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暗い道

作者: BloodyBishop

 夜中、酔っ払って自転車を漕いで家に帰ろうと、近道の人通りの少ない農道を選んだのが間違いだった。

 住宅街を抜けて2キロ程有る長い1本道で、所どころに街灯は有るが舗装がガタガタ。   

 さっき雨も降ったので、何度も水の溜まった窪みにはまり、サンダル履きの足は泥水だらけで気持ちが悪く、さらに藪蚊がアルコールと蒸し暑さで発散されたおいしそうな匂いを嗅ぎ付けてあちこち刺して来る。

 普通の蚊より強烈な痛痒さが足のくるぶしと小指を襲い、被った泥水がそれに拍車をかけた。

 我慢も限界に達し、ここから家までの中間辺りに稲荷神社が有るのでそこで休憩する事にして、田んぼの真ん中の農業用道路へ右折した。

 しばらく、自転車のライトを頼りに水溜りを避けて、こんもりと黒いシルエットで海原の島のような森目掛けて走り続けた。 サラサラと稲の擦れる音と「グモー、グモー」と

牛の鳴き声に似た牛蛙の鳴き声に、「キィッ、シュルシュルキィッ、シュルシュル」と言う

自転車を漕ぐ音の他は何も聞こえない満月の夜だった。

 10分もすると稲荷神社の入り口に到着し、自転車を降りて休憩する事にした。

 確か境内に洗い場が有ると思い付、鳥居が沢山並ぶトンネルを抜け、社務所の前で洗い場を見つけ、ジャバジャバと痒い足に水を掛けると冷たくて気持ちが良かった。

 子供の頃から、墓場や寺ここの神社のような場所の前を夜中に通る事は、別に怖いとか恐ろしいと思った事が無かった。

 幽霊や妖怪は信じていないし、見えるとか言う者は嘘吐きで、霊や意味不明の者が人を殺すなど有りえ無いと思っていた。

 むしろ怖いのは人で、その中でも警察官と言う人種が嫌いだった。

 ついさっきも、街中で飲酒運転の取り締まりをしていた若い警察官に職務質問されたばかりだ。

 「ああ、すいません、チョットその自転車見せてもらって良いかな」

 馴れ馴れしく声を掛けて来て、住所、電話番号、仕事等をヅケヅケ聞いて来る。

 「あの、答えなくて良いでしょう、そんなの」

 そう言うと、ムッとした顔になって口調が変わる。

 「え?、ここじゃなくて、ゆっくり交番に行っても良いけど?酒飲んでるね?自転車盗んじゃったでしょ、これ?」 そう威圧的に言って来る。

 「あ……、あの名前は……」自分の自転車で、悪い事等なにもしていないのに、威圧に負けて全て素直に答えてしまう自分も情けないが。

 「あいつらの方が幽霊よりよっぽど怖い」

 鳥居のトンネルを抜け、自転車を止めてる農道に出ながら、タバコに火を付け歩き出した時だ、突然右から眩しい光とクラクションの音がした。

 ドンと大きな音がして景色がグルグル回り出した。

 宙に浮いてる感覚が終わると、地面がドンドン近づいて来て、激痛と共に見える景色は闇に閉ざされた。

 

 少し頭痛がして起き上がると、神社の境内の前で寝ていたらしい。

周りには何も無く、自転車も無い。

 辺りはゲコゲコとカエルが泣き、虫達が涼しい泣き声で鳴いている。

おかしな事に、普段メガネが無いと見えない風景が視力が戻ったのか良く見える。

 頭に手をやると、血が出ているようで、手にどろりと血がついた。

 驚いたが、そう言えば地面に頭をぶつけた記憶が有るので、頭を打って視力が戻ったと言う話を思い出していた。

 先に急いで洗い流そうと、又境内に向かって歩き始めた。

 ところが、洗い場で頭から水を被っていた時だ、

 「おい、お前、これから先は入っては成らぬ」

 「そうじゃ成らぬぞ」

 そう聞えた方向を向くと、神社の社の前に立つお稲荷様の石造が、ゴロゴロと音を立て、こちらを睨んだ。

 「恐れを知らぬ清い者、今直ぐ立ち去れい」

 口を開いた右の石造がそう言うと、口に何かを咥えた像が台座を降りてこちらを威嚇して来た。

 二体ともに青白い炎を纏い、一体はジリジリとこちらとの距離を詰めてくる。

 「うわー」

 一目散に鳥居のトンネルに向かった時だ、鳥居の一本一本から白い無数の手が伸びている。

 まるでイソギンチャクの触手のようにウネウネと何かを掴もうと蠢いていた。

 その時、後ろで、ゴロゴロと音を立てて、何かを咥えた像がそこまで来ていた。

 すると、手前の触手のような白い手から煙が上がり、ギャーと言う悲鳴を上げて、青白く燃え出した。

 「何度も手間を取らすでない。早ようイネ」

 後ろから声が聞えると、出口の辺りまで続いた鳥居のトンネルの手が、断末魔の声を上げながら全て燃え出した。

 恐怖でそのトンネルを駆け抜け、さっき検問をしていた場所まで、わき目も降らず駆けていた。

 さっきの若い警官が、小脇に誘導灯を抱え、もう一人の警官と話ているのが見えた。

 「すいません、あの、さっきの者ですが」

 そう言っても、二人共聞こえ無いのか、返事もしない。

 「すいません、これ、血が出てるでしょ?、で、石造が、白い手が……」

 それでも無視しつづける警官に切れた。

 「おい、公僕、お前ら困った一般市民のな!話を無視してどう言うつもりだ!」

 すると、若い警官がチッと舌打ちしながらもう一人に言った。

 「先輩、すいません、又例のやつ……、来ちゃってるんで」

 その言葉に又、カッとなった。

 が、警官は優しく話し始めた。

「ねえ、毎年、この日、この時間、この場所。 どうして来るのここに?俺は見えるけど他の人には見えないし、初めて見た人は怖がるから。

 家で皆待ってるよ?迎え火炊いてさ。

 だからまっすぐ、例の農道行って、広い道路を横ぎったら3件目。

 今年は、えーと6回目だから、もう七回忌も終わったんですよ。

 しっかり迷わず家族の所に行ってください」

 するともう一人の警官が言った。

 「お前去年もやってたけど、俺、そう言うの苦手だから止めてくれないかな?」

 「ああ、すいません。気にしないで下さい。そうですよね、いやいるわけ無いですよ本当に。 すいません」

 そう言いながら、若い警官がこちらを見ながら早く行けと手でゼスチャーした。

 私は思い出していた。

 あの時、そうだ、6年前か……私は死んだのだ。

 検問を突破して逃げる車に引かれて。

 しかし、何故、毎年、家に辿り付けないのだろう。

 去年もお稲荷様とあの警官に世話に成った。

 今日は盆の13日、近所では家の前で、篝火を炊いて先祖を迎えていた。

 玄関先でチロチロと燃える炎は、私達の寂しかった心を優しく暖めてくれる。

 私の家に着いた時、そこには迎え火は無かった。

 真っ暗な家に入り、寂しく一人仏間に座り、自分の位牌を眺める。

 今年も家族は皆で旅行に行ったようだ。


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