第23話 闘技場と試験
昨夜に続き、今夜も寝ようとしていた自分の前に、リューシーとソフィアが来た。
(と言う事は、昨日話して居たクソ爺を出し抜く方法でも思いついたのだろうか? できれば寝させて欲しいんだけど)
そう自分が考えて居る事を知るはずも無く、リューシーは元気いっぱいに話しかけてくる。
「良い夜ね! こんな日は悪戯がしたくなるわね」
「何です? 昨日話してた、クソ爺を出し抜く方法でも思いついたんですか?」
「そうよ。と、言いたいとこなんだけど、そうじゃない。とも言えそうね」
正直面倒臭いと思っていたので、断る方向で話を進める事にする。
「良く分からないんですけど、ちょっと今日は止めときませんか? 自分、ちょっと寝たいんですよ」
そんな自分の答えが気に入らなかったのか、リューシーは頬を膨らませ、少し不機嫌そうな顔で答える。
「なによ、せっかくこの檻として機能して無い檻から誰にも気が付かれず、静かに出る方法を教えてあげよう。と、思ったのに」
断ろうとは思っていたのだが、自分は思わずその方法が気になり、少し身を乗り出してしまう。
「ちょっと待ってください。詳しく話を聞きましょう」
その答えを聞き、先ほどとは打って変わって、リューシーは満足げな笑みを浮かべて話始める。
「ふふん、最初からそう言えば良いのよ。でね、出し抜く方法にも関係するんだけど、この結界から静かに出る方法からね。まず、私とソフィアが実は常に魔法を使っているのには……気が付いてないわね?」
そう言われて、自分はリューシーとソフィアを目を凝らして見る。しかし、何かしているようには見えない。
「はい、全然気が付いてないですね。と言うより、何かしていたんですか?」
その自分の言葉にリューシーとソフィアは、少し顔を顰める。
「いやぁ、最初に会った時から効いてないなーとは思っていたけど、面と向かっていわれると、ちょっとショックだね」
ソフィアはそう言いながら苦笑する。それにリューシーは頷き、話始める。
「まぁ、あんたに効いて無いのはこの際どうでも良いのよ。で、その魔法なんだけどね、効果は術者を中心に幻を見せる。って魔法なんだけど……細かく説明するのは面倒くさいから簡単に言うと、周りから見えなくなって、特定の結界以外なら通り抜けられるのよ」
「なるほど、そんな魔法を使っていたんですか。それで、その魔法がどうしたんです?」
自分が感心していると、リューシーは片手を腰に当て、空いている方で自分を指さしながら「まず、この魔法をあんたに教えてあげるわ」と、言った。
「教えてくれるんですか? 自分としては、ここから静かに抜け出せる魔法を教えて貰えるのは嬉しいのですが……何かさせる気ですね?」
何か裏が有るんだろうな、と思ってした自分の質問に、リューシーはニヤッと嫌な笑みを浮かべながら、話を続ける。
「そうよ、ここで出し抜く方法なんだけど。あんた、そこから出て適当にあんたの仕業と分からないように暴れなさい。それにクソ爺が手間取っている間に、私たちが好き放題するのよ!」
リューシーは正しくドヤ顔と言った表情で、両手を腰に当て、胸を張り、自分の方を向いている。
「突然、無茶苦茶言いますね。それに、その方法で大丈夫なんですか? 仮に自分の方に目を向けたとして、なんでしたっけ? 人形でしたっけ? それが来るんじゃないんですか?」
自分は思わず呆れたように言うが、リューシーは一切気にした様子も無く会話を続けている。
「そこは大丈夫よ。人形だけなら、どうにかできるの。そこに、あのクソ爺が来たら逃げる位しか出来なくなるのよねぇ……下手な事をすれば、倒されまではしないけど、封印とかされそうだし。と言うか、一回されかけたわ」
少し聞き捨てならないような単語があるが、自分の答えは決まっている、
「なるほど、わかりました」
「で、私のこの作戦どうかしら?」
自信満々と、言ったような雰囲気がリューシーの全身から出ている。
「まぁ、普通に却下ですね」
しかし、そう自分が決めていた答えを言うと、リューシーは詰まらなさそうな顔になる。
「えー? なんでよー、良いじゃない」
「初めて会った時にも言いましたけど、自分が下手な事をすると身元引受人? 協力者? の、ユーナさんに迷惑がかかりそうなんですよ。そうすると、自分が探している人間になる方法や、共有語を教えて貰うって言う約束が守れなくなるかもしれないんですよ。だから、自分が直接何か騒ぎを起こす。と言うのは無しにして欲しいんです」
