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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
47/52

第23.5話 近衛犬士隊

 シクエーズ=セクレア帝国帝都、その中央に聳え立つ皇城。

 第一皇女が居る部屋に続く廊下を、一人の妖精が慌てた様子で四つ足で走っていた。


「姫様! 姫様! 一大事にございます!」


 その妖精の名はロニ・シルヴィオ、純白の毛並に純白の鎧を着た、クーシーと呼ばれる犬に似た妖精で、第一皇女近衛犬士隊の隊長である。

 彼女は、たどり着いた豪華な扉を激しく叩きながら、廊下を走っていた時と同じ言葉を繰り返す。すると中から、侍女のような服を着たクーシーが、少し怒ったような様子で現れる。


「ロニ様、どうしたのですか? あなたらしくもない」


「急いで姫様にお伝えしたいことがある。中に入れてくれないか?」


 はぁ、と侍女はため息をつき「少々お待ちください」と、言い残して扉を閉めた。少したってから「どうぞ」と、聞こえて来たのでロニは扉を開けて部屋に入った。

 部屋の内装は豪華であるが華美ではなく、落ち着いた印象を受ける装飾を施された家具がおかれている。そんな部屋の中央で、紅茶を飲みながら本を読んでいた女性の元へ、ロニは歩いて行く。


「姫様、一大事にございます!」


 二人の侍女クーシーを侍らせ、ロニが姫様と呼んだ部屋の主は、金髪碧眼、長く伸ばした髪は手入れが行き届いているため、サラサラとまるで絹のようで、ティアラのような髪留めを使い、額を大きく出している。

 着ている服は、今帝都の貴族子女の間で流行っているデザインのドレスで、白に金糸でアクセントを加えたような物だ。

 そんな美女と呼んで間違いない女性が、ロニが護るべき主、シクエーズ=セクレア帝国第一皇女カーラ・マグノス・シクエーズ=セクレアである。

 

「落ち着きなさい。貴女らしくもない」


 ロニは、カーラの前に跪くべきなのだが、カーラはそれを気にせず話しを続けた。その状況に侍女クーシーがロニを咎めるように視線を送るが、カーラが手で制す。


「それで? 急ぎの用なのは分かったわ。それで、一体何があったの? 話してちょうだい」


「色々と込み入った内容なので、少々長い話になります」


「いいわ、話して」


「先日、混沌の大樹海でアラン・レッドマン騎士隊長殿がモンスターの捕獲、又は討伐任務に出て居たのはご存知でしょうか?」


「いえ、知らないわ。それがどうかしたの?」


 少し思案して、カーラはそう答えた。


「はい、その任務自体は問題が無かったのです。ですが、その際捕獲、使役したモンスター。邪精霊と呼ばれる種類の物なのですが、それの餌として、クーシーが一人連れ去られました」


 それを聞きカーラは驚きに目を丸くする、しかし、すぐに今度はその目が怒りに染められていく。


「許せないわね、クーシーを邪精霊? だったかしら、訳の分からないモンスターの餌にするなんて……何も、わざわざクーシーを食べないといけない。なんて事はないんでしょう?」


「はい、ございません。聞いた話によると、その邪精霊が望んだと言ってはおりますが、大方それの使役者の趣味でしょう。ちなみに、その邪精霊は甲殻魔虫に良く似た姿をしており、肉であるならば何でも食べるという事らしいのです」


「そう……もし、何か理由があるのなら仕方ないかしら? いえ、そうであっても許せないけど。そうじゃないのなら、ますます許せないわ。甲殻魔虫と言うと、あれでしょう? あの虫みたいな形をしているモンスターなのでしょう? おぞましいわ! かわいそうだわ! いいわ、ロニ。それで、わたしに何ができるの?」


 その言葉を待って居ました。まさにそう言わんばかりに、ロニは尻尾を振りながら答える。


「はい、まず連れ去られたクーシーなのですが、また邪精霊の元へ運ばれてはおりません。我が隊の者が調べた結果、現在とある倉庫にそのクーシーは捕らわれており、夕方に邪精霊の元へ運ばれる予定らしいです。なので、運ばれるまでに救出したいと思っております」


「ふむふむ、となると必要になるのはなんらかの許可かしら?」


「はい、救出する際、もしかすると戦闘になるかもしれませんので、抜刀の許可が欲しいのです。次にと言うよりも、寧ろこちらこそが狙いなのかもしれませんが、わざわざクーシーを使った事から、姫様を狙った計画の可能性もあります。その場合、相手が何をしてくるのか分かりません。なので、この部屋の中にチャロやローサの他、隊員を数名武装した状態で入れる事の許可が欲しいのです。

もちろん本来ならば、私が居るべきなのでしょうが、時間が有りませんし、攫った相手の力量が分からないので、私自ら数人の部下を連れて行きたいのです。よろしいでしょうか?」


「いいわ、抜刀、警護の入室、及びあなたが私の近くから離れる事を許可します」


 その答えを聞きロニは深く頭を下げる。それを見て、カーラはロニと初めて会った時の事を思い出し、微笑んだ。


「だって、あなたはそういう、弱い立場だから食い物にされる者を助けたくて騎士になりたかったのですものね」


「はい、その通りでございます。それに、今回は文字通り食い物にされそうですしね」


 それを聞きカーラは笑みを強めながら「冗談を言って居る場合なのかしら?」と、言うと「これは申し訳ありません。では、行ってまいります」と返し、ロニは部屋から出て行った。

