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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
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第22.5話 異世界人

 俺の名前は鈴木颯太(すずきそうた)。どこにでも居る男子高校生だ。

 かわいい女の子を見かければ彼女にするならあんな子がいいなと思い、友達と学校の帰り道に何かを食べながら、どうでも良いことで笑い合ったり、休みの日には友達とカラオケに行って夜通し歌いまくったりするのが好きな、本当に普通の男子高校生だ。

 そんな俺だが、今普通じゃない状態に居る。まず、今居る場所は俺が居た国から酷く遠い場所だ。電車や飛行機じゃ行けないぜ? じゃあ、どうやってそこに行ったんだって?

 来たくて来たんじゃない。気が付いたら居たんだ。そう、俺はどうやら異世界とやらに居るらしい。そんで、すでに結構な時間が経ってる。そんな俺の話だ。

 まず最初、俺は深夜というには早いが日が暮れてかなり時間に外出した。晩飯が少なかったのか、小腹が空いて近所のファソブンってコンビニに入ったんだ。

 いつものように鳴り響く、出入店を知らせる電子音。だけど、俺の目の前にはまったく意味の分からない光景が広がっていた。

 本来なら左手側にはレジカウンターがあって、正面はおにぎりとかが入った陳列棚、右手側にはアイスの入った背の低い冷凍庫があるはずだった。

 だけど、その時の俺の目の前には大量の髭を生やしてローブを着た、いかにもな老人が本に囲まれ座って居ただけだった。


(は? なんだこれ)


 ほとんど反射的に後ろを見ればガラス製の自動ドアなんてどこにもなくて、木製の扉があるだけだった。ノブを捻って開ければ、普通の木の廊下があって、今まで通って来たアスファルトの道路はどこにも見えない。


(よっし、落ち着け夢だ。これはあれだ、智子の言ってた白昼夢とか言う奴だ……よし、起きろー起きろー)


 ありえない状況に思わず目を瞑って、そんな事を考え呼吸を整える。そして、目を開いた。


「何も変わってねぇ! マジかよ!」


 思わず手に持っていた財布を床に叩きつけ大声で叫ぶ。同時に頬を抓ってみるが、普通に痛かった。どうやら、夢でもないらしい。


(いやいや、待て待て、普通に考えて、普通に考えてドッキリだ。どうせ、俺が狼狽え始めたり、調子に乗ったらあそこで本を読んでいる爺さんがドッキリ大成功!! みたいな看板を出して、ニヤニヤ笑ってるカメラを持った奴らと、ニヤニヤ笑った芸人かアナウンサーみたいな奴らが出て来るんだろ)


「まじかよー! おい、どうしたら良いんだよこれー、勘弁勘弁! ドッキリなんだろー? 止めてくれよー。なんだよこのセット、超気合い入ってるじゃねかよ。読めねー! 何語だよー。作り込み細かいってー!」


 冷静さを装いながら財布を拾い、近くにあった本を開いてみる。そうやって騒いでいても、老人がページをめくる音と、時折老人が何かに書き込んでいる音が聞こえるだけで、何も起きない。


「おいー、まじかよー! えー? マジ? ちょっとードッキリっしょー? 何テレビっすかー? 止めくださいよー、不安になるじゃないっすかー……」


「喧しいぞ! クソ坊主! ドッキリって何だ! と言うか、お前は何だ!」


 何も起きないから騒いでいると、突然本を読んでいた老人が、物凄い勢いで飛び上がり俺の目の前に来て、杖を突きつけながらそんな事を言って来た。


「えぇ! うぇっ? すんません。いや、え? ドッキリじゃ無い? え、じゃあ? え?」


「何を一人で混乱しておる! ココはワシの書斎だ! 用が無いなら出て行け! そもそもどうやって入って来たんだ。ここは、あのクソ精霊どもすら入れないように、結界で囲っているのに!」


