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20節ー祭り前酒盛りー

「ふぅ……おわったおわった。千草寝ちゃってるの?」


「うむ。よう寝ておる。随分疲れておったようじゃしの」


「ほんとこの子は……。寝顔ほんと可愛いわね、もう」


 舞踊の稽古が終わったのであろう伊代がまっすぐこちらに来て、儂の膝で寝ておる千草の顔を覗き込む。

 伊代は賢くいつも冷静で感情をあまり表に出さない子じゃが千草を前にすると見る影なくなるの。

 表情がここまで緩むと可愛らしい少女のようじゃが……その緩みを引き締めようとし複雑な表情になるのもまた愛らしいのう。

 伊代は千草の餅のような頰をつつきながら……。


「千草—、そろそろ起きないと屋台始まっちゃうわよ。浴衣に着替えないとでしょ」


「ぅぅ……浴衣ぁ……?」


「そ、ほら起きなさい」


 千草はまだ眠たげじゃったが伊代の呼びかけで起き、ふらついたところを抱きかかえられておった。


「やわらかあったかい……」


「胸に顔埋めないの。着物乱れちゃうでしょう。ほらおいで、着付けてあげるから」


「僕自分で着れるよー? そんなに難しくないし……」


「いいからいいから、ほら」


「んん……銀露僕行ってくるねー」


「うむ、ぬしの浴衣姿楽しみにしておるぞ」


 小さく手を振って伊代に連れられ行った。

 その後ろから一升瓶を掴んだ蛇姫がこちらに向かって走ってきおったが……。


「おい、銀狼! この酒美味いのじゃ!」


「みっともないのう。走るでないわ」


 ほとんど投げつけるように杯を渡してきたと思うたらすぐに酒瓶を傾けて注いできおった。

 こやつ……すでに結構吞んでおるな。


「有名どころの日本酒と言うが、わっちゃああまり呑んだことのない味でありんす」


「ふむ……」


 香りよく、口当たりが良く、喉の通りがよい。

 何より澄んでおり水のようにいくらでも飲めそうじゃの。

 最近の醸造技術は高度化しておると聞いておるし、昔の酒とは一味違った酒が多い。


「儂はもう少し辛口が好きじゃが……いけんこともないの」


「ふるーてぃーな味わいが売りじゃと言っておりんした。果実酒でもないのに不思議じゃ」


 ちなみに神酒はひたすら辛口じゃからの。儂の口には合っておる。

 蛇姫は感性が童じゃからの、こういった甘口の酒の方が本来合うのじゃろ。


「おっと、またえらい別嬪さんがいるじゃないか!」


「やとさんも相当な美人だがこの姉さんも負けず劣らずの美人さんだな! こんな美人がこの町にいるなんて聞いてないぞ」


 蛇姫め……結構な数の酔っ払いを連れてきおって!

 おそらく先ほどまで共に呑んでおったのじゃろうが……。


「言っておらんからの」


「ぷはぁ……きさんらの奥方を嫉妬させても困りんす」


「おお〜、言うねえお嬢さん!」


 なにを調子に乗って遊んでおるのじゃこの遊女上がりは!

 くう……しばらくここに釘付けになりそうじゃな……まあ酒がたらふく飲めると思えば酔っ払いの相手など安いものか……。


 


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