 ロニが出て行ってから三十分ほどして、黒い甲冑を着た、ロニよりも大きなクーシーと、ロニと同じ位の大きさだが、少し頭身の高い甲冑を着たクーシーと、普通の大きさのクーシーが三人、つまり合計で五人が来た。


「ローサ・クマーラ、チャロ・ポステル、その他三名、警護のために参上しました」


 そう言いながら、五人はカーラの前に跪く。


「楽にして頂戴」


 ハッ! と返事をしながら五人は立ち上がる。そして、カーラが座る椅子の近くにローサ、チャロが立ち、残りの三人の内、二人が扉の前に、一人がバルコニー側へ移動した。


「楽にして頂戴って言ったのに……それより、ロニはああ言っていたけど、私は狙われているとは思え無いから……と、言うより狙われる理由が無いから、大丈夫だと思うのだけど?」


 そうカーラは、隣に居るローサに目の前の椅子を指しながら話しかける。ローサは、カーラの言葉の裏にある「私も救出作戦に参加したいな」と言う意思を理解し、少し躊躇ってから、軽いため息と共に向かい側の椅子に座り、話はじめる。


「失礼しますね。姫様、駄目ですよ。万が一ってのがあります。たしかに、今の帝国の状況で姫様を害して得をする人間は数人……それこそ、帝位継承権のある者しか現状では狙いません。でも、姫様の兄弟仲はよろしいでしょう?」


「そうね、お兄様達や妹や弟達とは仲良くやっているわ。そもそも、現皇帝であるお爺様が退位したら、第一皇子であるソルお兄様が既に後継者として確定しているわね。それこそ、貴族や軍からの文句も無しに」


「ですから、その線で考えると姫様が狙われるって事はないんです」


 そのローサの言葉を聞き、カーラは「ほらね!」と言わんばかりの笑顔で答える。が、それを流してローサは言葉を続ける。


「次に他国からの権力構造への攻撃を目的とした暗殺ですが、それなら尚の事姫様は……こう言っちゃなんですが無価値です。理由はまぁ言わずともわかるでしょう。この二つの線が消えた今残っているのは、貴族に始まる上層の人間、というよりそういう構造ですかね? そういうのを全てを面白くない。と思っている輩ですね。そうしてそういうのは、それなりにいます」


「知ってるわ。それでもなんで私なのよ。他にもお兄様達や、妹や弟達が居るじゃない。いえ、狙われたくないってわけじゃないのよ? でも、こんな私なんて言う中途半端でな地位で、中途半端に守られた女を何で狙うの? 狙いやすさなら妹や弟、意味を考えるなら、お兄様達の方を狙うべきじゃない? ソルお兄様は皇帝になるのよ?」


 そう言いながらカーラは、本当に分からないと言わんばかりに綺麗な眉を八の字に曲げ、大きく出した額に皺を刻む。それを見てそれまでわれ関せずとしていたチャロが噴き出す。

 それをローサが睨まむ。それに肩をすくめながらチャロが「続きはワタシが言っても?」とローサに聞くと、首肯で答えた。


「っと、失礼姫様。そんな事を言っているのを誰かに聞かれたら、ソル殿下に何かが有った時に姫様が真っ先に疑われますよ? それは置いておいて、たしかに兄君様達を狙う方が、まぁそういう輩としては正しいでしょうし、狙いたいんでしょう。でも、それ以上にあれなんですよ、姫様は狙い易いんです」


「心外だわ。私が抜けてるって言いたいの?」


 そう言いながら、プンプンという擬音が付きそうな怒り顔をするカーラにチャロ達は苦笑する。


「そうですね……ちょっと前だって、街にお忍びで出かけて、そこらを歩いて居るクーシーの子供に食べ物をやったり、連れて帰ろうとしたりしてたじゃないですか?」


「それの何が悪いのよ、可愛いんだから仕方ないじゃない」


「それに他にも、ちょっと困っているクーシーが居たら手伝っていたり……と、まぁ姫様は良く言えばクーシーに優し過ぎると言う、分かり易すぎる隙があるんですよ。で、そんな姫様が居るこの帝都で、わざわざクーシーを攫ってモンスターの餌にするって事は、もしかすると、もしかするでしょう?」


