第4話 戦闘と整理
今、会いたくは無かった。
(カブトムシなんだから木の上に居ろよ! なんで今出てくるかなぁ)
ノッソリと現れたカブトムシは、すでに真正面に立ちこちらを向いている。
見た目は自分とは違い、普通の体のようだ。頭角を入れて合計三本の角を持ち、胴から生える二本の角の根元には関節は無く、正面に向かって先端部を向けているだけである。
だが、体色が思い浮かべる普通とは違う。白黒のマーブル模様で、表面に艶があるのでまるで陶器のようにも見えるのである。更には何か発光器官があるのか、複眼が怪しく真っ赤に輝いている。
「ギューイギューイギューイカチカチカチ」
おもむろに目の前のマーブル模様のカブトムシは威嚇音なのだろうか? そんな物を鳴らしてきた。しきりに触角を動かし、頭角を上下に揺らしている事から見ても、どうやら既に臨戦態勢のようだ。迷っている時間は無い。
(あの鋭い角が、自分と同じ鋭さを持っているとするなら先に角を叩き込んだ方が勝つ。だけどなぁ……あー超怖い。もう本当、凄く怖い。下手すれば、ここで死ぬのか)
何せ木を貫く、いや切り裂くことのできる角だ。自分がそうなのだから、同じ環境に住む目の前のカブトムシが違うわけがない。
(いや、待てよ?)
そこで閃く。何もわざわざ目の前のカブトムシと戦う必要は無いという事実に。
相手だって死にたい訳ではないのだ。ならば、こっちも威嚇音を鳴らし、威嚇合戦に負けたふうにして逃げれば、戦わずにここを離脱できるはずである。
わざわざ怪我をする危険を孕む戦闘行為を行わないために、動物は威嚇行動をするのだから。
(よし、これでいこう)
そう考え、自分も鳴いてみた。
「ギュイギューイギュイギュイギューイ」
こんなものかな? と止めれば、先ほどまでの動きをピタリと止め、マーブル模様のカブトムシは少し間をあけてから同じように返してきた。
そうやってマーブル模様のカブトムシ、自分の順で交互に適当に合わて鳴いてみながら、後ずさってみる。すると目の前のマーブル模様のカブトムシは、自分が下がった分だけ自分に向かって少し進んでくるではないか。
(よし、威嚇終了。こっちが下がって相手が出てきたから、多分負けたふうになっているだろう。なら、今逃げればいける!)
そう考え、ここから逃げるために前羽を開き飛ぼうとすると、目の前のマーブル模様のカブトムシも、同様に前羽を開いたのである。
(相手も飛ぶ? お、もしかして威嚇合戦に勝てたのかな? やったぜ。もし、そうでないにしても、自分も飛んでここから離脱するからどっちにしたって、これで戦闘は避け)
と、思った瞬間。目の前のカブトムシがヘリコプターのような強烈な羽音と共に、自分に向かって突撃してきた。当然、逃げようとしていた上、相手がどこかへ飛んでいくと思い、気を抜いていた自分は反応できなかった。
目の前一杯に広がるマーブル模様の壁。物凄い衝撃とともに、重い物がぶつかり合う音、後ろに流れていく視界。そして何かを削っていく音。
(え? 逃げるんじゃないの? というか、飛びながら突っ込んでくるってどういうこと? そして、この状況は一体どういうことだ?)
突撃してきたカブトムシは、なんとこちらの角に突き刺さって、苦しそうに蠢いていた。更に、相手の角はどうやら自分に衝突した時、全て折れてしまったようだった。つまり、現在自分の前には角を全て折られた哀れなマーブル模様のカブトムシの串刺しが存在する。
(おおおお?! え? あれ? ちょっとまって。本当に意味が分からない。なんでこっちは無傷で、相手が満身創痍になっているんだ?)
落ち着くのに少し時間がかかったが、何とか平静を取り戻す。
(ふぅ、しかし、まぁなんだ。こいつには悪いけども、こいつと同種類のカブトムシと争っても自分は死なないと分かったから良しとしよう……さて、この突き刺してしまったこいつをどうしようか。取り敢えず、振り落とすか)
振り落とすために、軽く足の動きだけで全身を揺らし角を振るが落ちない。なので、今度は回転するようにその場で動きながら、全身を使って角を振り回す。
(なんか、風切り音が聞こえるけど……気のせいだろうな)
そうやって少しの間振っていると、遠心力で角に刺さっていたマーブル模様のカブトムシはすっぽ抜けた。そして、そのまま木にぶつかり、ぐしゃりと爆発四散した。ぶつかった木は、水風船を叩きつけたかのように真っ赤に染まった。
(うーん……よし、落ち着こう。はい、またおかしい。待って、誰に対してか分からないけど待って。なんで木に叩きつけたカブトムシが爆発するんだ? いや、それ以前に血? あれ? 駄目だ! 何かすればするほど意味が分からなくなっていく。分からない事を一回リストアップしたい!)
