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第17節9部-神の捨て子-

 

 ……。


 千草と伊代が温泉に行き、リビングに残った銀露はソファーに座りながら思いつめた表情を浮かべていた。後ろには千草の母、千鶴が夕食を拵えているところだ。

 聞くべきことがあるが、それについて悩むところがあった。神としての自分が人間の家族の事情に口出しをしていいものかどうか迷っていた。

 千草に感じていた違和感の正体。実のところ、銀露はそこに気づいてはいたが、確認できずにいたのだ。


「銀露さん?」

「んっ、うん? なんじゃ千鶴」

「なにか、聞きたいことがあるのでしょう。先ほどからこちらを見ては随分悩まれていますので……」

「……うむ。まあ、大方そうじゃが……の。気を悪くさせていたのならすまぬな」

「気を悪くするだなんて、そんな。私に聞きたいことがあるのなら、なんなりとお聞きくださいね」


そう言われてもまだ悩む。しかし、どこかで自分らしくないと思ったのか、ため息をついて頭をがしがしと掻き、腹を据えた。


「千鶴」

「はい、なんでしょう?」

「……千草は、ぬしの本当の子ではないな?」

「はい。そうですよ」


あまりにあっさりとした返答に、銀露は拍子抜けしてしまった。

今まで聞くべきか悩んでいたのが馬鹿らしいではないか。


「臆面もなく、よく答えられたのう、千鶴よ」

「神様になにを隠すことがありましょうか。それに、事実は事実。そして、私が……京矢さんがあの子を実の息子として育て、可愛がってきたのもまた事実なのですから……」


銀露が頑なに濁してきた違和感の正体。いや、それはすぐにわかっていたことなのだ。

千草と、その母、姉の匂いはあまりに違っていた。


「それは伊代も知っておるのか?」

「ええ」

「千草は知らんのじゃな?」

「……ええ」


伊代が知っていて、何故千草が知らないのか。その理由を銀露は問いただす。すると、思いもよらない返答が返ってきたのだ。


「ちぃ君が京矢さんの母、父方の元へ言った後、伊代から相談を受けたのです」


それも、かなり深刻に思い悩んだ様子で、今にも壊れそうな精神状態で。

伊代は意を決して母に打ち明けたのだ。


私は、千草をどうしようもなく、愛してしまっている。


そう言って、母に叱咤してもらいたかったのだろう。それはおかしいことだと。姉弟でなにを言っているのだと。

伊代はそうして、自分の中の矛盾を正して欲しかったのだろう。


しかし……。


母から帰ってきた言葉は自分が望んでいたものとは、全く違う形のものだった。


「あの子は雪の降る日、京矢さんが突然抱えてきた子です。それはそれは、驚きました。隠し子とは何事だと。うふっ、中庭に池があるでしょう?あそこに一晩放り込んで問い詰めたものです」

「……京矢も大変じゃったの」

「なにか?」

「うむっ、いや、なにもないぞ?で、なんと言いおった?」

「神様の捨て子だと」

「ほう」


そんなことを言われても、信じられるわけがない。しかも、この子を柊家の長男として育ててあげたいときたものだから、その場で卒倒しそうになったという。

しかし……。


「私の腕の中で安らかなあの子を見てると……もう、なにも言えませんでした」

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