ったかと思うと、後ろに回ってしまった。
（ぐ……いかんいかん……気を抜いておった……！！）
「ど、どうしたの？ 銀露」
「ん、うん？ なんでもないぞ、それにしても耳までつけるとは……やけに手が込んでおるのー」
いきなり顎を弾かれた上、手櫛で梳いている最中だったからまだ僕の手はその位置で止まってしまっている。
けれど、銀露はもう別の話題に話を変えていて……。
「いいか、少年。尻尾を好きにさせるって意味はな……」
「殺す」
「ひっ」
僕は変な悲鳴を上げた。後ろの銀露の声の凄みと、殺気のせいで。
黒狼様も、耳と尻尾をピンと立てて固まってしまった。
おそらく、ぼくからは見えないけど、今の銀露の表情はも筆舌に尽くしがたいほど恐ろしいものなんだろう……。
「余計なことを言えば、うぬの山を喰らう。このことを忘れなければ、うぬの睾丸を潰す。他に言おうものならうぬの……うぬの……」
「わ、わかった！！ すまん！ もう何も言わん！！ 悪かった！！」
はっと我に帰ったかのように、黒狼様は銀露に向かって頭を下げていた。
僕は僕で怖くてぷるぷるしていたから、顎の下こちょこちょという銀露のフォローを受けることになった。
「……どんな男神も、こいつに指一本触れることができなかった意味……わかっただろ」
「は……はい」
「これでもまだ甘い方だぜ。昔はこの数倍……」
「まだわかっておらんようじゃな……」
「す、すまん」