絶叫しようにも出るのは威嚇音のみであり、思わず地団駄を踏みたいが、のたくたと地面でうごめくカブトムシにしかならない。
(紙が欲しい! ペンが欲しい! それか解説してくれる人が欲しい! でもそれ、全部無理! なぜなら自分はカブトムシだからです!)
身じろぎもせず心の内で出せない声を張り上げる。それが功を奏したのか、少し気持ちに余裕ができた。
(…………よっし、よし。一回落ち着こう……落ち着いた、よし)
更に自己暗示に近い事をして、自身を落ち着つかせた所で現状を再確認する事にした。
まずは一つ目。空腹感が無い事だ。これはまだ絶食二日目であるし、食性は恐らく木を食べたり樹液をすすったりで大丈夫なのだろう。それなら、その気になればそのへんの木を食べれば良いと考えられるから、問題はないだろう。
次に、存在しないのに、存在している後ろ羽だ。これもまた、現状問題はないし良いだろう。おそらく魔法だろうし、そうであるなら考えても無駄だろう。
次は、その状況を生み出したと思われる魔法の存在だ。妖精さん達が使っていたのが魔法だって推測は正しいだろう。
まさか、あの光がファンタジー的な妖精の光みたいな平和な物じゃなくて、実は妖精さんは宇宙人で、あれは超ハイテクな電気銃の攻撃である。みたいなサイエンスフィクションな代物ではなければ、ではあるが。
それはそれとして、その魔法をどうやら自分も使えるという事だ。力は使えるに越したことは無い。
今現在のこの思考能力。爆発四散した哀れなマーブル模様のカブトムシを生み出してしまった強力な角と筋力。妖精さん達の攻撃に耐え切ったこの全身の強固な甲殻。どれを取っても、この森で生き抜くには必要な能力だ。
(ただ、こんな非常識な能力を持った虫が居る所ってのは、何処なんだ?)
それが一番の問題だ。まず、自分はカブトムシになってしまった。そこは良い。良くは無いが、取り敢えずは良い。
だから、寿命もせいぜい一年かそこらだと考えていた。でも、こんな世界でこんな能力だ。もっと長いんじゃないのか? と言うか、そんな予感がするからこんなに落ち着いているのか? この辺りは重要でではあるが、考えても仕方がないのだろう。
そして、唐突に思い出したが、自分は日本人と呼ばれる種類の人間だった。妖精さん達の話声を聞いたら思い出した。これは、何故だろうか? もしかすると、人間のような生き物に出会ったせいか? これも、考えても仕方ない。
さて、最後に今後どうするかだ。マーブル模様のカブトムシと、妖精さんは敵にならないと言う事は分かった。だけども、ここは森だ。多分、猪とか熊とか言った獣や、カラスのような鳥とか、他にも色々自分や、このカブトムシを捕食する動物は居るはずだ。
となると、だ。どうしよう? 良く考えれば、自分はどうしたいんだろうか? 人間でなくなってしまい、恐らく、地球ではない所に居る。
(うん? ……あれ? 完全に詰んでるんじゃないのか? いや待て、詰んでるのは、元の場所に帰ろうとする場合だ。元の場所? そういや自分は何処に居たんだ? 地球の日本。そこまでは思い出したが、他が全然思い出せない。日本は何だ? 国か。国は分かる。でも、自分はそこで何をしていたのか? 何でこうなったのか? そもそも、自分は何と言う名前だったのか)
思考の海に沈む。考えがまとまらなくなっていく。
(年齢は? 友達は? 好きな物は? 思い出せない。それどころか、段々どうでも良くなってきている。やばい。やばい、やばい、やばい)
何か、自分が消滅していくような、足元から何かが崩れるような、そんな焦燥感に似た感覚が自分の中に広がっていく。
(いや……やばい? やば……くは無いか。どうせ、帰れないだろうし。それに、もし帰れても自分の姿がカブトムシのままだったら、ここに居ても一緒……な気がする)
仮に、人間に戻れたとしよう。多少の知識は残っていても、それ以外の記憶も何もかも飛んでる状態じゃあどうしようもないだろう。何より、この森で人間に戻れたとして遭難して死ぬのが落ちだ。
(よし、気持ちの切り替えと目標を決めよう! 目標はー……。とりあえず、自分と同種のメスを探そう! そしてまぁ交尾だな! 野生動物なんだし、子を子孫を残して死ぬ! これが正解だ……だけどもあれだな、そうなると、この強力な角を持った同種のオスと争うことになるのか)
ひどいスプラッタ状態になったマーブル模様のカブトムシを見る。そして、自分がそうなってしまう可能性を考える。
(それは嫌だなぁ、死因、串刺しからの木に叩きつけられ爆散。なんて嫌だ。なら、メスを探すのは無しか。いや……そもそもの話として、自分は同種のメスを見つけても興奮できるのだろうか?)