「え、あのすみませんお爺さん! ここはどこなんです?」


「だから! ここはワシの書斎だって言っているだろうが! 耳が聞こえないのか! クソ坊主!」


 なんだかよくわからない状態に、やたらとこちらを威嚇してくる爺さんにさすがに腹が立った。


「うるっせぇ! それは聞いたよ! じゃなくて、ここはコンビニだったんだけど扉を開けても外に出れねえ! どうなってるんだ!」


「コンビニ? なんだそれは! 訳の分からん事を喚きよって! さっさと出て行ってくれ!」


 そう言いながら老人は俺を部屋から押し出そうとする。


「待て待て! まだ聞きたい事があるんだ。ちょっと! おい、ちょっと! ちょっと待てよ、コラァ!」


 俺が、抵抗しながら老人を押し返そうとすると「良いから、出て行け!」と、老人が叫びながら俺に向かって杖を叩き込んできた。それは丁度、俺が体勢を崩した時だったからなのか、綺麗に顎に入って俺は一発で気絶してしまった。

 目を覚ますと、老人が仏頂面で目の前の椅子に座って居た。俺はどうやら、ソファーのような物に寝かされていたようだ。


「ここは……いってぇ、クソ……てめぇ爺、何しやがる!」


「喧しい、殺されなかっただけ良かったと思わんか! 帝国筆頭魔術師であるワシの家に忍び込んで、それで済んでるだけマシじゃ!」


「帝国ぅ? 帝国って何だよ」


「何を言っとるんだ? 帝国だぞ? シクエーズ=セクレア帝国だ。知らんのか?」


「え? ちょっと待て。ここは、大和連合国じゃないのか?」


 思わず俺が自分が居た国の名前を聞けば、目の前の老人は怪訝な表情になる。


「なんだ? その国は? ここはシクエーズ=セクレア帝国だと言っているだろうが」


「なら、三連統合国、ロシエト連邦、アインディア集国。これの中に、一つでも聞いた事のある国が無いか?」


 嫌な予感と共に、大和語が通じるなら知っていなくとも聞いたことのある国の名前を問いかける。


「無いな。何だ? 坊主、良く見れば違う大陸の人間か? それにしちゃ、共有語が達者だな」


「おー? ほー? やっぱりドッキリ? これ、ドッキリ続いてる? カメラさんどこ?」


 頭のどこかではこれが異常な事態で、かなりとんでもない事になっていると理解していたが、現実逃避気味に、再度ドッキリを疑わずにはいられなかった。


「だから、ドッキリって何だ。カメラさんって誰だよ。ここにはワシしかいないぞ」


 その後、色々とこのランダル・スクワイアと言う、この国の筆頭魔術師とか言う職に就いている老人に話を聞いたところ、俺は完全に異世界に来たと言う結論に至った。目の前で、何の種も仕掛けもなく火を出されたら信じるしかない。しかも魔法陣みたいなのまで描いてだ。

 手品も疑ったが、一番簡単な事をやり方を教えてもらっただけで俺でも出来たんだから信じるしかない。魔法という事象を除いて、本当に種も仕掛けもなかったのだから。


「にわかには信じられんが、このケータイ? とか言う道具と、お前の財布に入っている、この見たことも無い板や、紙幣や硬貨を見るに、本当のようだな」


 ランダルは、興味深そうにポイントカードや千円札や五百円玉をもって見ているが、俺はソファーに突っ伏して半泣きだ。


「マジかよー……帰る方法とか知らない……よなぁ」


「そもそも、ワシは異世界なんて物が存在するのを初めて知ったわ。いや……確か、そんな世界が有る事を仄めかす様な本は有ったな。何か、異世界からやって来た奴が何かするって言う、全部おとぎ話や伝説みたいな眉唾物ばかりだったがな」


