第20節ーお酒臭いー
「似合ってるわよ、千草」
「嬉しいけど複雑な気分だよ……」
「超かわいい」
「ありがと……」
言って、携帯のカメラ機能を再びパシャりと。まあせっかく着付けてもらったんだし一応それらしいポーズも取っておいた。
小さい頃は当たり前のように女の子用の浴衣着てたし、最近では桃源郷で遊女の格好になってたしで変に慣れちゃって抵抗あんまりない……。
「あんま見世物にしてやるんじゃねぇぞ、姉貴」
「わーかってっし」
ほほお、きたきたと伊代姉から送られてきた僕の写真を見て言う葉月さんに、そう一真は言ってた。
「ありがとね一真くん、いつも千草の面倒見てくれて」
「大丈夫ス。別段何してやってるってわけでもねぇんで」
いつもぶっきらぼうな一真も伊代姉には頭が上がらないみたいで常に礼儀正しい。
僕は知らないんだけど、中学生の時とかよく伊代姉に助けてもらってたみたい。主に喧嘩関係のことだろう。
「もうちゃんと男モノの浴衣着るからね」
「はいはい、ほらこっちおいで。あんたらは出ていきなさい」
「うにゃ、伊代にゃんだけ弟君の生着替え見れるとかズリーにゃん」
「私はいいの、身内なんだから」
僕が着替えるときは葉月さんと美哉さんは外に出される。
残るのは伊代姉と一真と……。
「……」
「なぁに?」
詩織さん。
いや、詩織さんは厳密に言えば男なんだけど……なんていうか嗜好がわかりづらい人だからか伊代姉は警戒してるみたい。
「男ぉー」
「わかってるわよ。ややこしいわね」
僕は浴衣を脱いで伊代姉に本来着るはずだった僕の浴衣を着せてもらった。
落ち着いた藍色の浴衣で、母さんが懇意にしてる呉服屋さんであつらえてもらったんだって。
母さん着物にはほんとこだわるからなぁ。
浴衣なんて安いやつなら数千円であるのに……。
「髪もちょっとまとめて上げれば少しは男っぽくなるかもぉ」
「無理して男らしくなる必要ないと思うけど」
「やって! 男らしくやって!」
「千草がそうして欲しいんなら仕方ないわね」
せっかくだし男らしくしてもらおう。
銀露に見せたらなんて言ってくれるだろう。
お祭りが本格的に始まる時間までしばらく時間を潰して……。
……。
「うわ! 銀露お酒くさ!」
「おお、待ちわびておったぞ」
もうすでに日が沈んで夜店に光が灯り、次々と浴衣姿の町民たちが来ているというのにおじさんたちと飲み続けていた銀露は多少頰を紅潮させながら杯を上げた。
「うへへへ、弱い男しかおらんではないかやぁ。もっと酒持って来やんせ!」
「うわぁ……夜刀は完全に出来上がってるな……」
一升瓶を片手で持ってそのままぐいぐい呑んでる……さすが蟒蛇……。
銀露と夜刀を囲んで飲んでたおっちゃんたちは残らずぐでんぐでんだ。
「くふふ、随分雄らしく仕上がっておるの。うむ……よう似合っておる」
「ありがと。ほらもう銀露、着物乱れてるから。おっぱい見えちゃうよ」