そこでメスのカブトムシを思い出し、ほとんどコガネムシみたいな見た目だよなぁ。と、思い、更に角のないカブトムシって実質ゴキブリだよな。という何ともご無体な言葉を思い出す。
(やめよう。なんだか、考えてみたら気分が悪くなってきた……よし、なら……そうだ。さっきは止めようと思ったけど、人間に戻る方法を探そう! 魔法があるんだ。いや、魔法みたいなだけで違うかもしれないけど、ファンタジーな何かが有るんだ。それならもしかすると、人間になれるかもしれない)
そこで記憶が少し戻った事を思い出す。仮説として、人のような生物に出会って少し戻ったとする。それなら意思疎通ができれば? もっと言えば人間になる、戻る事ができれば? そうすれば記憶がより多く戻る可能性もある。
(それに、人間なら妖精さんとも意思疎通ができるはずだ。それで更に記憶を取り戻すことができるかもしれないし、なにより少なくとも、いきなり魔法で攻撃されるなんてことにはならないはずだ。よし、目的がはっきりしたら気分が良くなってきた。歌でも歌いたい気分だ!)
よくわからないテンションのまま、そう思った瞬間、羽が光った。今度もまた後ろ羽が光った。光が収まると、見えなかった後ろ羽が見えるようになっていた。だが少し形状が変わっていた。丸みを持った幅広の羽はまるで鈴虫のようだ。
「うえ? なんでまた光ったんだ? 歌でも歌いたいって所か? ……なんで声が出てるんだ?」
声が出たのである。震えている羽から。
(オーケーオーケー、もうこれ以上焦ったりはしないぜ。今の自分に怖い物はあまり無い)
誰に言うわけでもなく、心の中で言い訳をして考える。恐らく、光は何らかの魔法が発動したためだろう。次に、羽から声が出た事だは、鈴虫が羽を使って鳴くのは知って。おそらくそれだろう。ここまで複雑な音の変化ができるとは思えないが、それくらいしか説明が付かない。それに魔法によって起こされた事なのだから、なんでもありなのだろう。
それにしても魔法と言う物は凄く使い勝手の良い物だ。本当に人間になる魔法とかもありそうなきがしてきた。それに、魔法を使うと言った場合、魔力とかそういう何か精神力? のような物が消費されると思っていたのだが、そう言った物が減った感覚が一切ない。
(うーんまぁ、タダで使えるなら良いか。タダより怖い物は無いそうだが、考えても仕方がない。そういえば、この羽で飛べるのか?)
そう思い、飛ぼうとしたところ、普通に飛べた。ただし後ろ羽は激しく動き、無茶苦茶に鈴を鳴らすような、ピアノを叩き壊そうとしているような音を大音量、いや爆音で奏でていた。
前羽は飛ぶときの体勢、つまり開いた状態になっているが、後ろ羽はそこに擦りつけるような動きなのだ。つまり、飛ぶための動きではない。浮くはずがない動きと状態で、浮いてホバリングしているのである。
(これは……どういう事だ?)