 一瞬、俺は希望を見た気がしたが、自分の世界にあったおとぎ話の終わり方を思い出して、それを否定する。


「でも、どうせそういうのに書いてある奴って、帰ったかどうかまでは書いてないんだろ? めでたし、めでたし。みたいな感じで、全部投げる感じなんだろ?」


「まぁ、そうだけどよ。というか帰るも糞も、そもそもそいつらは主役じゃなくてわき役だったし、話の途中で死んでいるな」


 あんまりにもあんまりな話の内容と、どうでもいいわと言わんばかりのランダルの言葉に俺の心は折れた。


「んだよもー! もー! なんだよぉ……なん、なん、だよぉぉぉぉぉぉ」


 思わず涙が出た。一度零れ出すとそれは止まらず、俺は久々に大泣きした。


「もぉぉぉぉ! アイ、ス、食って、ェ、明日は、田中、達! と、隣街まで行って、うわぁぁぁぁ!」


「やっかましぃ! 男がうじうじ、うじうじと! 泣いているんじゃない!」


 優しい言葉をかけろ、慰めてくれ。そんな事をしてくれと頼む気はないが、それでも言い方って物が有るだろう。


「うるっせぇ! クソ爺! てめぇに何が分かる! 夜に散歩していたら、いきなり着の身着のままで異世界だ?! ふざけんなよ!」


 俺は、そう叫びながらランダルに向かって殴りかかる。しかし、ランダルの姿が一瞬ぶれたかと思うと、俺は床に倒され、何をどうされたのか立ち上がれないで居た。


「おちつけバカ者が! まず颯太、お前はどうしたいんだ!」


 俺は倒されて、もがきながらも精一杯ランダルを睨みつける。


「ふんっ! それだけワシを睨む元気があるなら大丈夫だ」


「どけっ! てめぇクソ爺、早く俺を自由にしろ!」


「嫌だよ。颯太お前、自由になった途端にワシに殴りかかってくるだろ? それが分かっていて、何故お前を自由にせねばならんのだ」


「くそっ! くそがぁ!」


「くそくそと、それしか言えんのか? それで、お前はどうしたいんだ?」


「今はクソ爺を殴りたくて仕方ないな!」


「そうじゃなくてよぉ……」


 どうも、ランダルの聞いている事が良く分からない。一体俺の何を聞きたいのだろうか? 少し頭が冷えて来たので、俺が暴れるのを止めると、ランダルは離してくれた。俺は腕で涙を拭い、立ち上がりながら考えた。今、俺が何をしたいのか、何をするべきなのかを。


「やりたい事……俺は、家へ帰りたい。そのために、何をすればいい?」


 俺が、ランダルの顔をまっすぐ見てそう言うと、ランダルは満足げに頷いた。


「よし、ようやくまともな事を言い出したな。そうだな、さっきも言ったように、そんな世界が有るような事を言っている書物は、意外と多い。だが、その殆どが作り話めいた英雄譚や、子供向けの童話みたいな物ばかりだ。だから、今の今までワシも信じちゃいなかった。しかし、お前の存在で少し変わってくる。もしかすると、あれらは全てとまでは行かないが、一部は本当の事かも知らん」


「でも、帰った奴は居ないんだろ」


「話は最後まで聞け、そこでだ。ワシが知っている中でも……そうだな、異世界人と呼ぶか。その異世界人が元の世界に帰った。もしくは帰ろうとした話は、覚えている限りでは、意外と少ない。理由は色々だったがな。こっちで嫁さんを見つけたとか、やりがいを見つけたとか、純粋に時間が経ちすぎて帰るに帰れないとか、そもそも元から帰る気が無い。とかな? それでまず、一番有名なやつだが、ザイゴッシュ王国だったか? の昔話になるんだがな。その昔やばいモンスターが現れて、そいつをどうにかしようと王が色々策を練ったのよ。色々過程は省くがよ、その策の中に異世界人を召喚して、討伐させようってのがあったんだ。んで、それは成功したんだ。そして、その偉業を称え勇者と呼ばれるようになったってのがあるんだ」


「てめぇ、ランダルさっき大体全部死んでいる。とか言っていたのに、有名どころにすげぇのが居るじゃねぇか!」


「いや、この勇者と呼ばれた異世界人は死んでいる。と、されてるぞ? たしか、そのモンスターと相撃ちしたはずだ。問題は、その後だな。その後も、何度か召喚はしているらしい。理由は色々だがな。で、ここからがうろ覚えなんだが……なんだったかな。何番目になるかは分からないんだが、召喚された異世界人が帰った。みたいな、記述が有ったんだよ」


「ああ……なるほど、分かって来たぜ。つまりなにか? 俺は、そのザイゴッシュ王国に行って、そういう本を読んで研究しろって事か?」


 そう俺が聞くと、ランダルは眉間に皺を寄せ、腕を組み、ウーンと唸って考え込みだした。そして考えが纏まったのか、また話始めた。


「ワシもそうさせてやりたいし、手伝ってやりたいんだがな? 最近は、ちょいちょいキナ臭い噂が流れてきてるんだよ。ザイゴッシュ王国は西にあるんだがな? それとは別に、北にはアマダ王国ってのがあってよ、それがこっちに攻め込む準備をしているかもしれない。みたいな噂がある。もしそうなったら、ザイゴッシュ王国も攻めてくるかもしれない。だから、今すぐ行かせてやるってのは無理だ。と、言うか止めといたほうが良い。それこそ、スパイと間違えられて、良くて投獄、普通で拷問、最悪その場で殺されるかもしらん。いや、どっちのほうが悪い?」