それを聞いて、リューシーは考え込むように腕を組んで「ウーン」と、唸りながら頭を前後に揺らし始めた。
「よし、取り敢えず、あんたにここから静かに出る魔法を教えるわ」
考え込んだリューシーの答えは、結局自分に魔法を教える。と言う物だった。
「それはさっきも聞きました。でも、自分はそれで街に行って何かする。なんて事はしませんよ?」
「いいわよ。最初からどんな答えを聞いても、教える予定だったもの」
そう言いながら、リューシーは何故か得意げな様子である。
「それはまた何故ですか?」
「簡単よ、もし、何か方法を思いついたとして、その時にこの魔法が必要だ。ってなった時、あんたに教えるのに手間取って、そのチャンスを逃したら嫌でしょ? 嫌なの。だから、先に教えておこうって事よ。後、昨日は本当に久しぶりに楽しかったから、おまけに教えてあげるって所かしらね」
「なるほど、わかりました。そういう事なら教えてください」
「いいわよ、じゃあまた頭をだして」
その夜は、結界を静かに抜けることのできる魔法<幻影の膜>の習得だけで過ぎていった。練習の途中、特に何もする事が無かったソフィアは「じゃあボク、今夜は好きにしとくね」と、言い残してどこかへ行ってしまった。
そして夜が明ける頃には、取り敢えず発動させ、その状態を維持をする事はできたので、試しに結界に近づいた。杭から発生する結界に角を近づけると、一瞬、ブンッと虫の羽音のような物が鳴ったが、角は結界を壊すこと無く外に出た。
(おお、これは凄い)
角を結界の中へ引っ込め、納屋の中へ戻る。魔法が成功した自分を、満足げに見ているリューシーに、ふと思った事を聞く。
「ところで<幻影の膜>を使っていても抜けられない結界は、どこに張ってあるんですか?」
「そうね、まずはこの街を囲うあの壁から伸びている結界ね。あれは抜けられないわ。次に、最後に悪戯しに行った所に男と女が居たでしょ? あの建物ね。後は、威張りん坊の街の家が何軒かと、街の真ん中にあるやたら大きなお城かしら。特に、お城はヤバイわよ? なんたってクソ爺が居るから結界も特別製で、下手に侵入しようとしたら一発で見つかって、もの凄く怒られるんだから」
「なるほど……分かりました、有難うございます」
ウンウン、と頷きながらもリューシーは、眠たそうにしている。
「さて、これで<幻影の膜>は覚えたわね? 細かい所は自分で練習してね。それじゃあ、今度会う時には出し抜く方法を考えてくるわ。その時は一緒に遊びましょう」
そう言って、リューシーは笑顔のまま手を振って消えて行った。
(これで自分、何徹目なんだろうか? 眠気も疲労感も無いから、問題は無いんだけど……本当は、今日は寝るべきなんだろう。でも、何故か今日に限ってユーナさんが来る気がする)
その予想は当たったようで、昼食を食べ終わった少し後、ユーナさんが荷馬車に乗ってやってきた。
「ゴメン ブリュー ゼンゼン クル ナイ」
「いえ、まぁなんとなく予想していましたし、仕方ないですよ。まぁ、今日来なかったらお城でしたっけ? 突撃していたかもしれませんが」
自分が、半分冗談でそう言うと、ユーナさんは明らかに動揺しはじめる。
「ソレ ダメ ゼッタイ ダメ ワタシ オウジョウ イナイ ワタシ イル キゾクガイ」
「キゾク? 貴族でしょうか?」
「ソウ キゾク エラソウ ニンゲン キゾク ソレ イル マチ ワタシ イル」
(キゾク……貴族か。どうやら、リューシー達の言っていた、威張っている奴らの街は本当に貴族街だったみたいだな)
「はい、わかりました。もし、何かあってユーナさんを探すなら貴族街に行きますね」
そう言うとユーナさんは、今度は頭を抱え「ウー……アー……」等と唸り、諦めたように肩を落とす、
「ソウ ナニカ アル タブン ワタシ キゾク マチ イル」
「大丈夫ですよ、よっぽどの事が無い限り行きませんから。それで、来てくれたのは人になる魔法の情報が有ったのでしょうか? それとも、共有語を教えてくれるのでしょうか?」
「リョウホウ アト グチ キイテ」
「愚痴?」
そこから、ユーナさんの愚痴が始まった。
