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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
43/52

第21.5話 その頃の王国と帝国は

何度書き直してもしっくりこなかったので、もしかするとここは何度も書き直すかもしれません。

 時は少し戻り、ザイゴッシュ王国首都フィルカイト。

 その街の中央に聳え立つ巨大な王城の中心部に存在する大部屋。そこに、この国の中枢を担う貴族や将軍達が、映像記録魔道具を乗せた円卓を囲んで難しい顔をしている。

 円卓から少し離れて一段高い所で玉座に座り、王冠を被っている人物、それがこのザイゴッシュ王国の王、アルバート・バル・ロームスト・ザイゴッシュである。

 短く切りそろえられた金の髪には、所々白い物が混じり、その年齢を感じさせる。しかし、茶色の瞳に宿る眼光は鋭く、王者の風格に衰えは感じさせない。そんな人物だ。


「さて皆の物、これを見てどう考える? この後、余はどのようにしたらよい?」


 アルバートは、円卓に座って黙り込む者達を見回して、そんな質問を投げかけた。対して、円卓に座る者達は更に表情を険しくする。そして、沈黙に耐えきれ無くなったのか、座っていた人のよさそうな小太りの男が、立ち上がりながら声を上げた。


「停戦! 停戦協定を結ぶしかありますまい!」


 その一言を皮切りに、少しずつ議論が交わされ始め、段々と言い争いのようになる。そして、それが議論とも呼べないような罵詈雑言に変わり始めた時。


「静まれ」


 と、一言アルバートが良く通る声で言うと、今までの事など無かったかのように静まった。


「停戦、たしかにそうだ。こんな体たらくでは、そうするしかない。元より考えて居たアマダ王国との帝国挟撃作戦は、これで駄目になったのだからな」


 王が停戦を認めた。その事実に反対派はざわめき、賛成派はほっとしたような雰囲気を纏う。


「だが、どうする? こちらから攻め込んで、返り討ちにされて、停戦を結ぼう。等と虫のいい話を帝国とするつもりか? 答えてくれないか? シブン伯爵」


 その言葉に、先ほどとは全く逆の反応が全員から返ってくる。


「そ……それは……」


 そして最初に立ち上がって声を上げた、シブン伯爵と呼ばれた小太りの男は、冷や汗を流しながらガタガタと震え、息も絶え絶えに何か言おうと口を動かすが、何も言う事ができないでいた。


「よい、楽にせよ。それを考えるために、余はここに皆の物を集めたのだ。誰か案は無いか?」


 アルバートの問いかけに誰も反応せず、耳が痛くなるような静寂が大部屋の中に流れる。そして、その沈黙を破ったは、アルバートであった。


「よし、ここで顔を突き合わせていても浮かぶ案も浮かぶまい。一度各自部屋へ戻り……そうだな。一時間後にここへ戻れ。そこで考えてきた各々の意見を言え」


 その言葉を聞き、全員が円卓を立ち大部屋から去って行く。それを見送り、最後の一人が出ていくの見ながら、アルバートは「良いぞ」と、言った。すると、柱の陰から三人現れた。

 一人はメガネをかけた白衣を着た長身の痩せた男だ。メガネの奥にある黒い瞳には狂気的な光が宿っており、適当に手入れされているボサボサ髪の毛と相まって、王宮に居るにはそぐわない危険人物にしか見えない。

 もう一人は一般的な女性と比べても背の低い女性だ。ポケットの沢山ついた、ダボつき気味のツナギを着て居るのにも関わらず、体のラインが分かるほど起伏に富んだ体型をしている。

 瞳と髪の色は両方ともダークブラウンで、髪は短く切りそろえられている。服の背にはハンマーを象った刺繍が施されており、太ももにはレッグホルスターのような物が付いて、そこには何に使うのか良く分からない工具のような物が複数入れてあり、王宮に居るよりは工房と言ったような場所に居るような服装である。