 真剣な顔でランダルは物騒な事を言い出す。


「どれも悪いわ。それにしても、なんでそんな状態なんだよ……と言うか、流石に俺みたいな奴を捕まえてスパイを疑う、なんて事はないだろ」


 思わず突っ込んだ俺の言葉を聞き、顔を顰めるランダル。思わずまた小言が続くのかと身構えたが、そうではなかった。


「颯太お前、この国の……いやこの大陸でか。身分を証明できる物、持っているのか? 正直な話、最初お前がワシの部屋に来た時、速攻で魔法を叩き込んで殺してやろうかと思う程度には、怪しかったぞ?

それに、今着ている服は目立ちすぎる。それこそザイゴッシュ王国じゃなくても、この帝都であっても間違いなく、見回りの警邏兵に捕まって色々聞かれるぞ。最悪そのまま投獄だ」


 俺の今の服装は、上はTシャツだけ、下はジャージにサンダルという、よくある感じで全力でラフな服装だった。対して目の前のランダルは、正しく魔法使いと言ったような濃緑色のローブを着て居る。ローブを脱げば、その下には、よくある西洋の歴史ミステリー番組で見るような服を着て居る。

 この家が建っている街に住む人たちも、程度の差はあれ同じような服を着ているそうだ。そうなると、俺の格好は間違いなく目立つだろう。


「じゃあ、どうしろって言うんだよ。服を変えようにも、こっちの世界の金は無いし、身分証とか言われても、そんな物、どうやって入手しろっていうんだ」


「そうだな、服に関してはワシがくれてやらんことも無い。身分はそうだな……そうだ。颯太、ワシの弟子にならんか? 何をするにしたって、結局はワシを頼る事になるだろ?」


 突然ランダルは、そんな事を言い出した。なんでも、元の世界に帰るにしても、帰らないにしても、魔法を少しは覚えて居た方が良いとの事だ。

 たしかに、帰る方法が魔法を使った術者を異世界に飛ばす。なんて物だったら、俺自身が魔法を使えないと帰ることが出来ない。そう考え、その後も色々と話し、結局俺はランダルの弟子になった。

 最初、筆頭魔術師とか言っているのだから、弟子なんて沢山居るだろう。と、思っていたのだが、そんな事は無く。弟子と言うよりは、部下のような人しか居なかった為、俺はランダルにほぼつきっきりで色々な事を教えてもらえた。

 そうして、俺は数ヶ月を過ごし、それなりにこの世界にも慣れた。どうも、この世界の人は、けっこう短気のようだ。理由としては、常にモンスターとかいう異常な生き物、それこそ殆ど化け物みたいな存在に生活圏を侵されているためだ。

 更に、そのモンスターの居ない少ない生活圏を、国同士で奪い合っているという、結構……いや、かなり戦闘脳まみれな世界のようだ。

 そのためかしらないが、モテる要素は格好良いとか可愛いとかも確かに含まれるが、一番ではなく、それよりもどれだけ強いかというのが重要視されるようだ。

 そのせいか、ランダルは三人の奥さんが居たらしい。らしいというのは、今は全員何かしらの理由で死んでしまっているからだ。しかしどうやら、一夫多妻制が許されているようだ。まぁなんだ、滅べ。

 ちなみに、俺には魔法の才能が有ったらしく、本当にランダルの弟子として生活している。ランダル曰く、会った時から実はピンと来ていたらしい。


「そういや、俺の何がどう、ピンときてたんだよ師匠」


「うん? ああ、初めて会った時だけどな? ワシが取り敢えず様子見していたのは、お前の魔力量がワシには及ばずとも、それなりに高かったからなんだよ。それで、最初は暗殺者か? と思っただけどよ、間抜け面で騒ぐだけだったろ? そこでこいつは違うな。と、思ってな。どうせなら……と、ピンと来たんだ」


