20節ーお前様ー
その長い姫カット黒髪に目一杯の寝癖をつけながら、夜刀はどこか恥ずかしそうに朝の挨拶をしてくれた。
「夜刀、まだ恥ずかしそうだねー」
「わっちゃあまだこの雰囲気に慣れておらんのじゃ!」
「はいはい。おいで、寝癖直してあげる」
「……ん」
夜刀を僕の膝の上に座らせて、長い髪を櫛で梳いてあげる。多少寝癖がついていたところで、さらさらの髪はストンと垂れて癖は無くなってしまう。
「もう終わりかや……?」
「うん、綺麗に寝癖なくなったよ」
「んぅ……」
あはは、なんだか物足りないみたいだ。夜刀は性格上というか今までの癖というか、甘え下手ではっきりと何かをして欲しいって言うことはないからなぁ。
でも……。
「もっとして欲しいの?」
「……」
横目で僕をジトリと睨めつけてからこくりと頷く夜刀はいじらしくてかわいらしい。
「お前様よ」
「ん?」
「雌にねだらせるのが好きなのかや? 助平じゃのっ」
ええ……。ちょっとした悪戯のつもりなんだけど!
と、いうかさっきから銀露が夜刀をみる目がちょっと怖い。尻尾の手入れを途中で止めて寝癖直してあげてるからかな。
でも僕に怒ってるわけじゃないんだよね。
あ、そうそう。夜刀が僕を呼ぶとき今までだと“きさん“だったけど、お前様に変わってるんだ。
悪い気はしないけど、名前で呼んでくれても良かったんだけどな。
「子鞠と戯れておる時もそうじゃったが、ぬしは意外と面倒見がよいな」
「伊代姉と一緒で僕も人の面倒見るの結構好きだからねー。本当はお兄ちゃん向きなんじゃないかなぁ」
「それはないの」
「それはないのじゃ」
「二人して否定するー!」
それだけ僕の弟感が圧倒的だというのか!
僕ちょっとお兄さんに憧れてるんだけどなぁ。伊代姉みたいなお兄ちゃんってすごく理想的だと思うんだよね。
面倒見よくってかっこいいお兄さんに僕はなりたい!
「ぬしは愛され体質じゃからの。素直で愛らしい男の子はわしとしても放っておけんのじゃぞ」
「銀狼の寵愛をここまで受ける人間はお前様くらいでありんす。わっちからすれば信じられんの。まあ、銀狼がここまで丸くなっておったというのも驚きじゃが!」
「銀露ってそんなに丸くなったの?」
「なんじゃ知らんのかや? 昔は何かにつけて噛み付いておったじゃろ。目つきももっとわるくての! きしし」
知らんのかや? と言われても銀露と出会った時にはこんな感じだったからなあ。
少しでも甘えに行こうものなら圧倒的な母性に包まれて幸せ気分にさせられちゃう。一歩間違えたら人をダメにする神様だよ。
「余計なことを言うでないわ。まったく……」
僕の膝に乗っていた夜刀の首根っこをひっつかんでぽいと放ると、今度は銀露が僕の後ろから覆いかぶさるように抱き締めてきた。
「いい加減気が済んだじゃろ。わしはまだ満たされておらん」
「ぬう、この発情狼め」
「なんとでも言えば良い」