19節ー眠りの時間ー
しゃかしゃか耳掻きが終わると次は梵天で細かい耳垢を取ってくれてから……。
「ふー……っ」
「んー……!」
最後のダメ押しで耳の穴に息を吹きかけてくれて、片側の耳は終了。
今度は逆の耳を同じように耳掻きしてくれる。
「言っとくけど神谷先輩にしつこく言い寄られるの、いいことないわよ」
誰からも人気のある弓道部の主将。
そんな人から好意を寄せられていてもそっけなく接する後輩部員。
そりゃ神谷先輩が好きな女生徒からはどう思われるか想像に難くないよ。
「高値の花ぶってるとか無愛想な女だとか同性愛者だとか……うんざりするような事ばっかり言われるし」
葉月さんとか美哉さんとか結構派手な友達が多いからおおっぴらにいじめられたりってことはないんだけど、遠巻きにそんな噂を立てられたり言われたりするのが嫌なんだって。
「ちょっとざりざりいうわよー……」
「おおぅ……」
本当にざりざりいったから細かい耳垢が取れたみたい。
「最近特にひどくてね。試合前だからやめてほしいんだけど……」
試合前だからこそ練習時間も頻度も多くなるから神谷先輩との関わりも多くなる。
事情がわかってる弓道部員たちがいる弓道場ならまだしも、それ以外のところでもよく話すようになったおかげで陰口を言われる頻度も増えたみたい。
特に神谷先輩には熱心なファンも多いみたいで……。
「ごめんね、こんな愚痴言うつもりじゃなかったんだけど……」
「ううん、僕が神谷先輩のこと言い出したからだよね。伊代姉の愚痴くらいいくらでも聞くよー……」
「ありがと。ほら、お耳綺麗になったわよー」
お互い眠たいせいか言葉に力がなくて語尾が伸びがちになってる。
眠たいついでに僕は……。
「伊代姉一緒に寝よー……」
「ん、もちろんいいわよ。じゃあ布団に入って……電気消すから」
僕は先に伊代姉のベッドに入って、伊代姉は電気を消してから布団に潜り込んできた。
同じ布団で寝ること自体はそんなに抵抗ないし、昔からよく寝かしつけてくれてたからものすごく落ち着く……。
「伊代姉、僕が帰ってこなかったからこんな時間まで起きててくれたの?」
「当たり前でしょ。心配で眠れなかったわよ……」
お互い向かい合っていて、伊代姉は僕をぎゅっと抱き寄せて頭を撫でてくれていた。
僕は僕で伊代姉の柔らかい胸元に顔を埋められながらほんのり優しい伊代姉の匂いの中で話してた。
「優しいね、伊代姉大好き……」
「私も好きよ、千草。おやすみ……」
そんな甘い雰囲気の中僕と伊代姐は眠りについた。
さあ明日からまた、騒々しい日々が待っている。