「んー……まぁたしかに、もしかすると私自ら突撃しそうね。そう考えられるわ」


「でしょう? ですから、ロニ隊長が言うように、ここで大人しくして居るのがいいんですよ」


「わかったわ……というか、私もそこまで無茶はしないわよ……信用されてないの?」


 そう言いながら肘をつくカーラに、ローサはため息をつきながら答える。


「我々は半年前に姫様がお忍びで街に出た時、川へ飛び込もうとしたのを忘れていませんよ」


 再度チャロが噴き出し、カーラはばつの悪そうな顔をした。


---------------------------------------------------------------


 その頃ロニは、甲冑を着こんだ四人の隊員を連れて、攫われたクーシーを救出するために帝都内の倉庫区画、その中でも一番人通りの少ない場所に居た。


「よし、ここで合っているんだな?」


「はい、雇ったブラウニー達によると、この三番倉庫の中に捕らわれているのを見た。との事です」


「そうか、見張りが居ないのが気になるが……聞いていた情報が本当ならば時間が無い、突入するぞ」


 ロニは勢いよく扉を開け、倉庫の中に入りながら剣と盾を構える。追従する四人のクーシーも、同じように武器を構えた。

 倉庫の中は当然だが荷物が置いてあり、光源も無いため視界は悪い、そんな中をロニを先頭に五人のクーシーは進んで行く。

 そして、倉庫の一番奥から、小さな唸り声をあげながらもぞもぞと動く布袋を発見した。それをロニが注意深く広げると、中から猿轡を噛まされ縛られた、少し太った大柄なクーシーが現れた。


「目標発見、これより救助、撤退する」


「了解しました」


 ロニの言葉に合わせ四人のクーシーは武器を収め、縛られたクーシーの縄と猿轡を外した。


「しかし、まさかマックスが捕まっているとは思わなかったな」


 そうロニが言うとマックスと呼ばれた、捕らわれていたクーシーが、縛られていた手をさすりながら答えた。


「ありがとう! 助かったよロニ。まったく、昼ご飯を食べ終わってデザートを食べようと思っていたのに、困ったものだよ。それに、なんだって僕を攫ったのか……いや、心当たりが全くないわけじゃないんだけどさ」


「有るのか……まぁそれも関係してるかはわからないが、恐らく今回は君が太っているからだろう。餌にしようと思うなら、丸々太った奴に狙いを付けるに決まっているさ」


 ロニの言葉に、マックスは固まる。そして、少し震えた声で問いかける。


「ちょっと待ってくれないか? え、えさ? えさって……餌? ご飯の、事……だよね?」


「そうだ。だから、わざわざ私が助けに来てやったんだ。感謝しろよ? もし、私が助けに来なかったら、君はモンスターの夕飯になっていたんだからな」


 そう言いながらロニが意地悪そうに笑うと、マックスは震えだす。


「冗談じゃない! 僕は食べるのは好きだけど、食べられるのは嫌だ! 本当に、もう! でも、そういうことなら尚の事、助けてくれて本当にありがとう」


「いや、礼を言うのはまだ早いぞ、ここから脱出して安全を確保してからだ」


「そうだね、さっさと帰って僕は僕の夕飯を食べたいよ。もちろん、クーシーの丸焼きとかじゃない物をね」


「隊長、そろそろ出ましょう。捕らわれて居たのは、このマックスさんだけだったようです」


 部下の報告を受け、ロニ達はマックスを真ん中に隊列を組み、ロニが殿を受け持ち倉庫から脱出する。そして、そのまま倉庫区画から移動しようとしたが、そこで行く手を阻むように、影が五つ現れた。

 それは全員四頭身で、一つはロニと同じ位の大きさ、残りの四つはクーシーと同じ大きさをした覆面集団であった。


「おっと、そこまでだ。止まってもらおうか、クーシーの姉さん方」


「何者だ!」


 先頭を進んでいたクーシーの問いかけに、正体不明の集団の内の一人、それが芝居がかった大仰な仕草をしながら答えた。


「おおっと、俺としたことが名乗り忘れているとは……と言っても、名乗る気はないんだがな。悪いが、その太った旦那は返してもらうぜ」


「貴様、誘拐犯か! 動くな! 我々は、第一王女近衛犬士隊だ! 貴様達を捕縛する!」


 その声と同時にロニ達は武器を構える。武器を持たない、と言うよりも状況に付いていけないマックスは、どうしたら良いんだ。と、言わんばかりにキョロキョロと狼狽えている。


「血の気の多い姉さん方だ。だが、返さないってのなら仕方ねぇ。ちと荒っぽくなるが、恨むなよ!」


 そう言いながら、五つの影が散開しながらロニ達にせまる。


「総員! マックスを守る事を優先しろ! こいつらの捕縛も重要だが、可能ならでかまわない! 撃退、もしくは殺傷して構わない!」


「「「「了解!」」」」


 四人が返事をするのと同時に、ロニに向かって三本の輝く何かが振り下ろされる。それをロニは、盾で受け流しながら斬りつけようとした。しかし、受け流した直後に振り下ろした剣は、当たらなかった。


「あっぶねぇー。捕縛とか言いながら、全力で頭叩き割ろうとして来るなんて、怖い姉さんだ」


 そう言いながら、真っ二つになった覆面を、腕に装着した鉤爪に引っかけ、ヒラヒラとさせるのは、黒い毛色の大きな四頭身の直立する猫、ケットシーだった。


「殺傷と言ったはずだが? やはり、ケットシーの盗賊……と言う事は、貴様達スリンキングキャットか」


「ご名答! 俺達は泣く子も盗む盗賊団、スリンキングキャットさ!」


 見栄を切ったような動きをしながら、黒いケットシーはそう言った。周りではマックスを奪うために他の四人のケットシーが、マックスを守っている四人のクーシーと戦闘を開始している。

 当のマックスは、この場から逃げ出したいのだが、どの通路を通るにしても、戦闘が行われている為に通ることが出来ない。結果、近くの倉庫の壁にへばり付いて、巻き込まれないように大きな身を小さくして震えている。