 顔立ちは悪くはないのだが、少し眉間にしわが寄っているような仏頂面をしているため、不機嫌そうにも見える。

 最後の一人はゆったりとしたローブを着て、ねじくれた木で出来た杖を持った、金髪の緑の瞳の女性だ。スタイルも良く、顔立ちも整っており見目麗しいのだが、耳は長く、先端に近づくにつれ鋭くとがっているため、人間以外の人種である事が分かる。

 その三人は玉座に座るアルバートの前まで来て跪いた。


「よい、面を上げよ」


 ハッ! と言う声と共に全員が立ち上がり、メガネの男性が話し始めた。


「いやはや、とんでもない事になりましたね。陛下」


「本当だ。まさか失敗するだけでなく、グレゴリーまでやられるとは思わなかった」


「まったく、まったく。その通りです。あの辺りを手に入れて、帝国侵略の橋頭堡にしようと考えて居たのですが……いやはや、上手く行きませんな」


 芝居がかった動きでメガネの男性が話を続けようとしたが、アルバートはそれを手で制す。


「それよりも、あのモンスターについての解説が欲しい。お前たちの目に、あれはどう映った?」


 その問いかけにメガネの男性は、それまでのふざけたような雰囲気を消し、まじめな表情で話し始める。


「では、今回の状況について説明したいと存じ上げます。まず、あれを普通のモンスターと思ってはいけません。おそらくですが、何らかの高位精霊等が変異した甲殻魔虫かと思われます」


「ほぅ? ロータス、お前がそんな事を言うとは……そんなにアレは危険な物なのか? たしかに、グレゴリーを屠ったのは脅威だ。正直な話をすればかなりの痛手だが……それはともかく、どうにもできないほどか? お前たち三人、いや、ここに居ないあ奴を入れた四人で当たれば、どうとでもなるのではないのか? 余からすれば、高位精霊が変異したと言っても、少し魔法を使える甲殻魔虫にしか見えなかったぞ?」


 その質問に、ロータスと呼ばれたメガネの男性は答えず、代わりに隣にいた耳の長い美女が質問した。


「陛下、私が何かご存知でしょうか?」


「知っているとも、エルフにして元冒険者の英雄、魔導賢者と呼ばれたセレナ・バローネだろう? それがどうした?」


「そうです、私は魔導賢者と呼ばれる程度には魔法を理解しているつもりです。そんな私だからこそ、というのでしょうか、あのモンスターは危険です」


 その言葉を聞き、アルバートの目が細められる。


「危険だと言うのはロータスからも聞いた。それよりも、根拠となる理由を述べてみよ」


「はい、まず基礎的な話なのですが、魔力量が異常です。あれが結界……なんだっけ、ヴェラ?」


 アルバートへの説明をしながら、セレナ・バローネと呼ばれた美女は、隣に居る背の低い女性をヴェラと呼び、話しかけた。


「反射式四珠型試作結界十五号」


 ヴェラの素っ気ない答えを聞き、セレナは説明を続ける。


「そう、その反射式四珠型試作結界十五号ですが、あれは私が何度も耐久実験をしました。その際打ち込んだ魔法は上級三段を二発、上級一段を三発、そしてその後に私と、私の部隊員が放つ中級二段の魔法を魔力が尽きるまで叩き込んでも、ビクともしない物だったのです」


「ふむ、そんな結界を破ったからというのが理由か?」


 アルバートの質問にセレナは首を横に振り、否定する。


「それもたしかにあります。しかし、それ以上にあのモンスターは、角で結界に刺さったと言う事実があるのです」


「それがどうしたのだ。あれほどの速さで結界に当たれば刺さってもおかしくは無かろう」


 その質問に、セレナが答えようと口を開く前に、隣に居るヴェラが一歩前に出て答えた。


「それだけは無い。あの結界は試作と銘打っているが、アタイの今作る事が出来る最高の結界発生装置だ」


 そこで一拍置き、ヴェラはアルバートを見つめて話を続けた。


「そもそも、あの結界は灼熱の山脈に生息する真紅の竜ディープクリムゾンドラゴンを狩る為に作った物だ。だから、セレナに手伝ってもらって何度も強度実験をしたんだ。もちろん、想定値以上に耐えることができるようにだ」