叙任式が長いわ、その後にあったパーティーは堅苦しいわ、貴族との顔合わせが面倒臭いわ、ドレスやマナーが面倒くさいわ。と言う、一日目から三日目辺りの話に始まり、騎士になったのだから騎士学院に入れ。と言われたので入ったら、なぜかユーナさんを中心に面倒な事が起こったり、全然関係の無い事に巻き込まれたりと、大変な目に合ったそうだ。
そして、やっとの事で貰えた休日である今日も、半分は任務のような物だそうだ。
「はぁ、大変だったんですね。それにしても、それでそんな服装に変わっていたんですか」
ユーナさんは、いつも着ていた踊り子のような布面積の少ない民族衣装のような物では無く、貴族とか騎士とか、そういった人物が着て居そうなピシっとした騎士服と言うのだろうか? 手の込んだ高そうな仕立ての良い服を着ていた。
上着は赤を基調に黒と白が入っている物で、肩の部分には、黄色い盾を持ったドラゴンが、刺繍で描かれていた。
対して下はシンプルで、足のラインが出るようなピッチリとしたタイプの、白一色の長ズボンを履いていた。
(何て言うか……王子様っぽいなぁ。と言うか、いきなり凄いイメージチェンジだな)
そんな事を思っている間にも、ユーナさんの愚痴は続いている。
「タイヘン ホント タイヘン」
きりが良さそうなので、話を変える事にする。
「大体分かりました。お疲れ様です。それで、任務と言っていましたが、何かあったんですか?」
「ソウ ニンム ブリュー シケン? タメス イウ コウテイ キゾク ヨク ワカラナイ イウ」
「全体的に意味が分からないんですけど、何にしても直接聞いたユーナさんが分からない事を、自分が分かる訳ないじゃないですか」
「イイ ツイテ クル オネガイ」
そう言いながら自分に背を向けるユーナさんに、自分は一番重要な事を聞いていないのを思い出した。
「まぁ、良く分からないですけど良いですよ……それより、人化の魔法に関しての情報は何ですか?」
自分の質問に、ああ、それそれ。と言ったような表情で、ユーナさんは振り返る。
「コドモ タスケタ ムラ シリョウ ハコブ オワッタ ケンキュウ ハジマッタ」
「ああ、あのキース君でしたっけ? あ、もしかして隠れ家の魔法を解析して、人化できる新しい魔法ができそうって話ですか?」
「ワカラナイ デキル カモ? デキナイ カモ? ソレ ベツ キタ アマダ オウコク ヒト モンスター ヘンシン ヘイシ イル サイキン ソコ センセンフコク シソウ」
(アマダ王国? たしかソフィアが言っていたのも、そこだったはず。なら、渡りに舟だ)
「なるほど、次はそこと戦争する可能性があるわけですね?」
自分の質問に、ユーナさんは神妙な顔で頷き、言葉を続ける。
「カノウセイ タカイ ダカラ ザイゴッシュ オウコク イウ テイセン ノム シタ」
「ははぁ……そんな事が有ったんですか。それでは、共有語を教えてくれると言う話は?」
自分が、火山の近くでの戦争がすぐ終わった理由を知り、納得しつつも最後の約束についてユーナさんに尋ねる。
「ソレ ジカン ナイ ゴメン デモ ホン モッテ キタ ヨンデ オボエル オネガイ デモ デキルダケ ワタシ クル」
すると、ユーナさんは申し訳なさそうな表情でそう言って来た。どうやら、ユーナさんは今後も忙しくなるようだ。個人的には、人間に変身する魔法を早く見つけたいし、そのために共有語も覚えたいのだが、どうしようもない。
ふと、ユーナさん以外に共有語を教えて貰おうと考えたが、自分に共有語を教えられるのはリューシー……は無理として、ソフィア位だろう。というかソフィアしか居ない。
しかし、ソフィアの能力的に人に変身して戻って、を繰り返さないと出来ないとなると、時間がかかって仕方ない。それに、言ってもやってくれない気がする。
「うーん……仕方ないですね。愚痴の内容や、戦争しそうなんて状態なら、ユーナさんは騎士隊長でしたっけ? そんな立場に居るなら忙しくなりそうですもんね」
「ゴメン アト ニンム ツイテキテ」
「ああ、そうでしたね。どこに行くんでしょうか?」
自分の疑問を聞きながら、ユーナさんは詰所に居た兵士に指示を出し、杭に向かって何かし始める。すると、杭から発生していた結界が消滅した。
「ツイテ キテ」
そう言いながら、ユーナさんは荷馬車に近づく。御者である中年男性は、自分の姿を見てユーナさんに何か言っていたが、ユーナさんが何か言うと、渋々と言った感じで黙った。