「ほう……噂は聞いている。ならば、気になるのは何故マックスを攫った? 別に彼は特別な存在ってわけでもないだろう?」


「まぁ、これは依頼でね。大きく太ったクーシーを捕まえてこいって言われたから、誰でもよかったのさ」


「ふむ、依頼内容を簡単に話すのだな。それに、別にマックスに拘る必要は無いんじゃないのか?」


「内容ぐらいは問題ないさ。たしかに旦那に拘る理由は無いな。だがよ、盗賊団が物を盗まれました。じゃ、格好がつかないだろ?」


「それもそうだな。さて、無駄話は終わりだ。捕まってくれ」


「お決まりの台詞だけど、嫌だと言ったら?」


「力ずく、だ!」


 話しながらもお互いの間合いをジリジリとつめていたロニは、タイミングを見計らって一気に前方へ突撃し、目の前の黒いケットシーに向かって鋭い突きを繰り出す。

 しかし、黒いケットシーもそれを読んでいたのか、危なげも無くそれを躱しながら、ロニに向かって鉤爪による一撃を見舞う。

 ロニはそれを盾で防ぎながら横薙ぎに剣を振る。だが、黒いケットシーはそれをもう片方のかぎ爪を上手に使い防ぎ、剣に引っかけ、上手に弾きながらカウンターを見舞う。

 それはロニの兜の留め金部分に当たり、兜を弾き飛ばす。そこで、両者ともに再度距離を取る。


「お返しだ、美人な姉さん」


「兜と覆面じゃ釣り合いが取れないんじゃないか?」


「一緒さ、顔を覆い隠す頭に装備するものだろう?」


「なら、貴様が盗むのならどっちを盗む?」


「そりゃ当然兜でしょう。値打ちが違うよ。値打ちが」


「なら、釣り合いが取れてない、な!」


 先ほどと同じように、ロニは一気に飛び込みながら今度は剣を縦に振り下ろす。それを又も先程と同じように躱す黒いケットシー。しかしロニは、今度は逃げた方に向かって、そのまま剣を力ずくで無理やり軌道修正し、薙ぎ払うように振った。

 これは予想していなかったのか、黒いケットシーは慌てて胸の前で鉤爪を交差させ、その一撃を防ぐ。甲高い金属音と共に黒いケットシーは後方へ吹き飛ばされ、近くの倉庫の横に積み上げてあった木箱に激突した。その結果塵や埃が舞い、その姿を隠す。

 しかし、すぐにそれを突き抜けて飛び出した黒い影は、倉庫の屋根に器用に登り、ロニに向き直る。


「おー痛ってぇ……しかも酷いなぁ、俺の爪が粉々だ。どうしてくれるんだい?」


 そう言いながら、黒いケットシーはお手上げだ。と、言わんばかりの動きをしながら、両手をヒラヒラさせている。両手に装着していた手甲に付いた三本の鉤爪は、綺麗に根元から折れているようだ。


「それは悪い事をした。なら弁償しようじゃないか、付いてきてくれないか?」


「付いて行ったら弁償してくれるのかい?」


「ああ、してやるとも。ちゃんと牢屋の中で反省したらな」


「それは勘弁だね……お、それよりもこっちの目的は達成できたみたいだな」


「何っ?」


 ロニが振り返ると、マックスは他のケットシーによって奪い返されており、猿轡を噛まされ、縛りあげられて屋根の上に連れ去られようとしていた。その下では、隊員のクーシー達が目を回したようにふらふらと、よたついている。


「貴様っ! 部下に何をした!?」


「何って……これかな?」


 そう、黒いケットシーが言いながら手を打ち鳴らすと、そこから光る何かが飛び出し、ロニの足元へ落ちてきた。それが地面に接触すると、強烈な光と音がロニを襲った。


「くそっ! なんだこれは!」


 ロニは嫌な予感がしていたため、その光る何かに対し盾を構えていたのが功を奏したのだろう。とは言え、一切を無効化することは出来なかったようで、目は見えづらく、耳もまともに聞こえないような状態になってしまい、フラフラとその場でよたついている。


「ははははっ! これかい? これは<猫騙し>(フラッシュスタン)さ。と、言っても今は何も聞こえないだろうけどね。じゃあ、お暇させてもらうよ。野郎ども、撤収だ!」


 黒いケットシーは、そんな事を言い残して、マックスを担ぎながら袋に入れている他のケットシーと合流し、どこかへ去って行った。少したってから回復したロニは、完全に見失った事を知り、いら立ち交じりに遠吠えをするが、意味はない。


「やられた! それにしても、私が戦っている間にあんな光も音も、部下の方からしなかったぞ? どうなっている」


 そんな事を呟きながら、未だにふら付きながらクゥーンと悲しげに鳴く部下へ近づき、その兜を外し、軽く顔を叩く。


「おい、しっかりしろ! 大丈夫か!」


「た、隊長―……目が見えないし、耳もキーンとするし、もうグワングワンなんですー……あー……すげぇー……」


「しっかりしろ! 何をされたんだ? 私には光も音も来なかったぞ?」


「何ですってー? 聞こえないんですよー……あ、なんか気持ち悪くなってきた」


「まったく……取り敢えず、横になれ」


 ロニは、他のフラフラしている三人の隊員の兜も外してやり倉庫の壁にもたれ掛るようにしてやった。それで幾らかマシになったのか、ポツポツと何をされたのかを語り始めた。

 なんでも、ケットシー達が手を打ち鳴らすと、そこから何か光る何かが飛び出し、それをすれ違いざまに兜の隙間から放り込まれた。すると、その直後に強烈な光と爆音が発生し、この様との事だ。


