プロローグ—幻想は満月の夜に—表紙掲載
これはとても遠い昔の話。
まだまだ武士が髷を結っていた頃、月詠村という村がこの日本のとある場所にありました。
とてものどかでのんびりとした平和な村でありましたがひとつ……とても大きな問題がこの村を困らせていたのであります。
その村はとある日を迎えると恐ろしい神様に蔵を荒らされ村人は食われ、散々な目に合う日があるのです。
そう、それはもう丸く丸く輝く見事な満月の夜に。
しかしあるとき小さな温泉宿の主人が恐れ多くもその神様にとある申し出をしたのであります。
温泉宿の主人は神様にこう言いました。
《もう村は荒らさないで欲しいのです。その代わりここの温泉を好きなだけ使ってください。食事もたんと出しましょう。村の衆と話し合い大きな社を立てましょう。だからもう、かつての我々の非礼はお許し下さい。何卒、お怒りを沈めてください》
その神様はその申し出を受け入れ……それからというもの、村には平和が訪れました……。
今は平成の世。
鉄の塊は空を飛ぶ、箱のなかには遥か彼方の情景が映る、人の声はどこまでだって届くし情報は電子の世界に溢れかえっている。
科学技術が進歩するにつれ神様なんて空想上のモノ、作り物だと思う人間も少なくない。
見えないものを見ようともしない……人が見なくなったそこはこの世の死角。
神様。仏様。幽霊妖怪その他諸々など居ない……と、思うのは早計かも知れない。
もしかするととてもとても身近な存在なのかも……しれないというのに。