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第15節9部—稲荷霊山、入山—

「なにか知っている風な様子じゃの?」

「顔も見ていないくせに何を言い出しますかこのクソ狼は……」

「カマをかけただけじゃ。うぬは昔から、何を考えておるか掴めん奴じゃからの。さすがは狐といったところか」

「思ってもないことを言いやがりますね……」


 いたずらな笑みを浮かべる銀露と、狐面のせいで表情こそ読めないがあきらかに不機嫌そうな九尾の狐人。銀と、金の神は仲が悪いようだ。


「……あなたも霊山廻りですか」

「うむ。入り口はもう少し上かと思っておったが、違うようじゃの?」

「今季は数えて400段目の松の木の下ですよ。もう少し下です、間抜け」

「……」


 間抜けの一言に、銀路の笑みがひきつってしまう。


「それと、今回はやめておいたほうが懸命ですが?」

何故なにゆえじゃ」

「蛇が悪さをしているようですから。私がいとまを離れてわざわざ様子を見に行くくらいにはこじれちまってるみたいです。まったく、役に立たない山神め」


 吐き捨てるように、その言葉を言った狐面の女性はころんと下駄を鳴らし、階段を下りていく。

 銀露の横を挨拶もなく通り過ぎ、銀露はしばらくその蛇に考えを巡らせながら煙管を吸い、燻る火皿を銀色に発光させた。


……——。


「はあっ、はあ……ふう……」


 もうそろそろ追いつくといったところで、僕は上から降りてきていた狐面の人と鉢合わせることになった。狐面の人は、その場で止まってぺこりと上品に会釈すると、するりと僕の隣を抜けて階段を下っていってしまったけど。


「うわ、すごい綺麗な髪と尻尾だな……。尻尾もふもふだ……9本あるんだ」


 あんなボリュームのある尻尾が9本も……重たくないのかな。なんて思いながら先を急ぐと、銀露も降りてきてた。どうしたんだろ。


「もう少し下のようじゃ」

「下なの!? ここまで登ってきたのに……」

「ここは600段目の九十九折つづらおりじゃ。200段は降りんといかんの」

「ええ……」


 そうして、僕と銀露は400段目のところまで来た。銀露が言うには400段目の松の木の下なんだって。

 下っている途中で、あの狐面の人のことを色々聞いたんだけど……。あの狐さんが、本来のこの山の持ち主なんだってことはわかった。

 もともとはここも銀露の山だったらしいんだけど、このお寺が出来た頃くらいに渡したみたい。


「うむ、ここじゃここじゃ」


階段横に植わってた大きな松の木の下。そこには何もなかったんだけど……。


「よいか、手を離すでないぞ?」

「うん、わかった」


 そのまま、その松の木へ向かって直進。もうぶつかる……というところまで来ると。急に辺りが暗くなった。まるでスイッチを使って電気を消したみたいに。


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