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第16節12部ー酒の泉ー


「はぁぁぁ……」


 狐面の人が、とても長くて深いため息をついたかと思うと、山神様に何か耳打ちしたみたい。

 すると、山神様の表情はぱあっと明るくなって……。


「銀狼様、そこの人の子を少しお借りできませんかっ」

「うん? 何故なにゆえじゃ」

「きゅーびさまが最高位の神酒を汲んでいただけるということなので、お運びいただきたいのですっ」

「ぬしらの神使を動かせばよかろうが」

「その、僕等の神使達は今、遅れを取り戻そうとてんてこ舞いでしてっ」

「むぅ……どうじゃ、千草?」


 不服な様子で、銀露は僕にそう問うてきたけど……答えは決まってるよ。こんなことになった原因の一つは、僕がこの山に来たからって言うのもあるんだから。


「喜んで手伝うよ! 何すればいいのかな?」

「わぁいっ、きゅーびさま! お手伝いしてもらえっあう!」


 ものすごく無邪気に喜んだ山神様の頭を、狐面の人が強く小突いた。なんでだろ……。


「うぅ……ごめんなさいぃ。頑張って神様らしくしますぅ……」


 頭をお耳ごと両手で押さえて、涙ながらにぷるぷる震えながら狐面の人を見上げた山神様は、この部屋の襖に向かって歩き出してしまった。


「では行きましょう! 酒泉しゅせんへ!」

「しゅせん……?」

「文字通り、酒の泉じゃの。わしも見るのは初めてじゃが」


  襖を開けて、しばらく部屋を抜けた先にあったのは大きな鉄扉。ちょっとじゃそっとじゃ開かないような重厚な扉なんだけど……狐面の人が右手を一振りしただけで開いていった。

 重々しい音を立てて、木板張りの床を揺らし開いた鉄扉の向こうには暖色の狐火に照らされた階段があった。


 ものすごく幅の広い階段だ。下に続いているみたい……。狐面の人が9本の尻尾をもふもふと揺らしながら降りていったから、僕らも続いて降りていく。


 降りた先に待っていたのは、大広間の真ん中に鎮座する、青く透き通る水晶だった。

 その水晶はこんこんと水の湧き出る泉の中に立ってるみたい。


「うわ、綺麗な泉……!」

「ここが、稲荷霊山の水脈から湧き出る酒泉ですっ! すごいでしょう!」


 てててっと走って行って、まるで升を思わせる木枠で囲まれた泉の前で両手を広げる山神様。

 なんだろう……さっきからかわいいなぁ! あんな小さな身なりでも、この山を統治している神様だって言うんだからすごいよね。


「ふむ……どれ」


 銀露がその泉に歩み寄って着物の袖をまくり、右手で泉から湧き出るものをすくって口にした。

 ごくっと銀露の喉が鳴り、艶やかに吐息を吐くと……。


「……酒は酒じゃが、たいしたことないのう。神酒と呼ぶにはあまりに粗末じゃぞ」

「これはあくまで神酒の元となる素酒そしゅですよう。きゅーびさま、お願いします!」


 山神様がそう言うと、狐面の人が泉に歩み寄って……ふわりと浮いた。そこで、おおっと声が驚きの声が出たのは僕だけだった。

 神様たちにとっては特にすごいことじゃないみたいだ……。


 浮いた狐面の人は、泉の真ん中にある青い水晶の元まで行って……、人差し指に灯した金色の火を一閃。

 すると、その大きな水晶の一部が大きく切り取られたんだ。


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