「だが、結果は割られてしまっているではないか」


「そう。だからあのモンスターは危険。真紅の竜ディープクリムゾンドラゴンは、爪や牙に魔力を纏わせて襲ってくる事も有る。だからブレスもそうだけど、そういった魔力を伴った攻撃は、反射して弾くように作っていたんだ。それをぶち抜いて刺さるって事だから、あの角は尋常じゃない魔力を纏っている」


「なるほど……映像には無いが、報告書によると、先行部隊を魔法で壊滅させたと書いてある。それを踏まえて、映像で放たれた魔法の質と量を見れば、魔力量が異常と言う事に繋がると言うわけか」


 そのアルバートの質問にヴェラではなく、ロータスが引き継ぐように答え始めた。


「加えて言うなら、あのモンスター、体の強度もかなりおかしなことになっていますね」


「それは、槍や矢を受けても傷一つどころか体勢すら崩さなかったのを見れば分かる」


 アルバートは何を当然の事を、と目で言いながらロータスに返すが、ロータスはフフンと軽く鼻で笑った後、ずり落ちかけたメガネを上げて話を続ける。


「いえいえ、それもそうなんですがね? グレゴリーが死ぬまでに、あのモンスターは風雷虎(ふうらいこ)と何度か角と爪をぶつけ合っているじゃないですか。なのに、欠けたり折れたりするのは風雷虎(ふうらいこ)の方だけで、あのモンスターは無傷です。纏う魔力量に差があるのは仕方ない。と、思うでしょうけど、それにしたって限度って物があります」


 納得はしたが、理解はしていないと言った表情になるアルバートを見て、ロータスは考え込むようにして腕を組む。


「そうですね……今話に出てきた風雷虎(ふうらいこ)ですけど、あれの爪を加工した武器があるんですよ。それは魔力を流すことで、魔力の刃のような物を生じさせる事ができるものなんですけどね? それの魔力許容限界を超えて自壊させることが出来る魔力量が、大体……上級三段を十発分に相当する量なんですよ」


 そこで得心がいったのか、アルバートは軽く頷き、同時に眉間に皺を寄せる。


「つまり、あのモンスターは馬鹿げた魔力を持ち、それを全力で扱う事ができる魔力に対する耐久力を持っていると言う事か」


「そうなります。しかも、生きた風雷虎(ふうらいこ)の全力で振るわれる爪を一方的に破壊して居る事を考えますと、上級三段を十発で済むかどうか……」


 アルバートは沈痛な面持ちで目を瞑り考え込み始める。そして、たっぷり数秒たってから目を開け話始める。


「つまり、お前たちが言いたいのは、あの帝国のモンスターを撃破、最低でも無力化するのは不可能なわけだな?」


「そうです。ほぼ不可能と考えてもよろしいかと」


 ロータスは、肩をすくめながら顔を左右に軽く振り、お手上げだ。と言わんばかりの動作をしながら答える。その態度を咎める事も無く、アルバートは玉座に深く腰掛け、再度ため息をつく。そんなアルバートに対し、ロータスはしかし、と言葉を続ける。


「ですが、どうしようもない訳でもありません」


「ロータス、お前……自分で無理だと言ってなかったか?」


 ロータスの矛盾した答えに、訝しげな視線を向けながらアルバートが質問する。


「いえね、あの映像を見ていたなら覚えていると思うのですが、最後のグレゴリーが刺し殺される所があったじゃないですか? あの少し前に、動きが止まっていたのですよ。その理由が何かと思って考えて居たのですけど、そう言えば実験で作った合成獣(キメラ)が居なくなっていたのですよ。で、その合成獣(キメラ)は、僕とヴェラさんで一緒に作ったやつなんですけど、能力は周りの景色と同化して姿を消すのと、背に付けた魔煙発生装置……でしたっけ?」


