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第15節5部—狼が山を歩けぬ筈がない—

 浮かれる僕とは対照的に、銀露はそこまで乗り気じゃないみたい。

 なんでも、行列に並ぶのが面倒くさいらしいんだ。いや、行列を作ってるところに行くんだから、行列に並ばなきゃお酒はもらえないんだろうけれど……。

 今までは汰鞠とかの、自分に仕える神使に行ってもらってたんだって、でも今回は……。


「せっかく百十数年ぶりに出歩けるのじゃから、他の神共に顔を見せんとな。ぬしの顔見せも含めての」

「顔見せ? なんのために?」

「このには手を出すなと、示さねばならんじゃろ?」

「そんなの示す必要が?」

「ある。死角の世に出入りする人間というのは、魑魅魍魎ちみもうりょう、果ては神にまで目をつけられる可能性があるのじゃ。存在が曖昧の者は、確固とした生、力に惹かれるからのう」


 それに、ぬしは特別じゃからの……と、ぼそりと呟いた銀露。

 僕が特別っていうのはどういった意味なのか。銀露にとっての特別なのか……それとも。


“誰にとってというわけでなく、僕自身が特別なのか”。


 父さんが、三年間という期間、僕を東京に送った理由ははっきりしていないんだ。でも、ただ一つ知っていることがある。

 その三年間、僕はこの町にいてはいけなかったということだ。父さんにはそう言われたような気がするんだ。


「死角の世の恐ろしい側面……かあ。汰鞠に言われたな」

「あやつらはまだ生を受けておるからの。死角の世を行き来することはできるが、住人ではない。力を持っておるから多少のことは問題ないのじゃが、それでも危険は及ぶ」


 稲荷霊山って資格の世にあるんだから……そこに汰鞠を行かせていたという意味は、僕が想像するよりもはるかに難しいことなのかもしれないな。

 てか、それほど銀露はそこのお酒が呑みたかったわけだ……。

 酒瓶割っちゃってからの罪悪感がさらに上乗せされた気分だな。


「酒瓶割っちゃって本当にごめんなさい……」

「かかっ、よいよい。どうせ少量しか残っておらんかったしの! 話し相手欲しさに、ぬしを霊山へ連れて行こうとしておるわしも大概じゃ。お互い様じゃろう?」


 そうして、僕と銀露は二人してお出かけすることになった。

 山に登る……という話だったから服装も登山用に近づけたほうがいいのかと思ったんだけど。銀露曰く。


「稲荷霊山は神気に満ち溢れた神域じゃ。体が疲れることはまず無いでな」


ということだった。と、いうかその後の言葉が驚きだった。


「人間は山一つ登るのにそんな大げさな格好をする必要があるのかの? 身一つで十分じゃろうに、情けない」

「そりゃ銀露はいけるんだろうけど! 人間はそうはいかないの!」

 

 銀露と山を下ったからわかるけど、山の歩き方というか、コツというものどころでは済まないスキルを銀露は持ってるからな。

 さすがは狼だっただけあるんだよね。


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