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第16節2部—子鞠という神使—

 緩い斜面を上っていくと、山頂からなにか音が聞こえてきた。上品で繊細なつづみを打つ音だ。古式ゆかしい笛の音も聞こえて来る。暖色の狐火に照らされたこの山道の雰囲気と相まって、とても心地のいい空間だ。


「銀露、道が三つに分かれてるよ?」

「うむ。稲荷が行く道を示すでな。そのまま歩くと良い」


 稲荷。簡単に言えば、神様が使役する、狐の神使しんしのこと。お稲荷さんって、神様自体を指す言葉じゃないんだよね、確か。


 三本に分かれた山道、その入り口にそれぞれ、小さな狐たちがお座りしてた。黄金色の綺麗な毛並みを持つ三匹の稲荷達、その真ん中の子がすっと身体をどけて道を開けてくれたんだ。


「あ、真ん中なんだね。この道の分け方って、行列の整理なのかな?」

「おおむねそんなところじゃが……。右の道は神格の低い者、左は凡な者、そして中央は限られた神格の高さを持つ者と、その神使が通ることを許されておるのじゃぞ」

「お、ということは、銀露は……」

「銀狼さまとてもすごい……」


 小さな鞠を抱えた子鞠は、僕たちの歩幅に合わせるためにせわしなく足を動かしながらそんなことを言う。……ていうか、子鞠の声が可愛すぎてもう、一声聞くたびにニヤニヤしてしまう僕がいる。

 明らかに早いぺたぺたという足音も微笑ましいし、少し歩く速度を落とそうとすると大丈夫だからとでも言うように尻尾で僕の腰をうんうん押してくるのもいじらしい。


「子鞠は銀露の事好き?」

「だいすき……!」


 話を聞くと、子鞠は銀露に人の言葉を教えてもらったり、人の姿での立ち振る舞いを叩き込まれたりしてるみたい。


「汰鞠と子鞠は大切な神使じゃからの。こやつらの親の親の代から儂が面倒見ておるのじゃ」

「子鞠の親かあ。迷い童たちを運ぶ時に来てたのかな?」

「こまの……かあさま、とおさま……もういないの……」

「あ……そう、なんだ。ごめんね……」

「銀狼さまと姉様がいるからさびしくない……?」

「んん、なんで疑問系なのかな?」


 そう言うと、子鞠の尻尾が僕の左腕にさらりふわりとまとわりついた。


「こまね……あにさまとおはなしできて、うれしい……」


 うはあ、こいつう! あーもーかわいいなあ。だっこしてあげたくなるじゃないか……。


「随分ぬしのことを気に入っておるようじゃのう。迷い童の件で他の狼たちもぬしのことは見直しておったが」

「そうなんだ。あの時は僕も必死だったからなあ」

「あにさますごくいいにおい……いいひとのにおいする……」


 そんなことを言いながら、僕の腰あたりに鼻を近づけて匂いを嗅ぐ子鞠。

 いい人に匂いなんてあるのかな。狼は鼻がいいはずだし、変な匂いじゃなくてよかったとは思うけど。


「こまくさいひときらい……」

「臭い人?」

「うん……すごくくさいひと、かあさまととおさまを……」

「子鞠。あまりその話をしてはいかんと言ったじゃろうに」

「……ごめんなさい、銀狼さま」


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