01 王都のギルドにて
初投稿です。
おかしなところもあると思いますが、お楽しみいただければ幸いです。
少女は親元を離れて、ようやく王都へやってきた。
王都へやってくるのは久しぶりだが、迷うことなく冒険者ギルドへ赴く。
ロディスティルリー=アポロス。
国の英雄、冒険者ロディアック=アポロスの娘。12歳。
金髪のショートカットに防具を着けていると、ほとんど少年にしか見えない。
右肩には弓と矢を背負い、腰には短い剣を携えている姿は、駆け出しの冒険者にしか見えない。
彼女は冒険者ギルドに何食わぬ顔で入ると、受付の男へと話しかけた。
「こんにちは、デイビッドさん。おひさしぶり~。」
男性は話しかけてきた少女を見ると、目を和らげた。
「え?ロディちゃんかい?大きくなったなぁ。ロディアックさんはどうしたんだ?」
「えへん、私、独り立ちしたんだ。父さんから許しをもらえたんだー。」
「ええ?すごいじゃないか!!」
ギルドの受付担当のデイビッド=ライシェンは少女の肩をつかんで、少女と喜びを分かち合った。
冒険者ロディアック=アポロスは、エレメントドラゴンを倒した英雄の一人として名高い。
その愛娘である、ロディは両親とその仲間たちと共に国境近くの冒険者の村で育ち、時に王都や街の依頼をこなしていた。
母ティエリーは普通の娘として成長してもよいと思っていたのだが、本人が父親にあこがれて冒険者を目指しているのに気付くと、それはそれは激しい修行をつけた。
ロディは英雄の父親に、説得という名の合格試験を受け、晴れて冒険者としての独り立ちをしたのである。
そんなロディの努力を王都のギルド職員は幼い頃から見ており、嬉しそうにしている姿を見て喜んでいる。
当然、そんな小さな頃から英雄から鍛えられているロディは普通の娘ではない。
剣も弓も自在に扱う。普通の男では歯が立たない強者なのだ。
「それで、ここに来るまでに結構獲物を狩っちゃったから、ここで換金できるよね?」
「ああ、何を狩ったんだ?」
ロディは腰につけていたかばんを開いた。ロディはかばんの中からごそごそとカウンターの上に出し始めた。
「ブルーラビット2羽、グレイウルフ4頭、ブレイズドッグ5頭、デービースパイダー1体、ビアベア5 体・・・」
次々にカウンターの上に置かれる魔物の死体の山に、デイビッドはあわててロディを止める。
すでにブレイズドッグはカウンターの下に転げ落ち、デービースパイダーに至っては長い足が天井に届いている。
「ちょ、ちょっと待て、ロディちゃん。ここは依頼カウンターだ。換金するならあっちの換金カウンターに持って行け。ビアベアなんて置かれたらつぶれる。」
ビアベアは3mほどある大きな魔物で、普通の人はどうやっても一人では倒せない。
「えへへ、そうだった。」
うっかりしてたと苦笑いするロディは魔物をまたかばんにしまっていく。しまっていく、というか、かばんの口にあてると消えていくのだ。
「それにしても、それはロディアックさんのかばんじゃないのか?空間魔法を付与した特製かばん。」
かばんに空間魔法をほどこし、かばんの入り口にものをあてて、保管庫とする場所をイメージするとそこへものが送られるのだ。
「ううん、父さんにくれた人にお願いしたんだ。父さんがお祝いにってくれたんだよ。」
「そりゃよかったな。それにしても、ビアベアも一人で倒せるのか。まあ、それぐらいじゃないと、ロディアックさんも独り立ちは許さないよなぁ。」
デイビッドは呆れながら髭をなで、魔物の山とロディを見た。
「えへへ。がんばったよ~。」
「えらいなぁ。がんばったな、ロディちゃん。旅の話を聞きたいが、次の人もいるから、先に換金カウンターに行っておいで。」
デイビッドがロディの頭をなでると、ロディは笑った。
「うん。わかった。またね、デイビッドさん。」
「ああ。」
ロディはてくてくと換金カウンターへと向かった。
ロディが依頼カウンターで山のような獲物を捕りだしていたのを見ていた周りの男たちは、金づるを見つけたとにやにや笑っている。
そんなことも露知らず、ロディはてくてくと換金カウンターへと歩いて行く。
「よお、ここは坊やが来るところじゃないぜえ。」
目の前に立ちふさがった男に声をかけられ、ロディは目をぱちくりとさせる。重そうなアーマーをつけた男はロディより大きく見上げなければならなかった。
