20節ー魑魅魍魎に好かれる子ー
銀露は夜刀と一緒にすごい重たいところをやってくれたあとは木陰で僕があくせく働いてるところをどこか楽しそうに眺めてらっしゃる。
……。
「くふふ、働いておるのう」
「おい銀狼、さっきから気味が悪いでありんす」
「千草の働く姿が尊くてのー。よう汗を流しておるわ、愛らしいのー」
(なんじゃこの狼、乙女じゃあるまいし……。かつて荒神とまで言われた神が見る影もないのじゃ)
「のう、何か申したいことがあれば申してもよいのじゃぞ」
「申しても痛いだけじゃもん」
「少しばかり賢くなったの」
……おお、千草が手を振っておる。はあ……愛らしい。わしにすらもったいないと思わせるほどにあやつは良い男の子じゃの。
隣におる蛇女の毒気など全く気にならんほどあの子の一挙一動に目を奪われてしまう。
……正直この体たらくでは何を言われても文句は言えんの。
手を振り返してからの千草の笑顔といい……いちいち意識してしまう。熱に浮かされているような気分じゃ……。
「時代は変わっていくとはいえ……祭の日の空気は変わりんせんの」
「うぬの治める土地でも行っておったのじゃな」
「もちろんじゃ。まあ……はるか昔のことでありんすが……。後には良い思い出はなくて思い出したくはないのじゃ……」
「わしも似たようなものじゃの……」
長くこの世とあの世の狭間に居れば当然見たくもないことも見る機会が山ほどある。
今では考えられんほど恐ろしいことをしでかすことも多々あった。
人の子と穏やかな時を過ごすことがこれほどまでに安らかで楽しいものだとは思いもしなかった。
恭弥には感謝せんとな……。
「ここまで囃子共が集まっておるのも珍しいのではないかや」
「そうじゃの。他の魑魅魍魎も随分の浮かれておるようじゃ。ふふ、ようまとわりつかれとるの」
小さき者どもに好かれるのも千草が清い証拠じゃの。穢れのないものを好む囃子共がまとわりついておるのを見るのは久しぶりじゃ。
吉兆の妖じゃからの、良いことではあるのじゃが……流石に鬱陶しそうじゃの。
「わっちがあのこのような光景をまた見れるようになるとは思いもせんかった。氏子と呼べるものはおらんが……まあ、この際贅沢は言いんせん」
「なんじゃ突然。礼なら千草に言ってやると良い。あやつも喜ぶじゃろ」
「別に礼を言いたいわけではありんせんっ」