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19節ー銀露の好みー


 温泉に入るっていう話になった時なんだけど、僕は結構ごねてたんだ。

 さすがに銀露以外の女の方いっぱいと一緒に温泉に入るのはって。


「別に初めてというわけでもなかろ。なにをそう抵抗するのじゃ」


「いやいやだって僕と銀露だけじゃないんでしょ!」


「くふふ、まあ見てみよ」


 大丈夫大丈夫だなんて言いながら、銀露は僕を小脇に抱えて温泉に無理やり連れて行ってくれたんだけど……。


 その大丈夫の意味はすぐにわかった。

 緋禅桃源郷の名所の一つとも言われている、ひたすらに広い温泉。

 サッカーコート2面分くらいの広さはあるんじゃないかという岩の浴槽に、白く濁ったお湯が張られてる。


 その浴槽の中には、大きな岩があったり、橋なんかがかかってたり滝があったりして、景観的に壮大なもの感じる。

 そしてなにより、散った赤い桜の花弁が白濁してる温泉によく映えるんだね。

 とっても綺麗だ……。


「蛇姫共は向こうじゃろうな」


「ああ、なるほど!」


 これだけ広い上、湯から昇る湯気のせいで遠くが見渡しづらいんだ。

 だから離れてるとほとんど別々に入ってるのと変わらないくらいになる。


「わしも今はぬしと二人でゆっくり湯に浸かりたいからの」


「僕も今は銀露と……」


「くふっ」


 なんだろう、あんなことがあったからか銀露が僕を求めて、僕は銀露を求めているような……。

 お互いに視線を合わせると離せないし、少しでも近くにいようとどこかしら体が触れ合ってる。

 

 なんだか不思議な感覚だ。熱ぼったくて、蕩けそう。そのまま銀露と一つになってしまいそうな。


 お互いに着物を脱いで、素っ裸になって掛け湯して足先から温泉に浸かってく。


 とろりとした泉質、温度はうちの温泉より少し低いくらいかな。

 長く浸かるには丁度いい温度だ。


「ふう……生き返るー」


「ふむ、昔から変わらんの。ぬしの旅館の湯には劣るが。……ほれ」


「う、うん……」


 なんだか熱ぼったい妙な雰囲気の中、僕は銀露に言われるがまま銀露の腕の中に収まった。

 そのまま抱きしめられて引き寄せられ、背中に銀露の大きな胸の感触を感じる。


「今回はぬしの好奇心のおかげで難儀な目に遭ったの」


「うぅ……これからは気をつけて行動するよ」


「かかっ! よいよい、ぬしは自分の思う通りに動いてよいのじゃぞ。そのためにわしがおるのじゃからな」


 好奇心を殺すことをせず、のびのびと生きろと銀露はそう言った。

 神様がそう言ってくれるなら、こんなに頼もしいことはない。

 それは前々から感じていたことであって、今回のことでも確認することができた。


 そんな頼もしい銀露が僕は大好きだ。


「しかし、ぬしもよう頑張ったじゃろ」


「男として当たり前だよ!」


「容姿はともかく心意気は男じゃったぞ。うむ……そう、このわしがくらりとくる場面もあるくらいにの」


 銀露は頬をぽりぽりと掻きながら目線を泳がせつつ、少し恥ずかしそうに言ってくれた。


「ぬしは本当に愛らしい……が、心持ちはちゃんと雄じゃ。わしは勇敢な雄が好みじゃが……しかしわしより小さく愛らしい者も好みじゃ」


「そ、そうなの? 僕見た目も男らしい人が好きなんだと思ってたけど……ほら、黒狼様みたいな」


「ふむ……まあ奴も悪くはないがな。いまいち琴線に触れん。わしは勇敢な雄を己の色に染め上げるのも好みでの」


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