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第15節8部—金色、狐面の人—

 九十九折つづらおりの石段は、気が遠くなるほどの段数を誇ってる。登れども登れども、頂上は見えてこないけれど、目的は頂上じゃないんだよね。

 僕はもう息を切らせて、視線を足元に登っている状態なんだけど……一方の銀露はというと。


「もういかんと思ったら言うのじゃぞ? おぶって登ってやろう」

「だっ……大丈夫だから……!!」


 汗ひとつかかず、平然と登ってるんだもの。銀露の体力は無尽蔵だな……。僕だって、昔は軽く登ってたような気がするんだけどなぁ。体力落ちちゃったんだな。


さすがに背負ってもらうのは男としてどうなのよって思ったから、頑なに拒んではいるけど……う、この余裕を見てると甘えたくなるぞ。


 そこから、学校での話をしながらひたすら登っていると……どんどん銀露の表情が険しくなっていって。


「おった」

「え、誰が?」


九十九折の一つ上を見上げると、誰かがいた。誰かっていうか……。間違いなく、現世の人じゃないのがいた。

 赤色に金色の刺繍を施した、綺麗で豪華な着物と……金色の長い髪、狐の白面。

 そこまでは、人としての特徴だ。人でない部分というのは……。


 お尻から生えた、ふさふさもふもふとボリュームのある金色毛の尻尾……が、複数。頭には狐を思わせるピンと立った獣耳。

 よく耳をすますと、石段を降りるたびにころん、ころんと下駄が鳴る音がしてた。


「あ、こっち見た」


……と、思ったら下駄をはげしく鳴らして石段を駆け上がっていく狐面の人。


「逃がすかたわけめ」

「うわ!!」


 一息。本当に一息で銀露はそこから跳躍すると、階段を無視して、九十九折を縦に割るように登って、逃げるそぶりを見せた狐面の人のところへ行ってしまった。


「ちょっ……銀露、まってくれよー!!」



僕がそんなショートカットできるわけもなく。急ぎ足で石段を登って追いかけることしかできなかった。

 てか、銀露そんなことできるんなら僕がいない方が早かったんじゃ……。


……——。


「顔を見るなり逃げるとは、失礼な狐じゃのう?」

「!!」


 下から跳び上がってきた銀露はすとん、と、狐面の女性より上の石段へ降り立った。

 見下ろす狐面の女性はしばらくあたふたしていたが、すぐに諦めため息をついたようだ。


「久しいですねぇ……銀狼。できれば永遠に顔を合わせたくはなかったですよ」

「かかっ、そう構えずともいじゃろ。儂もずいぶん丸くなった。虐めはせんから安心せい」


 口元ではとんでもなくいい笑顔を浮かべ……だが、目は笑っていない銀露は煙管を胸元から出して、指先に灯した銀色の炎を火皿に落とした。


「稲荷霊山の長がなぜうつつに出てきておる? 暇かぬしは」

「ここしばらく、霊山の管理は山神に任せているんですよ。私は休暇中です」

「ここしばらく? 何年じゃ」

「30年ほど……」

「30年のう。まあそれくらいの期間ならばまったく問題なさそうじゃの」


 常人不在の弊害。神々にとって30年など大した時間ではないのだ。なんのツッコミもなく話は続く。


「あなたこそ、何故現世に存在しているのです。山にこもっていればいいものを……」

「呑み仲間との約束でな。しばらく一人のの面倒をみることになったのじゃ」


 そう言った銀露に、狐面の女性は返答しなかった。しかし心の中で……【それが、柊千草君……というわけですか】と、つぶやいた。


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