「なるほど……兜の中で炸裂したから、私の所まで音も光も来なかったのか」


(しかし、そうなると私には何故そうしなかったのだ? ああ、そもそも私は兜が脱げていたな。だからか? 他に考えられるのは、あの黒いケットシーだけが、あの威力を出せるのかもしれないな。そんな事よりも、だ……こいつらをどうしようか)


 既にケットシー達が逃げ去っているのは分かっていたので、ロニは隊員の回復を待ち、歩けるようになったのを確認し、まともに走る事のできる自分だけで皇城にある近衛犬士隊の兵舎へ戻る事にした。途中、雨が降り出し、丁度通り道にあった時計塔を見れば、そろそろ夕時の鐘がなる時間になっていた。


(もはやこうなってしまっては、餌として運ばれたマックスを、食べられる前に救出するしかないな)


 そう考えながら兵舎に着いたロニは、壊れた兜を取り替え、街へ散らばってマックスが運ばれる先を探している隊員の帰還を待った。そして、夕時を告げる鐘が鳴るか鳴らないか、そんな時間に数人の隊員が戻ってきた。


「隊長! 攫われたクーシーの送り先がわかりました」


「よくやった。それで、どこへ送られたんだ?」


「はい、ここ最近、邪精霊と呼ばれるモンスターがこの帝都内に運び込まれてから朝、昼、夕と、とある場所まで荷馬車が行って、すぐに戻って来るというのを目撃している者が多数おりまして、それらの証言をまとめた所、西門と街の中間地点である、何もないはずの場所に何かが有ると思われます」


「なるほど……幻術結界か、よっぽど隠しておきたいようだが、一体どんなモンスターなんだ? その邪精霊ってのは? 私は甲殻魔虫に似ているとしか聞いていないんだ」


「はい、甲殻魔虫の中でも特に固い甲殻を持つビートル系に良く似た見た目をしており、火や雷等の魔法も使いこなし、その角に触れれば傷が治り、刺されば死ぬとの事です」


「いや、それは嘘だろう。触って治るのに刺さったら死ぬって、意味が分からないぞ」


「すみません。なにぶん邪精霊についての調査はそこまで進める事ができませんでしたので。ちなみに、使役者はユーナ・マクラミンと言う元冒険者の、現騎士隊長らしいです」


「ふむ……よし、まずはマックスの救出だ。三人付いてこい。幻術結界と予想されるので、ゲイズストーンを装着して出発するぞ」


 ゲイズストーン、それは魔導院の変わり者と呼ばれる男が作り出した魔道具である。それを額や首等の頭部に近い場所に装着すると、幻、つまり視覚に対しての魔法への耐性を得る事ができ、幻術結界等の視覚に作用する魔法を見破る事ができるようになる。

 ただし、物によって性能差があり、更には日によっても性能が変わる上に、長時間付けていると気分が悪くなると言うあまりにも不安定な物のため、正式採用はされていない。そんな物がここにあるのは、ただ単にロニの趣味である。


「こういう事があるから、こういう物は持っておくべきなんだ。全員、装着したか? では、行くぞ」


 ロニ達は、雨がまだ降っているのでマントを付け、案内の隊員を先頭に四つ足で街を駆けた。そして、街の最西端にある貧民街とよばれる区域に差し掛かった所で、目の前に四つの影が立ちはだかった。


「おーっと、そこで止まってもらうぜ?」


 そう言って、呼び止めるのは先頭にいる大きな影、先ほど戦った黒いケットシーだ。腕には壊したはずの鉤爪付きの手甲を装着し、腰にはショートソードと、投擲用のダガーのような物を数本差して居る。どうやら、本気の装備という物のようだ。


「また貴様等か、通してもらおう。もうマックスは、お前の言う依頼人に引き渡したんだろう? なら、もう関係が無いはずだ」


「それがさぁ? なんでも、もし追手が来るなら……アレだ、邪精霊? まぁモンスターだ。それが食べ終わるだろう時間まで足止めしろ。って命令されちゃってさ? しかも、結構な依頼料を払ってくれるって言うからね? 仕方ないよな」


 挑発するように大げさな動きで、やれやれと言わんばかり首を振る黒いケットシーに、ロニは冷静に問いかける。


「なるほどな……依頼者を教えてくれ。と言っても、どうせ教えてくれんのだろう? しかし、なんで貴様等のような奴がこの街に入り込めるのか、私は前々から気になっていたんだ。どうだ、そっちを教えてくれないか?」


「依頼者の事はそりゃあ当然、教えられないな。でも、入り込む事が出来る理由なら教えてあげるよ。簡単さ、どんなに強固に作って、通り抜けるのに厳しいルールを作っても、人が作った物には何かしら抜け穴があるのさ。意図しようが、しまいがね」