「おじさんは誰?」
ロディの言葉に苛立ち、男はロディの肩をつかもうとするが、ロディはするりとかわす。
「おにいさん、だ。」
「お兄さんは、何か用?」
「ここは坊やが来るところじゃねぇっつってんだろっ!」
男が再びロディにつかみかかるが、ロディはするりとかわして代わりに首筋にショートソードを突きつけた。
「さすがは冒険者ギルド、手合わせもいきなりなんだねぇ。でも、ちょっと私を侮りすぎなんじゃないかな?」
「ちょ、ロディちゃん、ケルディさん、何暴れているんだ!!」
首筋に当てていたショートソードをすっとひきながら、ロディは声をかけてきたデイビッドの方を向いた。
「だっていきなり肩をつかもうとしてくるんだよ。レディに失礼でしょ。」
「そりゃロディちゃん、そんな格好していたら、坊やって呼ばれても仕方ないよ。とはいえ、ケルディさんもこんなちっちゃい子を相手に何しているのさ。」
わざわざカウンターからでてきたデイビッドに、不服そうな顔でケルディが答える。
「こんな坊やが大金換金するなんて危ねぇだろうが。」
「ん?」
「ほら、ケルディさんがちゃんと説明しないから、ロディちゃんも手を出しちゃったんだろう?」
「え?この物騒なお兄さん、もしかして心配してくれてたの?」
ロディはきょとんとしてデイビッドとケルディの顔を見る。
「ケルディさんは面倒見のいい人だ。たぶん、ロディちゃんが一人で襲われないように、ギルドカウンターじゃなくて、個室鑑定する手伝いをしようとしたんだろう。」
「よくわかったな。」
「わかるさ。それにしても言葉が悪すぎるな、ケルディさん。どう聞いたってからんでいるようにしかきこえない。それに、個室鑑定するぐらいなら俺がそう言う。彼女は個室鑑定しなくても十分に強いから大丈夫。」
「いらない不安要素を増やす必要はないだろう?まあ、あんたがそういうならいいか。」
デイビッドの言葉に、ケルディは肩の力を抜いた。
「でも、これでロディちゃんとケルディさんとが知り合いになれたのも縁かな。」
デイビッドは事が収まりほっと笑う。
「ねえねえ、ケルディさんっていくつ?」
ふと思っていたことをロディは尋ねた。
「25歳だ。」
ぶすっとした顔でケルディが答えると、ロディは目を見開いて、口をぽかんと開けた。
「わ、本当にお兄さんだった。ごめんなさい。すっごく貫禄あったから。」
「それはよく言われる。」
「うー、私の方がすごく失礼だった。お詫びに、ケルディさん、これ、もらって。」
ロディはかばんの中から腕輪を取りだした。銀色の中に青く輝く宝石が見える。
「これは?」
ケルディがロディの手のひらの上にある腕輪を指差した。
「幻惑防御の魔法が込められた腕輪。」
「なんだって?!そんなもの、もらえるか!!」
魔法の込められた宝石は魔術師にしかつくることができない。まれにダンジョンでみつかることもあるが、基本的には人造である。明かりをつけるなど簡単なものはある程度流通しているが、幻惑防御はとくにめずらしく高価である。
「だって、ケルディさんは私を心配してくれたんだよね?そんな人に対して刃を向けるなんて失礼すぎるから。受け取ってよ、ケルディさん。これからよろしくってことで。」
「それにしたってよぉ。」
「ね、たまに一緒に依頼を受けてくれると嬉しい。」
なかなか手に取らないケルディに、ロディは笑ってその手に乗せる。
「ははは、受け取っておいたらいいさ、ケルディさん。ロディちゃんなら大丈夫。というか、仲良くしてほしいって言ってるんだから、よくしてやればいいのさ。」
「ちっ、しかたねぇな。受け取ってやるよ。」
仕方なさそうに受け取るケルディは少し嬉しそうだ。
「じゃあ、さっそくだけど、ケルディさん、換金カウンターに一緒に行こう!」
「お、おう。」
ロディの声に、ケルディが続いた。
「まったく、いつまでたっても言葉が足りないなぁ、ケルディさん。」
呆れながら見守る、デイビッド=ライシェン、33歳は、依頼カウンターへと戻っていった。
設定1 父ロディアック=アポロス (英雄・剣士)
母ティエリー=アポロス (魔法使い)
弟ロディカムレオ=アポロス (双子兄)
妹ロディカミュール=アポロス(双子妹)