20節ーデートー
……。
「……? なんですか?」
「い、いや……すごく綺麗だなと思って。見惚れてしまって」
「ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」
いつも見ていて思っていたことだが、やはり柊さんは筆舌に尽くしがたいほど美しい。
特に今は普段と違って浴衣姿で、髪も束ねて上げてうなじが露出している。
雰囲気が違っていつも話している感じで話せない……何を緊張してるんだ、僕は。
結局うだうだとどう接したらいいか考えてるうちに夜店の並びを一周してしまった……先輩らしくリードしてあげようと思ってたのに情けないな……。
「先輩、私すこしお腹すいてるんで人形焼食べていいですか?」
「あ、うん。お金出すよ」
「いえ、お金は持ってきてるんで大丈夫です」
まあ予想はしてたけどにべもない感じであるな。
正直この感覚は初めてではある。
一応、自分が異性にモテるっているのは自覚しているし、大抵の女の子は僕に対して愛想よく接してくれる。
だから柊さんの僕に対しての態度って結構新鮮だったりするんだけど……いかんせんそれに対する対応の仕方をわかってないんだな。
「先輩も食べますか? 私一人じゃ食べきれないので」
「お、そうなのかい? じゃあもらおうかな」
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
一応気は遣ってくれてる……のか?
うーん、やっぱり柊さんの気持ちが全然わからない……。
柊さんは美味しそうに人形焼を口に運んでのみこんで……。
「うん、おいしいわね」
「おいしいね、確かに」
「たまにぱさぱさしたもの売ってるところもあるから、これは当たりですね。」
表情を綻ばせる彼女がかわいい。
いつも鉄面皮でどこまでもクールな彼女の意外な一面を見てるようで胸が高鳴った。
(ふふ、千草にも残しておいてあげようかしらね。あの子もカステラ大好きだし……)
「柊さんは人形焼が好きなのか」
「……? ええ、まあ……私より弟の方が好きですけれど。温かいうちに食べさせてあげたいですね」
出た。弟君の話。
周りから聞いてて知っているんだけど、彼女は随分と弟に入れ込んでいる節がある。
彼女と弟君のやりとりも見たことがあるけれど、随分と態度が柔らかかった。
「柊さんは弟思いなんだね」
「ええ、まあ。素直で可愛い自慢の弟ですから」
「へえ、気になるな。詳しく聞いても?」
「聞いてどうするんです? 弟にちょっかい出すつもりですか?」
「いやいや、そんなことは……」
「言っておきますけど、あの子におかしなちょっかい出したら先輩といえど許しませんよ」