そして、ゆっくりと荷馬車が動き出す。荷馬車には詰所に居た兵士一人と、ユーナさんが乗っている。
それに追従する形で自分は移動する。馬車は街へ向かって移動するかと思えば、道を外れ街の周りに広がる草原をどんどん進んで行く。そして、少しすると、何か大きな建物が見えてきた。
高さはそれほどでもないのだが、幅は目測で三百か、もしかすると四百メートル位の長さがあるようだ。しかし、その大きさでも帝都の街部分と、壁部分の間に有る草原の半分に届かない位だと言うのだから、帝都の壁、ひいては帝都その物の大きさが尋常ではない事を、再確認する。
「ブリュー アレ エンシュウ ジョウ ケン トウギジョウ アソコ イク」
自分が再度(本当、この街は何が目的でこんなに大きいんだ)と、感心していると、ユーナさんが目の前の大きい建物を指して言ってきた。
(嫌な予感しかしない)
トウギジョウ、闘技場だろう。そこに着くと、荷馬車はユーナさんと兵士を降ろして、街へと向かって戻って行った。
ユーナさんは自分に手招きをしながら、闘技場の搬入口のような、自分も余裕では入れる大きな入り口に入って行く。そこに自分も入って行くと、殺風景な大部屋に出た。
部屋の端には、空の木箱や樽や、中途半端な縄や引きちぎられた鎖が置いて、いや、落ちていて、壁にはこれまで何度も見た、明かりを発生させている道具が何個も吊るされている。
入り口の反対側、つまり自分の真正面には、鉄で出来た頑丈そうな大きな扉があり、その少し離れた所に人間サイズの普通の扉がある。
多分、闘技場の外周である客席とかの内部に繋がっているのだろう。そんな部屋の中央で、ユーナさんはこちらを向いて待って居る。
「ココ キタ リユウ コウテイ キゾク イッタ セツメイ アイテ トウギジョウ イル タタカウ タオス チカラ ハカル イッテタ」
「なるほど、自分の力を把握するために闘技場で戦わせる。と言う事ですか」
(ふざけんな? って感じだけど、その気持ちが分からないでもない。だからと言って許すつもりは無い。どうしてくれようか)
そう考えて居ると、視界の隅で先ほどから走っている存在が目につく。最初見たときは、獣人とか呼ばれている人種だと思っていた。しかし、良く見れば違う。
獣人は、人間と同じ体のつくりをしている。それは、ここに来るまでに見た獣人たちで確認済みである。猫みたいな頭だからスラッとしているとか、熊みたいな頭だから大柄だという訳ではない。
本当に人の頭が獣になっていて、毛深いだけなのである。流石に服の下は知らないが、普通の人間と同じような服を着て居るのだから、何か特殊な形状をしている訳では無いだろう。
しかし、周りで何やら忙しそうに動いているのは明らかに人間より小さく、一メートルあるかどうかの身長で、どう見ても直立して服を着た四頭身の犬なのである。
「ユーナさん、ところで話は変わりますけど、この周りで色々している……犬みたいな人みたいな、良く分からない生き物は何ですか?」
「イヌ? ヒト? ヒト チガウ クーシー イヌ ヨウセイ モンスター チガウ デモ ヒト チガウ」
「犬妖精? と言うより、妖精? ばっちりと見えてますけど、妖精なんですか?」
「ウン? ヨウセイ ミエル フツウ ミエナイ セイレイ」
「え? あー……はい、そうなんですか。いえ、何でも無いです」
(え? 妖精って普通こう、見えない存在で悪戯的な物をするんじゃ? いやもう、なんでもいいか。それより、あれだ。可愛いな、この……クーシーだっけか。柴犬? コーギー? 犬種は分からないけど、犬だ。しかも、何を思ったかデフォルメされたような体型だからもう、何だ? 凄いな……そうか、なるほど。可愛いから妖精って事か)
そうやって自分が変に納得していると、ユーナさんが不安気に自分を見ながら話しかけてきた。
「クーシー キライ? イヤ ナラ ニンゲン カエル スル」
「いえ、そんな事は無いんですが……」
そこで自分は閃いた。
「そうですね。この、なんでしたっけ? 試すって事ですから……試験? 試合? 良く分からないですけど、これが終わったらクーシーを一人? 一匹? どっちになるのか分からないんですけど、ください」
そう自分が言うと、ユーナさんは少し顔を顰めた。が、すぐにいつもの表情に戻って考え込みだす。
