表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/156

第18節11部ー神主報告ー

……——。


 胸元と肩が大きく露出した黒の着物姿に、簪で束ね上げた銀色の髪。

 それに煙管を片手に歩く姿を、たとえ頭の耳や尻の尻尾がなくとも10人中が10人、振り返ってしまうような銀露が白昼堂々道を行き、神社に向かっていた。


 それは確かに無防備で、神としてあるまじき行動ではあるのだろうが、人の目に入らぬよう神気を使って周りに気取られないようにしているのだから問題ない。


「あいも変わらず寂れた神社じゃの」


 月並神社。境内のど真ん中で、薄く笑ってそんなことをつぶやいた。さわさわと葉を鳴らす木々、涼やかな風。

 そしてここまで人の声もしない神社の中とあれば、その感想も致し方ないのかもしれなかった。


 銀露は、特に遠慮することなくその境内をぐるりと回り、本殿の中へ入ってしまった。

 そこで、己の爪が刺さっている祭壇を見つけ、近寄っていく。

 ずかずかと、なんとも堂々としたものだ。


「ふむ、確かにもう破れそうじゃの。まったく、人の遺物を勝手に持ち出した挙句、ボロボロにしおって。人間というものは、まっこと恐れ知らずじゃのう」


 時間は昼過ぎ。もうそろそろ、千草の学校が終わる頃じゃろうと、どこか浮ついた心でここまで来たが、まあ、なんというか。

 代わり映えのしないここに、どこかつまらなさと、安心感が入り混じったため息しか出なかった。


「おぅ、白狐の。随分長くなるのお。どうじゃ、居心地は」


 そんなことを、祭壇に向かって言う。返答はない。だがそれで十分だった。

 封印されているとはいえ、会話くらいは交わせるはずだがそれをしないということは、まだ白狐は恐ろしいくらいに銀露のことを恨んでいるからだろう。


 お前とは話したくもない。そんなところだ。


 そんな折だった。水を打ったように静かだった境内に、砂利を踏みしめる音と人間の声が聞こえてきたのは。

 銀露の耳がぴくんと動き、それを聞きつけて本殿から顔をのぞかせた。


 見ると、中年の男性が神主を呼んでいるようだった。

 しかし、ここには人っ子一人いない。本来いるはずの、鬼灯の巫女もおらず、その言葉は虚空に消えるばかりだった。

 しかし……。


「どうしたのじゃ。ここには神主はおらんぞ」


 耳と尻尾を隠して、銀露がその男性に声をかけた。あまりに切羽詰まった様子に、放って置けなくなったのだろう。


「えっ……と、ですね」


 言葉が濁ったのは、本殿から出てきた人物が、あまりに予想外の人物だったからだろう。

 露出度の高い銀露の着物姿だと、明らかに神社関係者とは思えない。しかし、その高貴さというか、上品さからまったくの部外者とは思えない。そんな様子だった。


 ここまで走ってきたためか、それともあまりに美人な女性からの返答に泡を食ったのか、顔を真っ赤にしながらその中年男性は言う。


「あの、神主様はどこに……」

「知らん。が、わしが聞こう。随分と慌てておるようじゃからな」


 自分とは対象的に、随分と落ち着いた話し方をする銀露に引っ張られたのか、その中年男性も一呼吸おいて落ち着きを取り戻し、話し出した。


「私は水無月高等学校の教師、荒川と申します。神主様に、赤い桜が咲いてしまったと、伝えてもらえませんでしょうか?」

「……!! ふむ、わかった。伝えておこう」


 それを聞いた銀露は、先ほどまでのその教師と同じくらいの動揺をしてしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