「なるほど、方法までは答えてはくれないのか、釣れないな」


「いやいや、そこまで答えちゃったら俺達が動き辛くなるじゃないか」


「それもそうだ、な!」


 言い切りながらロニ達は一気に散開する。黒いケットシーと話しながらも、ロニは隊員にハンドサインを送っており、頃合いを見計らって散開し、誰か一人でも突破しようとしていたのだ。マックスの無事を優先するため、目的地に速やかに到着し、救出するためである。

 しかし、その作戦は失敗した。散開するのを読んでいたかのように、黒いケットシー率いるケットシー達も同じタイミングで散開し、見事に一対一の状態を作り出したのである。


「お姉さん方、通さないって言ったはずだぜ?」


「しつこい男は嫌われるぞ?」


「ごもっとも!」


 そう言いながら黒いケットシーは、ロニに向かって腰から引き抜いたダガーを投げる。それをロニは盾で弾き、黒いケットシーに突撃をしかけようとした。

 だが、目の前の黒いケットシーの悪戯が成功したような笑みから、何か嫌な感じがしたので、咄嗟に弾き飛ばしたダガーに向けて盾を構えた。

 すると、黒いケットシーが指を鳴らすのに合わせて、弾いたダガーが軽い爆発音と共に破裂し、その破片を散らす。ロニは、盾を構えていたおかげで、特に傷を負う様な事は無かった。しかし、その盾を構えた隙を突き、一気に黒いケットシーが接近してくる。


「よそ見は駄目だぜ?」


 そう言いながら繰り出される鉤爪による突きは、ロニの頭部、またも兜の破壊を狙っていた。それを、ロニは剣を真っ向からぶつける事によって防ぐ。しかし、黒いケットシーは防がれた鉤爪を装着した手と、もう片方の手を器用に打ち鳴らし<猫騙し>(フラッシュスタン)を発動させる。光り輝く石のような物が、打ち鳴らされた手からロニの顔目掛けて飛んで行く。


「二度も同じ手が通用すると思うな!」


 そう言いながら、ロニは兜の中にある革紐のような物を噛み千切る。すると、兜の全面が外れ、顎が露わになる。そして、光る石のような物に向かってロニは大声で吠えた。その咆哮が発せられると、光り輝くような石はかき消されるように消えてしまった。

 それを見て黒いケットシーは驚き、その隙を突かれロニに盾を叩きつけられ、近くの家屋の壁に叩きつけられた。


「ってぇ~……なんだい? 今のは」


<抗魔咆哮>(ハウリング)と言う、我々クーシーの魔法だ。吠え声に魔力を乗せ、それによって、簡単な魔法を打ち消す事が出来る物だ」


 ロニとしては話をせずにこの場から離脱し、早くマックスを助けに向かいたかったのだが、この黒いケットシーに背を向けるのは危険と感じたため、そうしなかった。ならばと、止めを刺しに飛び込もうとも考えたが、それをするにしても何か嫌な予感がしたので止めた。


「ずりぃなぁ、剣と盾を持って鎧を着ていて、おまけに魔法は打ち消せるなんて。どうやったらお姉さん方は倒せるんだい?」


「なぜ、わざわざ自分の倒し方を相手に教えると思うんだ? まぁ、一つだけ教えておいてやろう<抗魔咆哮>(ハウリング)は、さっきも言ったが簡単な魔法しか打ち消せん。だから、そうだな……中級一段か? それより上の魔法には全く効果が無い」


「それが本当だという証拠は?」


「敵に尋ねておいてそれを言うのか? 黒いケットシー君?」


 その時、夕刻を告げる鐘の音が教会区域から聞こえてきた。


「違い、無い!」


 と、言いながら黒いケットシーは壁にもたれ掛った体勢から真上に一気に跳躍し、ロニに向かってダガーを投げてきた。更に、盾を叩きつけられたときに壊れたのだろうか、右腕に付いていた折れた鉤爪も何をどうしたのか、発射してきた。

 ロニは爆発を警戒し、それを盾で弾くのではなく回避し、その着弾地点から離れる。その間に、黒いケットシーは腰に刺したショートソードを右手で抜き、ロニと向かい合う。

 周りを見れば、部下とその他のケットシーの戦いもちらほら決着が付いて、ケットシー側が倒れている。ロニと黒いケットシーは、お互いに次で決めると考えたのだろう。同時に走りだした。

 そして、通りの真ん中で激突。何かが折れる音と、何かが切れる音がして……黒いケットシーが肩を抱いて膝を屈した。


「勝負ありだ。貴様を捕縛する」


 ロニが振り向き、黒いケットシーに剣の切っ先を向けながらそう言うと、黒いケットシーは不敵に笑う。


「へへっ……そいつは、勘弁!」


 黒いケットシーがそう叫んだ後に、甲高い猫の鳴き声を上げる。すると、そこらに散らばっているケットシー達の武器や、黒いケットシーの武器から煙が一気に吹き出し辺りを塗りつぶした。