(何だ? 何か駄目な事を言ったか? どうせあの納屋の中に自分一人、いや一匹で居るなら何か刺激が欲しい。それに、ユーナさんが本を持って来るとか言っていたけど、自分のサイズに合った本を持って来るはずが無い。だから、誰かの手を借りないと読めないだろう。最初は、詰所に居る兵士にページをめくってもらえば良いか。と思っていたけど、こんな可愛い生き物が居るならそれに頼みたい)
自分は考え込むユーナさんを見ながら、却下されたらどうしようか? いや、どうしてくれようかと、内心少しハラハラしながら待つ。
「ワカ……ッタ ウン ワカッタ アト オワル ワタス ヒトリ イイ?」
難しそうな表情で絞り出すようにユーナさんがそう言った。
「はい、一人で良いです。周りを走っているのに似ているのなら、どれでもいいですよ」
(数え方は一人なのか……それにしても、ユーナさんは何を難しい顔をしているんだろう?)
そうこうしている内に、普通の扉から兵士が出てきて、ユーナさんに何か言った。
「ジャア ブリュー イマ シケン スル セツメイ スル」
「はい、お願いします」
ユーナさんの説明によると、まず自分はこの正面の大扉を通って闘技場の中央にある舞台に入る。そして、そこで色々なモンスターと戦う事になるらしい。その際、色々な方法で戦ってほしいとの事だ。全部のモンスターを撃破すれば終わりで、その後納屋に戻る。との事だ。
(まるっきり剣闘士じゃないか。いや、剣闘虫か。それにしても、自分に休憩は存在しないのか)
「ワカッタ? アブナイ ナル ワタシ トメル シタイ」
「何て言うか、止めるならこの話が来た時点で止めてくださいよ。まぁ、止めなかった。と言う事は、あの火山のドラゴン位強いモンスターは出ないんでしょう?」
「ソウ デナイ デモ キヲツケテ ホントウ アブナイ ニゲル イイ イキノビル ユウセン」
(自分が逃げたら、ユーナさんも困るだろうに……まぁ、あの火山のドラゴンが出ないなら問題ないだろう)
自分がそう納得した所で、目の前の大扉が重い音を立てながら開いて行く。中は大部屋と似ているがそれより小さく、待機所のようになっており、少し行った所が出口のようで、鉄柵のような物がある。
「キヲツケテ アブナイ ニゲル イイ」
ユーナさんは、そう言い残して普通の扉の方へ入って行った。周りを走り回って何かをしていたクーシー達も、いつの間にか居なくなったので、自分は前に進んだ。
そして鉄柵の前まで来ると、後ろで大扉が閉まった。少しすると銅鑼のような音とラッパの音が聞こえ、滑車が回るような音ともに目の前の鉄柵が上下に開いて行った。
(どこまでも拳闘虫扱いだなぁ……何か緊張してきた)
闘技場に出ると、中の様子が良く分かった。闘技場は、いわゆるコロシアムと言うような建物に似た、円形のすり鉢のような構造をしているようだ。
観客席の前にはフェンスのような金属製の網が張ってあり、目を凝らせばその外側に結界らしきものが張ってあるのが見える。
(なるほど、中から飛んで来るものを防ぐのと、万が一にでも脱出されないようにしてあるのか)
そして、試験や図るためと言ったような物だからだろうか? 広い観客席は一部分以外、人が居ないと言う状態だった。
その僅かに居る人も、いかにも貴族っぽい人や、軍人っぽい人しか居なかった。
そうやって周りを見ている間に、又銅鑼とラッパの音がする。そして自分とは反対側、真正面のゲートから、大きなメイスを持った顔色の悪い、猫背で半裸の大きな老人が出てきた。しかし、近づくにつれそれが人ではない事が分かった。
まず、本当に大きい。猫背であるにも関わらず、人間を優に超える身長である。頭に生えている髪の毛は、好き放題に伸ばしたような感じで不潔感が漂っている。皮膚も顔色が悪いのではなく、元々灰色がかった色をしているだけのようだ。身にまとう服のような物も、適当な獣の皮繋ぎ合わせただけのような物のようだ。
しかし、その手に持っている大きなメイスだけは、特別に作られた物なのだろう。その体に合った大きさでありながら、ちゃんとしているようで、振り回せば何でも砕く事ができそうな、危険な輝きを放っていた。
(わざわざここに出てきたってことは、人間じゃなくてモンスターになるんだろうけど、これ、なんてモンスターなんだろう? 大きな老人だから、巨老? 何か違うな。ハイパー老人? そんなわけないか。何か分からないけど、これと戦うのだろうか?)
