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19節ー狐憑きー


「おいおいおい、相当厄介なもんに取り憑かれてんじゃねぇか」


 黒狼は思わず一歩引いて言う。人の子に取り憑いたそれが、尋常ならざるものとわかっていたからだ。


『いややわあ、愛らしい坊やの体、少し借りとるだけやないの』


 千草に取り憑き、いまここにこうしている彼女は。


「たわけ。千草の体から即刻出て行け、玉藻」

『はぁあ……銀蠅ェ』


 かつて、銀露が一対一で対峙し、捻り潰した白き毛を持つ狐だった。

 今は月並神社に封印されているはずの白狐がこうして人の身に取り付けていることは不自然であり、ありえないことだった。

 

 封印が解けたのかと思ったがそうではない。まだ月並神社に存在する己の牙の存在はまだ感じ取ることができる。

 千草の体を借り、普段の千草なら絶対に見せないであろう剣呑な目を銀露に向けてから、凄惨な笑みを浮かべた。


「せっかくの愛らしい顔がうぬのせいで台無しじゃ」

『相変わらず口達者やねぇ。あんたはんも、見ん間にえろう可愛らしぃなりはって、まあ。ふふ、滑稽やわぁ』


 銀露は呆れながら言葉を紡ぐが、白狐は違った。

 一言一言にこれでもかと憎しみと嘲笑の意を込めていた。

 

 だが、その時白狐の意識は銀露に向いていたのだ。背を向けられた黒狼達からすれば侮辱的ではあったが、同時にそれは大きな隙となった。

 身振り手振りで、待機していた己の神使達に狐憑きに遭った千草を押さえ込むように指示を出す。


 彼らは狼だ。数を揃え、群れを成せば格上の強者をも狩ることができる。

 だが、白狐相手にはどうか。


『跪きィ』


 その一言を耳に入れただけだった。それだけだったのだが、黒狼の神使達は皆残らず床に額を打ち付け倒れ伏した。


 白狐の言霊に当てられた彼らは皆一様に人の姿を保てなくなり、狼の姿へと変わってしまった。


「真名も知らぬ相手に……。相も変わらず忌々しい強制力じゃな」


 白狐が放つ言霊の力はあまりに強い。封印され、人に取り憑き力の弱まっている今でさえ黒狼の神使を根こそぎ無力化するほどのことができる。

 全盛期であった頃は同じ神ですら言葉でねじ伏せ魅了し、従えることができていたのだから恐ろしい。


 その力をもって、幾つもの国を傾けてきた。全ては己自身の快楽のため。

 だが今回はどうだ。白狐は昔から一つのことに執着することをしなかった。

 だというのに今、千草の体に取り付いた彼女は千草が自分のものだと執拗に主張していた。


『ああ、黒狼はん。怒りはったん?』

「ったり前だろうが。自分の使いコケにされて腹が立たん主はいねェだろ」

『ふぅん。ほな丁度ええわ』


 狐に憑かれた千草の尻尾が白い炎に変わり、そしてその炎はある形を成してゆく。

 それは恐ろしく鋭くおぞましい穂先を持った薙刀だった。

 

『ウチも腹立って腹立って……この場におる全員八つに裂いてから蛇姫の舌抜いて、最後に鬼灯の巫女すり潰して食ろうたろう思うてたんよ。まずはあんたはんからやねぇ、黒狼ォ』


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