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第18節22部ー黒い狼の神様ー

「へぇ、ちょっと心配だったけどやるじゃないかあの子。ちょいと酔っ払いに押されてる感じはするけど。いい花魁になるんじゃないかい?」

「姉さん、あの子どこの子ですか? ウチの好みなんで引き入れてくださいよ」

「あんたまた新人囲う気かい? だめだよ、女は男の相手してなんぼだ。若いうちからそっちの道に引き込もうとするんじゃないよ」


 お、まだ槐さんが僕の働きっぷりを見てくれてる。近くにいるのはここで働く他の遊女さんかな。その人もとっても綺麗だけど、ちょっと目がギラついてるよ。


 と、お酒を注いで酔っ払った神様のセクハラやらよく分からない話やらにつき合うのにも疲れた頃、この宴席の一番端で、遊女さんも付けず大人しく飲んでいた黒い獣耳を立てた男神様からお声がかかった。


「よお、ちょいと見知った匂いがするから声かけたんだ。まあ座りな」

「あ、はい」


 黒い着流しと黒い髪。少し髪が長いのか、頭の後ろで髪を束ねたカッコイイお兄さんといった感じだ。

 黒ずくめのその狼の神様は、目つきは悪いけど話し口調は柔らかくて、接しやすい。


 あぐらをかいたその黒い狼の神様の隣に座り、お酒を杯に注ぐ。

「おおあの子、黒狼こくろう様についたようだよ」

「付き合いだからって、いつも嫌々ここに来てるのに、珍しいこともあるもんですね」


 ぐいっと顎を上げて杯の酒を一口に呷る黒い狼の神様。

 狼の神様なんて、銀露以外にいたんだな。なんだか慣れ親しんだ雰囲気を感じて、僕も気を張らずに接することができそう。


「お前さん、九尾狐のとこの神使か?」

「え、いや。ちがいますよ?」

「ほう、そうかい。たしかに奴の匂いがするんだがな。俺の鼻もバカになったか」


 そう言って、鼻を気にする素振りを見せるものだから、知り合いではありますよと言っておいた。


「はは、そうかいそうかい。なら、お前さんはただの人の子ってとこか」

「お、おおおう」

「ああ、そんな構えるこっちゃねぇ。なんか訳ありなんだろ? さっき、槐が蛇姫に使いを放ったのを聞いたからな」


 いきなり図星をつかれて言葉に詰まってしまった僕にそう言って、その神様は自分の頭の耳をぴこぴこと動かした。


「いい加減、付き合いで飲む酒にも飽き飽きしてたとこだ。槐さん!」

「はいはい、なんでござんしょ御前様」

「ちょいとこの子借りていいかい?」

「ええと……その子は」

「蛇姫絡みだろ? 使いを送ったって意味ないぜ。どこにいるのか分かりゃしねぇんだから」


 そう言って、狼の男神様は僕の腕を掴んで立ち上がり、懐から出した小さな小袋を槐さんに渡した。

 槐さんはその袋の口を開けることなく、少しばかり驚いた顔をして……。


「ええっ……。ちょお、黒狼様、その子だけでこんなにもらえんよ。ウチのいい女もう3人くらいつけようか?」

「だはは、いらんいらん。どうせここの男神達の羽振りは悪いんだろう?」


 黒い狼の神様で黒狼様か。黒狼様は他の男神達に聞こえないように、ボソボソとそんなことを槐さんに耳打ちしてから、僕の腕を引いてこの階段を降りて行った。


「あんた、ありがとね。またここにきな、これの分け前があるからさ」


 階段を降りる前に、槐さんが僕にそう伝えてくれた。それに対して、僕はぺこりとお辞儀を返すことしかできなかったけど……。


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