自分が、目の前の良く分からない生き物を観察していると、それは咆哮を上げながらメイスを振り上げて走ってきた。
まずは、距離が離れていたので<雷光の大槍>を撃つ。五本の雷が走り込んでくるハイパー老人に殺到する。何故か二本は自分の意志に反してメイスに引き寄せられるように飛んで行き、それを砕いた。
しかし残り三本は直撃し、ハイパー老人はその場で激しく全身を痙攣させながら煙を吹き、そして炎に包まれながら倒れた。
自分は、片手を上げた状態で倒れて伏し、燃えているハイパー老人を見ながら(え? どうしたら良いんだこれ)と、思っていると、数人の兵士とクーシーが燃え上がるハイパー老人に近づき何か確認した後、見ている人の方へハンドサインを出す。
見ている人がそれを確認したのを見て消火し、動かないハイパー老人を、何か魔法でも使ったのだろう。少しだけ浮かばせて、自分が入って来た闘技場の舞台に入るためのゲートへと持って行った。
(あ、死んだのか……なんだかあっけないな)
それを見送って少しすると又、銅鑼とラッパの音が鳴り、目の前のゲートから地響きを上げてモンスターが飛び出してきた。
四本の堅そうな皮に包まれた太く短い脚、その足が支えるのは、これまた堅そうな皮に包まれた巨大な胴体、そこから生える太い尻尾には先端にトゲが生えており、振り回すだけで周りに甚大な被害を与えられそうな凶器になっている。
そして、尻尾とは反対側から生える首は、これまた逞しく、そんな首が支える頭部はまさに武器であった。
まず、大きなカイトシールドを二枚重ねたような襟巻があり、そこからどんなものでも貫けそうな巨大な角が二本生えている。
更に頬に当たる部分からも、前方にせり出すように歪曲した短いが、鋭い角のような突起物がある。
そして、鼻先には天を突くように上向きに反った、他の四本よりも太く鋭い角が生えていた。
つまり自分は、前世の知識で言うトリケラトプスに似た恐竜のようなモンスターと、真正面から対峙する事になった。
(やばい、格好良い! でも、あの尻尾はないな。せっかくの角竜らしさをぶち壊している。いや、あれはあれで……。さて、そんな事を考えて居る場合でもないか)
角竜モドキは興奮しきっているようで、襟巻には目のような赤と黒の模様が映っており、鼻息も荒く前足で地面を掻き、今にも突進してきそうな雰囲気である。
先手必勝、自分は角竜モドキに対し、ハイパー老人にした時と同じように<雷光の大槍>を撃つ。五本の雷は真っ直ぐ角竜モドキに殺到し、全てが角竜モドキの五本の角へと当たった。
(いや、当てさせられたのか?)
角であったとしても、まともに<雷光の大槍>受けたはずの角竜モドキは、直撃を受けたにもかかわらず、先ほどまでと同じような動作で自分の方を向いており、五本の角が火花を散らし帯電しているような様子以外、何も変わっていない。
(ん? 帯電?)
自分がそう思った頃には遅く、角竜モドキの角が輝いたかと思えば、自分の居る周りの地面がコゲ付いていた。
(もしかして、魔法を反射された?)
