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第15節3部—入学式終了—

 生徒会室で一人思案する九十九稲荷は、窓の外に見える生徒の行列を見下ろした。

 卒業式が終わり、家に帰る新入生の列だろう。難しい顔をしていた彼女も、それを見て和やかな表情を見せた。


「ふふ、今年もたくさん入学してきましたねぇ。去年よりも賑やかな学園にしていただければ嬉しーのですが」


 その列の中、偶然視界に入った愛らしい男の子に目線を合わし、高鳴る鼓動、口角を上げて笑みを作り……。


「柊伊代の弟にして、柊京矢の置き土産ですか。ついつい悪戯したくなっちまうです。くひひ、いけませんいけません。今の私は学舎の生徒会長なのですから、模範にならないと」


 ……などとは、これっぽっちも思っていない悪戯な笑みを浮かべながら……生徒会記録帳へ、筆を走らせるのだった。



 そして、生徒たちの列の中、母と姉、そして友人である羽間一真を連れて校門を出た千草は……。


……——。


「お写真たくさん撮りましたからねぇ、ちぃ君、一真君」

「ありがとー、母さん」

「俺まで撮ってもらって申し訳ねぇス。あざす」

「いいのよぉ。一真君のところのご両親、来れないんだからぁ」

「来れねぇっすね。緊急の仕事入ったみてェなんで」


 みんなでワイワイ帰宅中。母さんは今日にお仕事の休みを合わせてくれて、伊代姉は個人的に僕の入学式に来てくれたんだ。

 一真の両親は、難しい仕事をしてる人達らしいんだけど……一真に教えてもらったことは一度もないんだよね。恥ずかしいから嫌だって言って、もう。


 しかも一真の奴、式が終わったかと思うとふらっと行方くらまして、次に教室で会った時には右目にアザ作ってたし。

 理由を聞いてみると……。


【ンの野郎に喧嘩売られてなァ】


 だって。ンの野郎って誰だよ。なんだか気にくわないことがあるとすぐこれなんだ……。喧嘩っ早いのは相変わらずなんだよね。

 ぶっきらぼうで乱暴なとこあるけど、根はいい奴なんだよ? ほんと。


「ご両親残念ねぇ」

「たいして気にしてないですから。曲がりなりにも俺に飯食わせるためのもんですし。来られたら来られたで面倒で」

「親は、子供の晴れ姿を見たいものよぉ?」

「ンなもんですかね。あんま深く考えたことねぇんで」


 一真は、母さん独特のゆったりとした雰囲気はどうも苦手みたいで、どこか恥ずかしそうに目を逸らしてる。

 で、伊代姉はというと……。


「えへ、制服姿の千草かわいいー。ねぇ、ハグしていいかしら、ハグ」

「帰ってからにしてよ!? ちょ、ダメだって!」


 自分のスマートフォンで制服姿の僕をもう……メモリ満杯になるんじゃないかって勢いで撮りながら身体的接触を躊躇なく……。


 伊代姉……今日来てる他の同級生からどんな目で見られてるか自覚してるんだろうか。

 まるでUMAでも発見したかのような目線を集めてるんだよ。そこんとこわかってるのかなぁ。


「お前の姉貴相変わらずだな、オイ」

「うう……見てよ。周りの視線……恥ずかしくて死にそうだよ……」


 ぼそりとそう言った一真は、伊代姉に抱きつかれてあっぷあっぷしてる僕の手荷物を自分から持ってくれて、どこか呆れたようにして歩いてた。


 でも、伊代姉は猫なで声から突然真剣な声になって、抱きつきがてら僕に耳打ちしてきたんだ。


「あんた、あの生徒会長……九十九稲荷つくもいなりにだけは気をつけておきなさいよ。今も視線を感じたわ」

「……え?」

「式であんたが注意された時、どこか違和感あったのよ。他にもあんた達より大きな声で話してるような奴がいたのに、稲荷はあんたを指差して咎めたわ。これは私の勘だから、聞いていて損はしないわよ」


 そう言って、僕から離れた伊代姉はスマートフォンで撮った僕の写真を眺めて。


「あの生徒会長は、この学校で一番敵に回してはいけない人よ。いい? 目をつけられたら私に言うこと。なんとかしてあげるから」

「う、うん……。でも、生徒会長が僕に目をつけるなんてことが……」

「あれ、あんたみたいな男の子すぐ手ェ出そうとするから」

「ええっ」


 なんだそれ! 大丈夫なのかそれ! 視線を感じた発言といい、なんだか怖いなぁ……。名前がかなり独特だし、金髪だしでなんだか不思議な人だなあとは思ってたけど……。


「あ……、あとあれの近くで胸の話はしないこと。これ守らないと顔思いっきり引っ掻かれるから気をつけなさい」

「顔を引っ掻かれるの? 痛そうだな……」

「美哉は一度矯正されてるわ」

「美哉さん……顔を引っ掻かれるどころじゃなかったんだ……」


 美哉さん……弓道部で伊代姉と仲のいい猫の人。あの人すごくお調子者っぽいからなぁ。


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