20節—姉たちの舞踊—
ふわふわとした様子の僕を夜刀は優しく舞踊の舞台まで連れて行ってくれた。
今わかったけど、夜刀って意外と面倒見がいいんだ。
見た目からしてちょっと幼いところがある神様なのかなって思ってたけど全然そんなことない。
特に今は大人の姿だし余計そう思うのかも。
「ほれ、つきんした。ほれ、しゃんとせーしゃんと! 男の子じゃろが!」
「んへへ、夜刀がお姉ちゃんみたい」
「阿呆、わっちゃあお前様より数百年お姉さんじゃ! これ腕に抱きつかんでくりゃれ、可愛らしいの! あの雌犬が飢えるのもさもありなんじゃな!」
なんか夜刀がずいぶんわたわたとうるさい……。顔真っ赤っか。蛇の姫様ってこんな顔するんだってなんだか面白くていろいろ話してたんだけど……。
でもしばらくしてぽやっとした僕の思考がきゅっと引き締まった。
鬼灯さんが奏でる和笛に合わせて器量好しの美女3人が舞台に上がってきたのを見たからだ。
大胆に方やお腹を露出させた巫女服を赤い縄でまとめた舞踊衣装を着た詩織さんと美哉さん、そして伊代姉。
その舞踊を見に来ていた観客のみんながその美しさにそれぞれの感嘆の声を上げている様子がなんだか誇らしかった。
お化粧をしているのもあるんだけど、3人とも本当に綺麗だ。
一人は男だけど……。
「ほう、流石じゃの伊代は」
「んむ、見に来たのかや発情狼」
「少しすっきりしたからの」
銀露は舞踊を見てだらしなく惚ける僕の頭を撫でてくれていた。
すっきりしたのはあれだろうな、さっきのちゅーでなにか発散できたんだろうな。
和笛のゆったりとしたリズムで踊る三人を見ていたんだけどふと周りを見渡すと最前席で随分熱心に見てる人が目に入った。
伊代姉一人に対して熱烈な視線を送っていたその人は……あれだ、弓道部の部長さんだ。
えっと確か名前は神谷先輩だっけ、多分隣にいるのは男友達だろう。
一緒にお祭りに来てこの舞踊を見に来たんだ。
「随分と姉君にご執心のようでありんす、あの男」
「ん、あの人伊代姉のこと好きみたい。かなり苛烈なアタックを受けてるって伊代姉言ってたし」
「受けておるのに番にならんのかや?」
「つ……つがいって……。伊代姉はあんまり乗り気じゃなさそうだったな。神谷先輩はいい人だと思うし格好いいんだけど」
と、そこで踊ってる伊代姉と目が合った。
ずっと真面目な顔して踊っていたはずの伊代姉の表情がふにゃりとほころんでにやけそうになってる。
すぐに気を取り直してきりりとした顔にもどったけど、僕が手を振ったらまた表情がほころんで踊りながら小さく手を振り返してくれた。