そう思い、今度は<爆炎の大槌>を放つ。巨大な炎の塊が、角竜モドキへと飛んで行く。それを角竜モドキは、避けようともせずその場で踏ん張って待ち構えている。
そして、炎が鼻先の角に当たった瞬間、吸い込まれるようにして消え、角竜モドキの五本の角からユラユラと陽炎が立ち上る。
次の瞬間、角竜モドキの目の前に先ほど自分が放った魔法と同じ物が発生し、自分に向かって飛んで来る。
(すげぇ……本当に反射してる。これは、魔法が効かないタイプのモンスターなのか?)
自分はそう考えながら迫りくる炎の塊に対し、<濁流の鞭>を放つ。
自分の角の間の中心、前胸殻の中央の前に幾何学模様が出現し、そこから大量の水が吐き出される。そして、少しの間炎の塊と水の柱がぶつかり合い、水の柱が炎の塊を飲み込み消し飛ばした。
その際、大量の水蒸気が発生し、視界が無くなる。しかし、正面から何か大きなものが、地響きを立てて迫ってくる気配を感じる。
(まぁ、間違いなくあの角竜モドキだろう。角には角で応戦しろ。と、言う事なんだろう)
自分は五本の角を束ね、突進してくるであろう角竜モドキを待ち構える。その考えは正しかったようで、まさに角を束ねた中央に角竜モドキは突進してきて、鼻先の角が衝突した。
その結果、太い木が折れるような音をさせながら角竜モドキの角が折れる。だが、それだけでは突進の勢いは衰えず、そのまま頭が角に突き刺さり、勢いのまま首、胴体と自分は貫いて行き、最終的には角竜モドキを真正面からぶち抜くと言う形で終わった。
(おおぅ……これは、酷いな。とんだスプラッタだ)
今度は確認作業のような物は無く、やってきた兵士達はクーシー達と連携して綺麗に死骸を運んで行った。そして、それが終わると同時にまた銅鑼とラッパの音が鳴った。
(まだ続くのか……そういえば、どれだけやればいいのか聞いてなかったな)
そして、真正面のゲートから飛び出したのは、あのウレジイダルに移動していた時に襲ってきたのと同じ、緑色の普通のドラゴンであった。
(え、今更これ? いや、まぁ別にいいけど)
ドラゴンは登場してすぐ、自分に向かい咆哮を上げたかと思うと、空へ飛び立った。しかし、結界に阻まれ余り高度は上げられないようだ。
そして、そんな結界が気に入らなかったのだろう。結界に向けて、ドラゴンはブレスを吐いて脱出しようとしている。それを見て、見学している貴族っぽい人間の何人かが、怯えているようだ。
(うーん……これ、結界を割って逃げるまで眺めていたら駄目だよな。でも、そうだな……よし)
自分は五本の角を束ね、羽を広げ、魔力を一気に歪みを作らないギリギリまで上げ、空中で逃げようともがいているドラゴンに向かって突撃した。
自分が突撃してきているのに気が付いたドラゴンは、ブレスを結界ではなく自分に向けて吐き始めた。しかし、真正面から吐かれているため、それらは全て束ねた角に弾かれる。
そしてそのまま、自分は綺麗にドラゴンの腹に当たり、胴体を真っ二つに貫通した。更に勢い余って、そのままドラゴンが破壊しようとしていた結界にまで当たってしまい、結界を破壊してしまった。
(……わざとじゃないですよ?)
