20節-敬語
鬼灯の巫女の霊的な力が鬼灯さんの前々代からどんどん弱っていってて……鬼灯さんから夜刀に力を分けて欲しいと頼みに行ったんだって。
で、案の定ただでは分けてもらえなくて夜刀に協力することになった……ということみたい。
「そういう経緯があったわけです。彼女も君に意地悪したくて夜刀姫の味方をしていたわけではねーのですよ」
「そうだったんだ。そういうことなら仕方ないね……」
「仕方なくはねーです。君が危ない目にあったのですからガツンと怒らないと!」
「あははっ。気が向いたら文句の一つくらいは言っときます」
鬼灯さん自体に悪意があったわけじゃなかったからよかった……。
あとで夜刀にはガツンと言っておこう。
「知りたいことはちゃんと知れましたか?」
「うん、ありがとうございます、稲荷さん」
「ふふ、いいですよこれくらい。で、情報料ですが」
「情報料取るんですかっ!?」
「当たり前じゃねーですか。この世にもあの世にもその間の世にもタダより怖いものはねーですよ?」
いたずらな笑みを浮かべて稲荷さんは嬉しそうに言った。
この狐さんめ、初めからその情報料を取るために僕に近づいたのか!
稲荷さん……正直人のこと言えないよね、たぶんこの人が一番狡猾なような気がする。
「僕そんなお金持ってませんよ?」
「ふふー、お金なんていらねーですよ。千草君にしてもらいたいことがあるんです」
「してもらいたいこと?」
「そう。これは神さまとの取引ですから、結構な強制力があったりします。いいですか?」
ええ……なんかすごく怖くなってきたんだけど!
大丈夫かなぁ、というかもう首を縦にふることしかできないんだけどね。
僕がごくりと生唾を飲み込みながら首を縦に振ったのを見て、稲荷さんは人差し指を僕の鼻頭に持ってきて……。
「今後私には敬語をつかわないこと! よろしいですね?」
「えー! なんでーっ? 目上の人には敬語を使えってばあちゃんが……ってあれ?」
なんか自分が言った言葉にすごい違和感を感じた。
敬語を使って話したつもりだったのに全然敬語になってない!
「稲荷さん、もしかしてこれが強制力ってやつ?」
「そういうことです」
「えー!なんでそんなこと!」
「銀狼や夜刀姫にはタメ口なのに私だけ敬語ってなんか仲間外れにされてる気分だったんですよねー」
なんてこった!
普段から一番敬語使ってる人にそれを言われるとは!
「それに千草君は敬語じゃない方が声に丸みが出てかわゆらしいんですよ」
「んんん、敬語とそうでないかで声を意識したことってあんまりないんだけど。もうちょっと親しくなってからなら臆面なく使えたのにー」
「ふふふ、やっぱり敬語じゃない方が可愛いです」