もしかして魔法なのか? と思い、飛びたくはないと考えつつも、羽は動かすように意識したところ、爆音はそのままに、何かが抜けた感覚と共に地面に落ちた。
(なるほど。はい、ここで異常な飛行能力の秘密が分かりました。魔法でしたー。飛行の魔法? まぁ、そういう類のものだろう。にしても……えー? 本当、何でも有りだな魔法)
そこで閃く。妖精さん達とのコミュニケーションの取り方を。
(そうか、これだ! 今の自分の羽の形状は声を出せる。そして、それは話すように言葉を発する事が出来る。つまり、言語さえどうにかすれば……それこそ魔法だ。翻訳の魔法? みたいな物さえ使えば、妖精さん達とコミュニケーションが取れるんじゃないのか? よし、そうと決まれば! 翻訳で出来ろー……出来ろー……)
しかし、これと言って何か起こった感じはせず、光も出なかった。それどころか、前羽と後ろ羽は、元のカブトムシの羽に戻ってしまった。そして、一瞬羽音を鳴らしたかと思うと、又後ろ羽だけが光り、透明になってしまった。
(うーん? 魔法は、望めば何でも出来る不思議な力って訳でもないのか? そりゃそうか。それにしたって、法則が分からないな。でもまぁ、声を出す方法は分かった)
少しそう考えれば一瞬で羽が光って形を変えた。戻す時も同様に一瞬である。
(一回できれば何となくでできるようになるんだろうか? まぁいい。後は、翻訳魔法? でいいのか分らないけど、それに準じた何かを手に入れるだけか)
そこまで考えた所で何だか眠たくなったので、カブトムシのバラバラ死体から遠い木の根元に潜って寝た。次の日、目が覚めたので地面から這い出す。そこで昨日殺してしまったカブトムシの亡骸はどうなったかと確認しに行った所、綺麗さっぱりなくなっていた。多分、昼の間に何かに食べられてしまったのだろう。
(さーて、今日は昨日やってなかった雷やら火の魔法の再現だ。っとその前に、腹は減っていないけど食事だ。もしかすると、この体は空腹になっても、それを感じない構造になっているのかもしれない。歩いてる途中で突然死亡、死因は餓死とかは嫌だしね)
近くの木に這い上がり、中にある光を目指してその幹をえぐる。光る石に到達したらそれ食べてを繰り返し、三本木を枯らせた。
(三本も枯らせてから考えるのもあれだけど、なんで木に心臓? というかまぁ、そういうような物があって、しかもそれを取ったら枯れてしまうんだろう。まぁ、今更ここに居る生物に対して何か違和感を感じても、何を今更って感じだけども……)
気を取り直して魔法の練習を始める。まずは妖精さんが使ってきた雷の魔法だ。逃げる時に世話になったし、何より電気は普通に生きている生物なら対応出来にくいだろう。使えるなら使っていきたい。
(何より、角から雷って見た目に凄く格好良いよね)
逃げる時と同じように(雷出ろ)と念じる。すると、とあの時と同じように五本の角から出た。
(一発成功!? いや、よし! なんだか思った以上に簡単にできた! これなら妖精さんが使っていた火の魔法もすぐできるかな? 爆発もしていたから、目眩ましに丁度良さそうだし。何より、火を好きな時に出せるっていうのは良い事だ。もし、獣とか鳥とかの捕食者に襲われても、火を出せば一瞬くらい怯ませる事もできるだろうし、電気でなら気絶もさせられるかもしれない)
今度は、雷と同じように、出ろーと念じる時に(爆発する火出ろー)と念じてみた。しかし、どれだけ念じても火は出なかった。
(おかしいな。なんで火が出無いんだ? 念じ方が間違っているとか?)
しかし、諦めずに火でろーと念じ続けていると、上から何かが落ちてきた。それは、昨日と同じ種類のマーブル模様のカブトムシだった。元気に、こちらにむかって「ギューイギューイ」と、威嚇音を鳴らしている。
(どうしようか、昨日と同じことになるのは嫌だなぁ。何よりグロい。それが嫌だ。そうだ! 覚えたところの雷を当ててみよう。感電死なら、そんなに酷い死体にはならないだろう)
(雷出ろ)と念じると、五本の角から妖精さん達をなぎ倒した雷が発射され、見事に目の前のマーブル模様のカブトムシに命中した。そして、哀れ、またもマーブル模様のカブトムシは爆発四散した。
(えー……いや、うん。何だろうな。何でグロいのを回避しようとしたら、更にグロいことになるんだろうな。でも、ビームが相手に当たって、当たった相手は爆発するって、絵的に凄く格好良いな。まるで、どっかの星雲からきた紅白巨人みたいでさ。……紅白巨人って何だ?)