そんな事を考えながら見学している人間達を見れば、結界が壊れたためか、今まで自分を品定めするように見ていた貴族っぽい人間や、軍人のような人間は、あからさまに取り乱して、近くの出口から逃げ出そうとしている。
それを、何だか偉そうな白い髭のお爺さんが一喝すると、混乱が収まった。そして、ユーナさんを近くに呼んだのだろう、近づいたユーナさんに何か言うと、ユーナさんが観客席の一番前までやって来た。
そして、闘技場の舞台中央に着陸し(どうしたらいいんだろう)と、思っていた自分に大声で話しかけてきた。
「ゼンブ オワリ モドル オネガイ」
「これで終わりですか。わかりました、じゃあクーシーとか、魔法本とか、共有語とか、全部お願いしますよ? 一週間なら待ちますけど、それを過ぎたらアレですよ? こう、アレですからね?」
ずっと大声は話辛いだろうと思い、ユーナさんの近づきながら答える。ちなみにアレと言いながらも何をするかは思いついていない。あと観客席に接近する際、最前列付近にいた人たちは、大急ぎでそこから離れようとしていた。
「アレ? ワカッタ チャント スル」
「じゃあ、自分は納屋まで戻りますね。また数日後に」
自分は、そう言い残して飛び上がり、闘技場から出ようとした。しかし、納屋の場所を確認できるほど高度を上げると、今度はこの帝都そのものを覆っている結界に当たってしまって、それを破壊してしまうかもしれない。なので、再度ユーナさんの近くに降りる。
「すみません、納屋はどっちでしたっけ?」
ユーナさんはそれが可笑しかったのかクスクスと笑いながら「チョット マツ オネガイ」と、言って観客席の出口へと行った。少しすると、自分が出てきた方のゲートからユーナさんが歩いてきた。
「ツイテ キテ モドル コッチ」
ユーナさんの先導に従い闘技場を出て、街の外の壁に向かって歩く。そして壁ギリギリまで来ると、街の外周に少し隠れてはいるが、遠くにポツンと草原に佇む納屋が見えた。
「アソコ イク デキル ミツカル シナイ オネガイ」
「できるだけ誰にも見られずに行くんですね? 分かりました。それでは、クーシーを始めとした色々な件、ちゃんとお願いしますよ?」
自分がそう言うと、何故か神妙な顔をしてユーナさんは「ワカッタ」と、答えた。
それを、なんだか変だなと思いつつ「では、今度こそ数日後に」と、自分はそう言いながら<幻影の膜>を発動する。
体感的には何か変わった気はしないのだが、目の前に居るのにもかかわらず、ユーナさんが驚いた顔でキョロキョロしているので、成功しているようだ。
そのうち、ユーナさんは自分を探すのを諦めたのか、闘技場へと戻って行った。
(目の前に居たのに、完全に見失わせるなんて、凄いなこの魔法。もっとも、まだ練習が必要そうだけど)
ユーナさんが戻って行ったのを見て、気が抜けてしまったのか、どうも脚や角の先等、先端部にまで魔法がかかっていないような感じがする。
なので<幻影の膜>の練習のため、それを維持しながらまっすぐ納屋に戻った。そして、戻ってからは夕食の時に来る兵士以外、誰も来なかったので、夕食を食べた後はすぐに寝た。久しぶりにゆっくりと眠れた。
ブリューが納屋から出てからの詰所
兵士A「いやぁ、それにしてもあのモンスターすげぇ大人しいよな」
兵士B「だなぁ、俺は正直もっと手間がかかったり餌をやる時に、俺達が襲われて殺されると思ってたぜ」
兵士A「お前、すげぇ覚悟してたんだな……そういや、あれどこに連れて行ったんだ?」
兵士B「ん? ああ、なんでも能力をみるために、お偉いさんだけで闘技場で剣闘士の真似事をやらせるんだとさ」
兵士A「はー、そうなのか。良いなぁ、俺も見てみたいぜ」
兵士B「なんだ、お前そういうの好きだったか?」
兵士A「いや、それで賭けとかやったら、すげぇ楽しそうだなってな」
兵士B「お前……」
ブリューが納屋に勝手に戻った後の交代時間の詰所
兵士C「なぁ、晩の餌も一緒に持ってきたがよ、今居るのか?」
兵士A「ああ? 俺は帰って来たとこ見てないぜ」
兵士B「ん? さっき見たときには居たぜ?」
兵士A「は? いつ帰って来たんだよ」
兵士B「知るかよ。でも、居たから餌を食わせとけばいいだろ」
兵士A「そうだな。居るなら別にそれでいいか」
兵士C「おい、あんなデカイのが帰ってきてるか分かって無いって相当やばくないか?」
兵士D「あれじゃねぇの? 使役者の……なんとかって騎士隊長様が、隠蔽結界を解除して勝手に放り込んで行ったんじゃね?」
兵士C「それならそれで怖ぇよ、なんで詰め所に知らせないんだよ」
兵士A「何でもいいだろー、どうせ問題なんかねぇよ。多分、俺達が見てなかっただけだって」
兵士C「そうだな。面倒くせぇし、どうでもいいな」
兵士D「なんにせよ居るなら餌を与えないとだろ? それでいいじゃねぇか」
兵士A「もういいだろ? んじゃ、後よろしく」
兵士D「あいよ、お疲れ」