「全然意味がわからねぇ」


 それは置いておいて、その後も街の下水道に発生したモンスターの討伐に連れていかれたり、ランダルを殺しに来た暗殺者と戦ったり、それと仲良くなったり。

 魔導院から持ってこられた新型魔法のテストをして、俺が改良したり、些細な事故で軽く腕が吹っ飛びそうになって、ポーションや治療魔法の凄さを実感したりと、色々な出来事があった。

 そして知り合いや友達、嫌な奴やちょっとした敵も増え、俺自身、色々な魔法を使えるようになって、この世界に来て二年が経とうとしていた。

 最初の内こそ、早く帰りたいと何度泣いたか分からない。だが、その度泣いていてもどうしようもない事が起こり、そんな暇は無くなった。

 それに、何だかんだと楽しくて、帰る事を忘れてしまうのもあった。少しランダルが言っていた、おとぎ話の人達が、何故帰ろうとしなくなったのかが分かった気がする。だが、それでも俺は帰りたい。

 因みに、二年の間、西も北も攻めては来なかった。そのことをランダルに問うと。


「颯太にはまだ分からないだろうな。と言うより、ワシを含め直接関わらない者には、分からないようにしているんだろうがな。今もまた戦っているんだよ。ほら、一度ワシを殺しに来た女が居ただろ? ああいうのが、ワシ以外にもずっと行われてるんだよ」


「ああ、あいつか。でもなぁ、そう言われても分からねぇよ。と言うか、それならそれで、俺が行っても問題ないんじゃないのか?」


「バカが、お前は一応ワシの弟子なんだぞ? 今度はその身分で密偵と疑われるわ。まぁ、まだ無理だな。一回何かしら決着が付けば大丈夫だろうが……そうそう決着は着くとは思えねぇしなぁ……」


 なんて、会話をしたりしていた。それから数日後、俺は帝都の中の色町、つまりはアレなお店が並ぶ通りに来ている。

 理由は色々とあるんだが、ランダルの部下の魔術師で、仲良くなった奴の中にラッセルってのが居る。

 そいつに、俺が童貞だって事がばれた。すると、軽く笑われた後に「そうだ、ソータお前今度の休み暇か? なら、俺が良い所に連れてってやるぜ」と言われて連れてこられた。と、言うわけだ。


「へいへい、ソータどうする? どの店にする? 俺の一番のオススメはあの“魅惑の肉球亭”だ。獣人は良いぞ! まぁ最初の衝撃はすさまじいが、触れてみればわかるぜ。ふわふわでな。最高だ。それにお前、アビーの事たまにじーっと見てただろ? 知ってんだぜ」


「別にアビーはそんなふうな理由で見てんじゃねぇよ!」


「照れんな照れんな。後はそうだな、他にもエルフしか居ない“誘惑の森亭”とかもあるぜ。エルフも良い。みんな美人だからな。ただちょっと肉付きは悪い娘が多いな。だがまぁ、ヴェロニカさんが来た時お前ガン見してたから問題ないか」


「おまっ! と言うか、ヴェロニカさんはしょうがないだろ! なんだよあの服! あれで研究者っておかしくないか? 色々見えそうじゃねぇかあれ」


「そんなの、俺に言われても知らねぇよ。あ、逆に“フワフワの樽亭”は止めとけよ? あれは、特殊な趣味を持った奴にしかオススメできねぇ。具体的にはデブだ。それも度を越した」


「おお、それはやべぇな。流石に俺もデブは範囲外だ。……待て、むしろそれを知ってるって事は、まさかラッセル……まぁいいや、普通のオススメを教えてくれよ」


 そんな事を話しながら、ラッセルと通りを歩きながら物色していると、なんの前触れもなく目の前に大きな黒い塊が音も無く降って来た。それは、グニャグニャと形を変える煙の塊のようで、中に赤く光る玉を五つ持っていた。