そう暢気なことを考えながら、その日は火の魔法を出すため。色々と念じ方を変えて試してその日は過ごした。
そんなこんなで、毎日起きたら木を一本枯らせて火の魔法を練習して、練習途中で襲ってくるマーブル模様のカブトムシを雷の魔法で爆発させ、五日がたった。
(よし! ようやく、会得したぞ火の魔法!)
結局、予想通り念じ方が違ったらしく、火ではなく火炎で、更に出ろでは無く、飛んでいけだった。
つまり、雷を出そうと思うなら(雷でろ)と念じる。火、いや火炎ならば(火炎飛んでいけ)と、念じなければならないようだ。
と言う事で、今日も出てきたマーブル模様のカブトムシを的に撃ってみた。
(飛んで火に入る夏の虫とは貴様のことよ! 食らえ! 火炎飛んでいけ!)
瞬間、五本の角の真ん中に幾何学模様、おそらく魔方陣と呼ばれる物だろう。そんな物が現れ、そこから巨大な炎の塊が出現した。
次の瞬間、目の前にいるカブトムシに向かって、それなりの速さで飛んで行った。それはそのまま命中し、炎がカブトムシを飲み込むと、爆発し土煙が巻き上がった。
(やったか?!)
そう思いながら、土煙が晴れるのを待つと……哀れなカブトムシは、粉々になってその身を燻らせていた。
(やっぱり粉々か。これ、目眩ましに丁度良いとか思っていたけど、カラスとかそれ位の大きさの鳥なら倒せるんじゃないのかな? まぁ、これで生存の為の力が増したから良しとしよう)
四散したカブトムシに黙祷を捧げながら、生存能力の上昇に喜ぶ。
(よし次だ、基本である魔法発動はできるようになった。ならば次は発展魔法でしょう! 角の先から雷、中央から炎が出る。なら次は……羽からこう、ビームとか撃ちたい。と言うか、撃てる気がする)
この欲求と自信がどこの知識から出てくる物なのかはよく分からないが、とにかくそれが撃ちたいのである。
(取り敢えず使えた魔法から推測すると、発動のための念の法則は前後二節で、一節目に飛ばす物、二節目に発射方法を念じるってのが正しいみたいだな。ただし、それが正しい組み合わせでなければ発動しない。と、考えるのが妥当な所か)
実際、水や岩を発射できないか気まぐれに試したのだが、思いつく限りのどんな念じ方でも発動しなかったので、おおよそこの考えは間違って居ないだろう。
(なら、まずはビーム……ビームか光線? いや光? 閃光? まぁ、そんなところか。曲がりながら飛んでいくってのはなんだ? 雷と同じように出ろ。でいいのか、それとも飛んでいけ。でいいのか? いや、そもそもビームってことは、光だ。光って曲がる物なのか? まずは、ビームを撃てるようになってから考えた方が良いか。そうなると念は……光よ突っ込め。とかそういう感じ?)
そうやって適当に色々と考えながら試して行くと、思って居たより早く成功した。
(いやー、まさか閃光穿て。とは……規則性がいまいち分からない。発射する物と結果? 行動? それに命令形で発動するのだろうか? しかし、命令するにしても一体何に? それよりも……これはどうしようか)
目の前に有るのは、頭を失って盛大に傷口から血を吹き出している真っ黒なフクロウである。
ビームを発射する魔法が成功した時。運が悪かったのか、それとも自分を狙っていたのか分からないが、それがどうやら直撃したようで頭を失って落ちてきたのである。
大きさからして自分より少し大きい位なので、小さい種類……いや、大型のカブトムシとは言え、それより少し大きい位なのだ。もしかすると巣に居た雛を打ち落としてしまった可能性もある。
(なんとも悪い事をしてしまった。それにしてもグロい。正直、人間の頃に、こんなスプラッタ間近で見せられたら吐いてる自信がある。なのに平気なのは、やっぱり慣れてきたのか)
思えば、四散したカブトムシの死骸は、思い出すだけでも軽く吐き気のような物を催す程度にはグロテスクだった。それを意図せず何度も見たのだから慣れてしまっても仕方は無いだろう。
(しかし、念願というか何と言うか、撃ちたい魔法もできた事だし、威力の確認もできたし、今日はもう寝ようか。派手な事をしたから、何かが寄ってこないとも限らないし)
そう考え、少し慌てながら近くの木の根元の地面に潜った。そのため、明け方にそのフクロウの亡骸に取り付き、一部を持ち去って行った一団の姿には気がつかなかった。