第18節48部ー空中楼閣へー
銀露が護り日の一つをひっつかんで、そこに僕の精気とやらを乗せたようだ。
途端にその護り火の輝きが増し、大きさも段違いのものになった。
……で、さらに驚くべきことにその火を朱音さんは大口を開けて飲み込んでしまい……。
「っぷあ。うわあ、いい精気。こんな清い精気吸ったのなんて何百年ぶりっすかね……。っていうか、ちょっと銀狼様、ツヤッツヤしてないっすか。ちょろまかしたんじゃ……」
「そっ……そんなことないわ。おかしな言いがかりをつけるでない」
「いやでも少年、ふらっふらっすよ」
そう、僕はふらふらだった。銀露に唇を奪われたことも衝撃的だったけれど、それ以上にキスされた後の虚無感が……。
それを見ていた銀露はバツの悪そうな表情を浮かべていて……その様子を見た朱音さんがなぜかニヤニヤと笑みを浮かべた。
「銀狼様、随分と少年と通じ合ってるみたいっすね! まさか銀狼様ともあろう方が人の子に惚れ……」
「かかか、うぬ」
「は、はい」
「自慢の護り火、根こそぎ喰われたくなければその口、閉じておいたほうが懸命じゃぞ」
「申し訳ないっす……」
心が通じ合っていたり、つながりが深かったりすると精気のやりとりが円滑に進み過ぎたりして、必要以上に取っちゃうんだって。
で、僕はふらふらしながら客車に乗り込んで、その後からふにゃふにゃの子鞠を抱っこして銀露が乗り込んできた。
「ほげぇ……」
「すまんの、千草」
銀露は上の空の僕の頭を優しく抱き寄せて、耳に細く長く息を吹きかけた。
それと同時に、僕の目に活力が戻ってきて、意識もはっきりしてくる。眠気も随分とましになった。
「どうじゃ?」
「……うん。だいぶマシになった、かな。子鞠ふにゃふにゃだね」
「んぅ……あにさま……」
どことなく厳かな客車の中、正座で座っていたんだけれど、起きた子鞠が僕の膝の上まで這ってきて……。
「あにさまのおひざ……」
上半身を膝に乗せて、顎をついて空気の抜けた鞠みたいになってる。お耳も尻尾もしなだれて、かわいいなあ。
「行くっすよー、準備いいっすか?」
「うむ」
「大丈夫です。子鞠も大丈夫?」
「だいじょぶ……」
客車の窓を開けてその返答を聞いた朱音さんが、上をしばらく見上げて手綱を引いた。
そうして、少しの揺れの後牛車が走り出し、しばらくはがたがたと舗装されていない道を走る感覚があったんだけど。
「うお、うおおおお?」
こう、床に押し付けられるような感覚と共に揺れがなくなって……。
「飛んでる!! 飛んでるよッ!?」
「くふふ、いい反応じゃ、可愛いの」
「飛ばしてるのウチなんすけどー!! ウチも少年の反応見たいぜー」
子鞠を抱っこして、客車の入り口の襖を開けて見ると……どんどん地上が遠ざかっている真っ最中だった。
そこまで速度が出ているわけじゃないから、まったりとした空中散歩を味わえてるんだけど……そのゆっくりの理由が。
「ものっすごい見張りの数っす。全部を相手にするわけにはいかないんで、こっちも結界張って慎重にいくっすよ」
不可視の楼閣、それがまるで見えてるかのように朱音さんは話す。
銀露ですら見えなかったはずなのに、どういう力を持ってるんだろう。