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第16節7部—蛇の姫様—

 何か、生暖かくてぬるりとしたものに体を挟み込まれてる……。視界は暗転。子鞠の声も聞こえない……。

 これがどこかに向かって移動していることはわかるんだけど。もう意識も遠い……。


 どれくらいこの生臭い暗闇の中で朦朧としていただろう。ごとんという強い衝撃と共に、僕の体はこの空間から吐き出された。


「いたっ……」


 吐き出された先はとてもいい匂いのする畳の上。

 橙色の灯りが煌々と照っている大部屋の中。さっきまで暗いところにいたせいか、光に目が慣れずにくらくらする……。


「きしし。よく連れてきんした、下がってもよいぞ」


 ぼやける視界の端に映る、巨大な蛇の頭。長く細く先が二股の舌をちろちろと覗かせながら、その蛇の頭は大部屋の扉からすっと引いていってしまった。

 ずるずると、長く巨大な体を這わせてここから離れてく。


「ふむ……。やはりよい香りのする子。ほれ、こっちを見てくりゃんせ」

「え……?」


 蛇から目を離して、僕は声のする方へ向いた。そこにいたのは……。 


「きしし。驚いてしもうたかや……?」


 その女性は黒い和服……小紋かな。本当に真っ黒な小紋を纏ってる。瞳は赤くて、赤い紐で束ねた長い髪。

 獲物を狙うように細められた目……。

 口端がつり上がるほどの笑顔を見せて、その廓言葉の女性は近づいてきた。


「安心してくりゃれ。取って食ったりはせん」

「誰ですか…………。子鞠は、どこに……」

「銀狼の取り巻きならそこにいんす」


 目の前の黒髪の女性が、腕組みしたまま、ぴっと指を立てて差した先に子鞠はいた。ただし、口を縄で塞がれて、両腕と両足を……あろうことか白い蛇で巻かれて縛られてた。


「ふぅぅ……!!」

「少し大人しくさせただけでありんす。ほれ、今もなお縄を噛み切らんと躍起になっておる。狼は野蛮者ばかりかや?」


 そう言って笑う、女の人。もう一度問う。あなたは誰か、ここはどこか。


「わっちか? 他の神らからは蛇姫と呼ばれておる」

「蛇……蛇姫」

「蛇じゃ。きしし、信じられんかや? どれ……」


 うわわわわ。前かがみになってめちゃくちゃ顔を近づけてきた! なにされるんだと思っていると、てろんと。

 てらてらしたとんでもなく長く、薄く、先っちょが少しだけ二つに分かれた舌を出して見せつけてきた。

 だらしなく垂れたその舌に、粘り気のある唾液が滴ってなんだか蠱惑的……。

 赤い瞳のなかの瞳孔は縦長で、いかにも爬虫類の目って感じだ。顔にウロコなんかは見えないけど。それでも蛇なんだって印象は与えてくる。


「うわはっ」


 その、長くて鮮やかな赤色を呈した舌で僕の頬を撫でたかと思うと……。肌に這わせてするすると首に巻きつけてきた……!!

 うわ、すごい感触だ! 暖かくてぬめぬめしてて……柔らかく締め付けてくる……。

 首を一回りしたところで、その舌先が僕の唇を舐めたかと思うと、中に入ってきて……これ、まずい絵面なんだけど! 子鞠が見てるんだけど!!

 一通り口の中を堪能すると引いてくれた。いや、抵抗はしたんだけど、だめだった……。

 なんだか、意識がはっきりしなくて……。


 舌を戻して、離れた蛇姫という女の人はまるで料理の味でも吟味するかのような仕草を見せた後……。


「きししし、甘い。とても良い味よの。これでこそ、わっちが選んだ人間でありんす……」


 恍惚とした表情でそんなこと言われると、なんだか恥ずかしいだろ! なんなんだこの蛇の神様は……。

 なんで人間を欲しがってるんだろう。


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