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第17節12部ー思い悩む銀狼様ー


 少し長く温泉に浸かりすぎたかな。伊代姉と一緒に温泉から上がって家に戻る途中、足元がふわふわ。湯当たりしたみたいだ。


 伊代姉は、頰が少し赤くなってるけど平気みたい。涼しい夜風に当たりながら家に戻った僕は、夕食の準備が整った食卓について、なんだかいつもと違う雰囲気の中ご飯を食べることになった。


 伊代姉は上機嫌なんだけど、母さんと銀露の様子が少しおかしかった。どちらかといえば、銀露の方が。疲れてたみたいだし、仕方ないのかもしれないんだけど……。

 あの食欲旺盛な銀露が箸を持つ手を少し止める場面があったりだとか、僕が話しかけても時たま返事をしてくれなかったりだとか。


「銀露、銀露?」

「うん? なんじゃ、千草」


 と、ご飯が終わって僕は銀露の晩酌の席についてきた。今日の晩酌の席は、中庭にある足湯東屋。

 日本庭園を眺めながら足湯にも入れてのんびりできる場所なんだけど……銀露はここに神酒を持ってきてずっと呑んでる。

 白い頬に少し赤みがさしてて、ほろ酔い状態なんだろう。神酒は神様を酔わせるお酒。いくら酒に強い銀露であっても、呑みすぎは厳禁だ。


「どうしたの? 銀露……さっきから様子が変だけど」

「んー? そんなことはなかろ? いつも通りの儂じゃが……ほれ」


 空っぽになった杯を僕に差し出してきた。僕はそれに合わせて酒瓶をその杯に傾けて、ほんのりと光を放つお酒で満たす。

 足元の温泉から立ち上る湯気と、そのお酒の光が混じって蛍みたいな様相を見せてくれた。とても美しくて、見惚れる光景。


 銀露がいなかったら、こんな幻想的な光景を見ることはなかったんだろうと思うと、本当に恵まれた環境にいるんだなあと改めて思う。

 父さんはいないけど……優しい家族に、狼の神様。これ以上ないってくらいの幸せを、僕は受けてると思う。


「のう、千草……」

「ん? なに?」

「ぬしは今、幸せか?」

「幸せだよ? 母さんや、伊代姉や銀露がいて、とても幸せ」

「ふむ……そうか。そうじゃな、それが一番じゃ」

「……?」

「くふふ、すまんの。らしくないのはわかっておるのじゃ。少しばかり気を落としておった。ぬしにも、この極上の酒にも失礼じゃった」


 そう言って、銀露は笑った。無理に、僕に笑顔を見せてくれたようだった。

 悲しげな目元が、僕の目に焼きつく。どうして、銀露はそんな顔をするんだろう。


「ねえ、銀露?」

「……ん?」

「銀露が、いつまで僕のそばにいてくれるのかわからないけど……さ」

「くふ、ぬしが望めば一生共におるよ」

「あはは、なんだか照れくさいなあ。そっかぁ……でも、父さんはどういうつもりだったんだろうね。僕と銀露を引き合わせて、どうするつもりだったんだろう」

「さぁの。死人に口無し、じゃ」

「銀露は、父さんに言われたから僕を護ってくれてるんだよね?」

「……ふむ、そうきたか。そうじゃが、それがどうした?」


 銀露はまた杯に入ったお酒をぐいと飲み干して、僕におかわりをねだってきた。それに答えて、また僕はお酒を杯いっぱいに注ぐ。


「銀露は、僕が望めばって言ってくれたけど……僕は銀露の意思も大切にしたいんだ。もし、銀露が父さんに言われて仕方なく僕と一緒にいるなら……それは違うと思うんだ」

「ん、まてまて、何故なにゆえそんな話を」

「ずっと祠に封印されてたんでしょ? せっかく自由になったのに、今度は僕と一緒にいることで縛られてないかと思ったんだ」

「ぬしの思い過ごしじゃ。気に入らんかったらわしはたとえ約束であろうと反故にする。所詮口約束じゃ、守る義務もないの」


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