 そして、俺たちが見て居る内に形が整っていき、見たことも無いビートル系の甲殻魔虫の姿に変わった。


「モンスター!? なんで……帝都だぞ? 結界があるのにこんなところにモンスターが」


 俺は驚きのあまりその場で尻餅をついてしまった。隣を見れば、ラッセルは既に悲鳴を上げながら逃げていた。薄情者め。

 近くに居た冒険者らしき人たちは、武器を出し戦闘態勢を取っている。どうにかしようとでも言うのだろう。俺も慌てて戦闘態勢を取ろうとした。

 しかし、その行動は無駄に終わった。モンスターは、音も無く周りを威嚇するかのような動きをとってから、また空へ向かって飛んで行ってしまった。あまりに一瞬の事だったので誰も追撃などせず、更には色が色のため、その姿はすぐに夜の闇に紛れてしまい、一体どこへ行ったのかも分からなくなった。


「なんだったんだ……?」


 俺はそんな事を呆けた顔で言ってから、ランダルに報告するために色町を後にした。今のこの状況で、どの娘が良いかな。なんて、考えて居られない。取り敢えず、報告しておかないといけない。そう、思ったからだ。

 真っ直ぐランダルの家まで戻ったが、姿は無く、どこに行ったかの見当もつかないので待つことにした。結局そのまま寝てしまい、昼頃に帰ってきたランダルに、リビングのソファーで寝ている所を見つかり叩き起こされた。


「おい、クソ弟子! どこで寝てる、寝るなら自分の部屋で寝な!」


「おおぅ! 師匠、起こすならもう少し優しくしてくれよ! そうだ、昨日の晩やべぇモンスターが出た!」


 俺がソファーから落ちながらそう言えば、ランダルは考え込むような表情をしてからニヤリと嫌な笑みを浮かべる。


「ああ? お前、そうか……色町にいたな? それで、影で出来た甲殻魔虫の話か? あれは、精霊教会の連中が討伐したってよ。本当かどうかわからんがな」


 ランダルは、意地の悪い笑顔を浮かべながら言って来たが、そんな事より、俺はすでに討伐されたと聞いて安心した。


「なんだ、解決したのか……良かった」


 俺が安堵していると、ランダルは苦虫を噛み潰したような表情になった。


「よくねぇよ。バカか? てめぇ、この帝都にどんな結界を先人が張って、ワシ達がコツコツ強化していたと思ってんだ!」


「そういや、俺ここにきて二年になるのに全然知らねぇな」


 ランダルはため息をつきながら説明をしてくれた。なんでも、帝都に張られた結界の能力は、Aランクのモンスター、つまり単体で町くらいを軽く滅ぼせる奴が相手でも余裕で耐える事ができる代物らしい。

 そんな結界があるのにも関わらず、昨晩の影の甲殻魔虫は帝都に侵入し、そして色町、貴族街、精霊教会の本部に何の痕跡も残さず侵入した。

 つまり、この討伐されたモンスターは結界を通り抜ける能力を持っているのか、それとも誰かが意図的に結界の中に入れた事になる。

 前者はあり得ない。精霊ならまだしも甲殻魔虫に抜けられるような結界ではないとの事だ。ならば、必然的に後者となる。

 たしかに、最近ビートル系の甲殻魔虫に似た邪精霊を、帝都の中入れたという話は聞いていた。

 だが、事が起こった時に見張り小屋に連絡を取ると、その邪精霊は用意していた隠蔽隔離用の結界の中に入っていた。と、報告が来た。

 ならば、別の存在となる。しかし、そうなら一体だれが何のために? 北のアマダ王国が? それとも、停戦したとは言え何かを狙って、西のザイゴッシュ王国が送り込んできた? たしかに、停戦協定の書簡を携えた使者がこの間来た。

 しかし、それは外壁の前、帝都外壁関所で止まり、これと言って何もしていない。それに、停戦協定に同意する書簡を渡されると、すぐさま飛び立っていったので違うと判断されたそうだ。

 

「結界の偉大さが分かったか? そして、昨日ワシが老骨に鞭を打ってまで、調査に参加させられた事の次第も理解してくれたか?」


 そこで、俺は一つ思い出したことを聞く。


「なぁ、師匠。あの、モンスターなんだけどよ。今思ってみれば、最近は出てこないけど、一年前くらいに良く見た精霊ちゃん達が使ってた、影を操る魔法に似てたんだ。だから、あいつらが犯人って事は無いのか?」