 そんな視界の無くなった空間で「野郎ども! 十分義理は果たした。撤退だ!」と、黒いケットシーの声が聞こえ、煙が消えた時、そこにケットシー達は居なくなっていた。


「くそっ逃がしたか……。そんな事よりも今はマックスか。お前たち、無事か?!」


 ロニが周りを見ると、へたり込む三人の部下の姿があった。全員、重傷とは行かないまでも手や足に怪我をしており、四つ足どころか二本足で走るのも辛そうな状態である。


「すみません、隊長。ウチらは無理です……この道を行った先、丁度門と街の中間地点の右側にあるはずなので、お願いします」


「分かった。お前たちは一度兵舎まで戻れ。そして、無駄になるかもしらんが援軍の用意をしておいてくれ。頼むぞ」


「はい、分かりました。ご武運を」


 話を終え、ロニは兜の留め金を使って開いた前方部分を閉め、道を走りだす。そして丁度、道の中頃で外れて少し行った所に、妙に空間が歪んだような所が見えたので近づいた。その歪んだ景色の近くで兜を外せば、その妙な歪みは見えなくなる。


「ここか……間違いなく幻術結界だな。それに不可侵結界の能力もあるのか……こんなもの、ついこの間まで無かったな」


 覚悟を決め、ロニは鎧やマントに付与(エンチャント)された結界透過の効果を使い、その結界に飛び込む。特に何がある訳でも無くその歪みを乗り越えた所には真四角の石造りの大きな建物と、木造の小屋があった。

 ロニは、まず木造の小屋を覗き込んだ。中には人間の兵士が二人居り、カードゲームをして遊んでいるようだ。


「こっちでは無い……なら、あっちか」


 小屋を後にし、石造りの建物に近づく。すると、中から聞いたことのあるクーシーの悲しげな鳴き声が聞こえてきた。


(間に合ったか! 今助けるぞ。待ってろ、マックス!)


 そう考え、ロニは一気に入り口から突入した。すると、そこには巨大な黒い甲殻魔虫が居た。鋭い五本の角は魔力を纏っているようで、ゆらゆらと怪しい輝きを放ちっている。

 そんな角が生える体は、艶のある黒で、生半可な……いや、どれだけ強力な武器を持っていても、傷すらつける事の出来無さそうな雰囲気を放っている。

 その体を支える六本の脚は、体に比べれば酷く細く弱いように見えるが、自身と比較すれば十二分に太く、力強く大地を掴んでいる。


(これが、邪精霊か……なるほど、隠したくなる気も分かる。こんな物、道のど真ん中に放って置いたらどんな事になるのやら……さて、どうやってマックスを助けるか)


 見ればマックスはその邪精霊の口元に、全裸に剥かれ仰向けで寝転ばされており悲しげな声で「やめてくれ~、僕を食べてもおいしくないよ~」等と言いながら、さめざめと泣いている。

 ロニは、邪精霊の隙を突きたいのだが、突入してから一切なんの動きも見せて居ないのを見て、どうやって隙を作り出せば良いのか考えて居た。

 そうやってロニが悩んでいると、邪精霊は羽を広げ「コンにィィィちッはァ」と言葉のようなものを放ってきた。


「貴様っ! 言葉が分かるのか!」


 ロニは武器を構え一歩下がった。


「言葉が通じるのなら、話は早い、その転がっているクーシーを返してもらうぞ。良いな?」


 しかし、目の前の邪精霊は何も答えない。


「聞いているのか? 沈黙は肯定とみなすぞ。おい、返事をしろ」


 だがやはり、目の前の邪精霊は身じろぎもせず、何も答えない。


(くそっ……表情が読めん。怒っているのか? だが……いや、仕方ない。強硬手段に出るか)


 ロニはそう考え、大きく吠え一気に突撃する。すると、目の前の邪精霊から何か魔法を使う気配を感じる。


(怒らせたか? いや、この距離だ! こちらの方が早い!)


 そのまま盾をぶつけて、頭部に付いている角を逸らそうとするが、ビクともしない。ならばと、剣も叩きつけるが一切効果が無い。それどころか手応えからして、剣が刃こぼれしてしまったようだ。


(しかし、目的は達成した!)


 少し焦りながらも、ロニはマックスを抱えて一気に入り口付近まで撤退することに成功した。


「無事か、マックス」


 そう言いながら、ロニは邪精霊に気を付けながら、マックスの腕を縛る縄を剣で切って行く。自由になったマックスは、ロニの後ろに隠れながら邪精霊の方を向く。


「ロニ、助かったよ! あいつ、ヤバいんだよ。僕の事をぐるんぐるん回して、弱るのを待っていたみたいで、ロニが来てくれなかったら、今頃足から食べられてたよ」


「それは、丁度良かったようだ。それよりも、これを体に巻いとけ、裸は嫌だろ? それに、逃げ出すのに必要だ」


 そう言いながらロニはつけていたマントを外し、マックスに渡す。マックスは少し照れながらもそれを羽織った。


「さて、マックス先に逃げろ」


「え? あ、うん分かったよ。邪魔になるもんね……じゃあ、死なないでよ!」


 そう言い残して、マックスは四つ足でボテボテと走って逃げて行った。


(さて、後は私が撤退するだけだが……この邪精霊、魔法を発動したようなそぶりを見せただけで何もしないが……どうなっている?)


 何が起こってもいいように、盾を構えながらロニは後ろにジリジリと後退し、出口に到達した瞬間に一気に反転し、四つ足で走った。


(追いかけても……来ない? 逃げ切れたか……)


 ロニはそのまま走り、街に入る手前でへばっていたマックスと合流し、そのままマックスを自宅まで送ってから兵舎まで戻り、身支度をしてから第一皇女の元へ向かった。


「姫様、ただ今戻りました」


「ご苦労様、ロニ。それで、クーシーは助けられたの?」


「はい、問題なく救出する事に成功しました」


「それは良かったわ! ロニは無事だったし、問題ないわね」


「いえ、問題が有ると言えば有ります」


 ロニは、スリンキングキャットに出会った事と、その戦闘結果及びどうやって帝都内に入ったのか、その方法が謎である事、そして依頼主が不明だと言う事をカーラに伝えた。


「なるほどねぇ……その辺りはお兄様達やお爺様に相談するわ。それにしても、モンスターにクーシーを与えたのは……誰だっけ?」


「ユーナ・マクラミンと言う最近任命された騎士隊長です。現在、スリンキングキャットに依頼した可能性が一番高いのも、この者かと思われます」


「許せないわね……どうしてあげましょうか?」


 ロニとカーラが悩んでいると、ローサが良い事を思いついたと言わんばかりに手を叩いた。


「姫様、隊長、決闘を申し込むとかどうです? ついでに、上手く行けばアタイ達の実力を大勢の前で見せる事も出来ますよ」


「それ良いわね! 勝てばそのまま仕返しになるし、貴方達の実力も知らしめることができるわ」


 それ採用! と言わんばかりにカーラが楽しそうに反応するが、それにロニが待ったをかける。


「待ってください姫様、あのモンスターは危険です。見てきた私が言うのです。戦っても勝てるとは思えません」


「大丈夫よ、何もそのモンスターを撃破しないといけない。って、わけじゃないんだから」


「は?」


「たしか闘技場の……なんだっけ? なんとか結界、あれが有れば死ぬことだけはないんでしょう? なら、三対三の決闘にして、その騎士隊長になったユーナとか言うのを倒しちゃえば勝ちよ!」


「それで、我々の強さを証明できるのでしょうか?」


 ロニの疑問に、カーラはとても良い笑顔で自信満々に答える。


「出来るわ。大体、使役者を倒そうと思うならその前にモンスターを引き付けるか、倒さないと駄目でしょう? それができれば十分よ」


「そうですかね?」


「そうよ! 大丈夫よロニ、貴女は強いわ。きっと出来る」


 結局ロニは押し切られ、ユーナ・マクラミンの元へ行き、決闘を叩きつける事になった。そして、決闘の日取りが決まると、カーラはロニ、ローサ、チャロを呼び出し、その前に武器を持ったクーシーを連れてやって来た。


「当日はこの武器を使いなさい」


「はっ! 有りがたく頂戴します。ですが何故、使い慣れた武器ではなく、新しいこの武器を使わないといけないのでしょうか?」


 ロニがそう聞くと、カーラはフッフッフと怪しい笑みを浮かべながら、芝居がかった口調で話し始めた。


「なんとこの武器はね、最近魔導院が開発した新機構が組み込まれているの。その名も! ……何か忘れたけれど、魔法を吸い込んで武器の威力を高めるらしいわ。決闘相手の邪精霊だっけ? は、なんでも魔法を撃つのが得意らしいじゃないの。なら、丁度いいじゃない? だから貴方達用の物を用意させたのよ。使い方は簡単で、武器に魔法が当たるようにすれば、勝手に吸い込んでくれるらしいわ。だから、一度も魔法を吸い込んでない時は、魔法に対する盾としても使える。って話よ」


「なんと……そんな武器を私達のために……有難うございます」


 ロニは、感動しながらその武器を手に取る。


「まぁ、試作品だから試して欲しい、みたいな意味合いもあるらしいんだけどね」


 そう言ってはにかむカーラに、ロニ達は「姫様……」「流石にそれは……」「そりゃないよ姫様!」と、三者三様におもわず突っ込む。


「大丈夫よ。まだ、数日あるでしょ? その間に軽く慣らせばいいのよ。それに、この武器じゃなくて、いままでの貴方達の武器を決闘の時に使っても良いけれど、その武器で上級三段をまともに受けられる?」


「なんで上級なんで……なるほど……」


 そうロニは問いながら、カーラの質問の意味を理解する。隣に居るローサとチャロも、その意味を理解しながら顔を顰める。


「上級魔法を使ってくる……って事ですか。なるほど、たしかに姫様の持ってきてくださった武器が必要のようですね」


 ローサの答えに満足したのか、カーラは腕を組みがなら目を瞑って頷く。


「ね? 必要でしょ? それに、試作品と言っても殆ど正式版と同じ。って、あの魔導院の人は言っていたから大丈夫よ」


 私を信じなさい! とウィンクをするカーラ。


「分かりました。有り難く使わせていただきます」


 三人は苦笑しながらも、姫様が信じた者が作った武器なら信用しようと決めた。そして、約束の日までに軽く慣らしをして、決闘当日、彼女たちは各々その武器を持って決闘に臨んだ。

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