「ねぇな。あの魔法の仕組みはまだわかってねぇが、どうにも術者と同じ姿しか取れ無さそうだ。精霊魔法だからワシにも良く分からねぇけど、多分そうだ。じゃなけりゃ、あいつらはもっと性質の悪い物に化けてるはずだろ。それに何より、昨晩は人形が動いてねぇ。ってことはあいつ等が魔法を使ったわけが無いんだ。まぁ、どうにかして誤魔化していたらそれまでじゃないが、奴らにそれが出来るとは思えねぇ。よしんばこの間帝都に入れた邪精霊に魔法を教えたとして、それを使わせるってのが出来るとは思えねぇ。と言うより、精霊は邪精霊には近づかねぇからまず教えるってのが無理だ」


「なるほどなぁ……じゃあ、わかねんぇな」


 二人して腕を組み唸っていると「そんな事よりも颯太、明日は出かけるぞ」と、ランダルが思い出したように言いだした。


「あん? 明日は、昨日弄ってた魔法の調整と、魔導院のやつらとの話し合いじゃなかったのかよ?」


「それがどうも、さっき話していた邪精霊が居るだろ? あれの能力試験が有るらしいんだよ。西のケリが取り敢えずついたから、北をどうにかする為に見極める。だとよ。そんで、それにご丁寧に皇帝陛下の命令書付きで呼ばれたから、見に行かないと行けねぇんだよ」


 実に面倒くさそうにランダルは言うが、俺も正直面倒くさかった。


「呼ばれたのは師匠だけだろ? なら、俺は行かなくても良いだろ。嫌だぜ? 貴族の野郎ども、俺を見たら大体嫌味を言うじゃねぇか。ぶん殴ったり、魔法をぶっ放して黙らせていいなら付いて行くけどよ」


 そう俺が言うと、ランダルはこめかみに指を当ててため息をつく。


「その気持ちはわからんでもないがな、付いてきてくれよ」


「えー」


「頼むぜ、っていうか弟子なんだから付いてこいよ。ワシ、師匠だぜ? 言う事には従えよ」


 ここまでしつこくランダルが付いてこい。と、言うのは初めてだったので、俺は素直について行くことにした。


「しょーがねぇな。付いてってやるよ」


「よし、じゃあ明日闘技場だ。ワシは、ちょっと眠いから寝るわ」


「と言うかよ、ザイゴッシュ王国とのケリが付いたなら、そろそろ俺は行ってもいいんじゃねぇのか?」


 俺の言葉に足を止め、ランダルは振り返る。


「ああ……そういえば、そうだったな。その事に関しては、もう少し待っといた方がいいかもな」


「んだよ、今更俺と離れるのが寂しくなったのかよ」


 俺が茶化すように言うと、ランダルは首をふる。どうも、ふざけている空気でもなさそうだ。


「前に、裏でずっと戦っているって言ってたよな。実際襲ってきた女と、お前仲良くなってたしよ。それがよ、本当にぱったりと止んだらしいんだわ」


「じゃあ、余裕じゃねぇか。全部見つけて弾きだして、相手が完全にやる気を失って、残ってたやつも撤退したって事だろ?」


「馬鹿かよ。いくらボッコボコにやられたとしても、この大きさの街だぞ? 絶対に、完璧に、全て弾くなんて無理だし、そんな状態でも完全に撤退させるわけがない。絶対何かしらやっているし、その際に小競り合いみたいなのが起こるはずだ。それが本当に何も無い。どう考えたって何か準備してやがる」


「なるほど。でもよ、それだったら俺はいつになれば帰る方法を探せるんだ?」


「そうだな……留学、実際は人質みたいなもんだけどよ、ザイゴッシュ王国の第一王女が来るんだよ。建て前は、今回の戦争は悲劇的な行き違いからおきた。だから、今後そうならないためにってもんらしいが……まぁそれはどうでもいいか。それにケリがついてからじゃないと無理だろうな」


「はーん……まぁなんだ。まだ俺は行けないって事だな?」


「そう言うこった。よし、今度こそワシは寝るぞ。多分、明日の朝まで起きねぇだろうから適当にしといてくれ」


 そう言ってランダルは、本当に次の日の朝まで起きてこなかった。そして、朝になりランダルと細々とした事を済ませ、予定通り闘技場へ行く事になった。


「よし、じゃあ颯太行くか」


「おう」


 俺達は早めの昼食を取り、闘技場に行った。そしてそこで、俺とランダルはとんでもない物を見てしまった。


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