「そう、魔煙発生装置。機能は、中に入れた薬品や魔法効果の有る煙を散布するだけ」


 ロータスの突然の質問に、よどみなくヴェラが答える。その答えを聞き、ロータスは説明を続ける


「ありがとう、ヴェラさん。その装置と、南の方に生息するステルスリザードってモンスターが居るんですけどね。それと混ぜた合成獣(キメラ)でして、当初の予定では姿を消して敵に近づいて、毒薬でもばら撒いて相手を一網打尽。と、考えて作っていたんですよ。ですが実験の結果、相手だけでなく自軍にも損害を与えかねない。と言う結果になってしまいました。まぁ当然ですね。煙なんですから。やるまえに考えれば分かるだろう。って話なんですけど、まぁやってみないと分からない事もあるので……っと話が逸れましたね」


 ロータスは軽くせき込み、仕切りなおす。


「しかし失敗したからと言って、そのまま処分するのも勿体ないので、森を抜ける時に使えるだろうと、甲殻魔虫にだけ効く猛毒、ムシゴロシの実は……ご存知でしょうか? まぁ名前の通りの毒を持った植物の実なんですがね。それを粉末にした物を、各種毒薬や魔法で強化して仕込んでいたんですよ」


「なるほど、それを使ったと言う事か……だが、殺すには至っていないようだが?」


「そうです。まぁ、普通なら即死しているはずの毒を食らっても、少し麻痺するだけというのは恐ろしい話ですが、取り敢えず動きは止められます。そして、あの試作結界に突き刺さった時も、少しの間でしたけど動きを止められました。なので、それらを使って一時的にでも行動不能にし、その隙に撃破するなり、使役者を仕留めれば良いと考えたのですが、いかがでしょうか?」


「なるほど、先ほどまでのお前たちの話を聞くに、撃破は現実的な話では無いだろう。ならば、使役者を殺して暴走させる。と言う手を取るしかあるまいな……それならそれこそ、暗殺者を仕向けるのも良いかもしれんな。よかろう、他の者達が戻ってきたら、その案を余自ら言おう。お前が言っても、どうせ首を縦には振らずに難癖をつけてくるのだろうからな」


「それが宜しいかと、僕が言ってもあの頑固者達が首を縦に振るとは思えませんしね」


 少し馬鹿にするような雰囲気を持ってロータスが答える。


「まったく……なぜ、能力ではなく血統や見栄を重視して物事を判断するのか……」


 アルバートは、額に手を当てながらそう嘆く。


「陛下、アタイはそれを陛下が一番言っちゃいけないと思うんだ」


 と、ヴェラに言われてしまいアルバートは苦笑した。


「冗談だ。そうだな、対策は決まったが、それを実行するのに必要な物を集めるとして、どれくらいかかる?」


 その質問に最初に答えたのはヴェラだ。


「まず、反射式四珠型試作結界十五号、長いから十五号って呼ぶけど、これを使って動きを止めるって言うなら、量産しないと駄目だろう。仮に三つ作ると仮定するなら、少なくとも数ヶ月……いや、半年はかかる。なにせ、素材が貴重過ぎるんだ。在庫が無い。最低でも核珠が一つ……いや、二つ欲しい。それとは別にオーブか、それと同じ位の純度の魔石も十個は最低でも集めないといけない。十五号を一つだけでいいならもっと少なくはできるけど、どう考えたって一つじゃ足りないだろうしね。それに、稼働のための魔石に関しては備蓄はあるけど、他にも利用する所が有るから、完全な余剰在庫が今は無いから、殆ど一から集める事になる」


 それに続く形で、今度はロータスが話始める。


「僕のほうはステルスリザードを……二十匹ですね。作戦用と、発展型として何体か試作したい物があるので、それ位は必要になりますね。当然、それらを飼育するための餌や場所も必要になります」


 そして最後にセレナが続く。


「私としてはそうですね、人員を増やして貰いたいですね。使役者を殺して終らせるのではなく、先ほど言っていた動きを止めた後に倒す方法を取るなら、設置型の特級魔法で集中攻撃をするしか方法がなさそうですから」


 全てを聞き終えた後、アルバートは溜息をつく。


「なるほど、モンスター素材の買い取りを強化し、モンスターその物を捕獲してきて、その上で魔術師隊に手練れの人員を増やさねばならんのか……」


 と言い、再度深いため息をついた。


「分かっていたことだが、すぐには不可能だな。一つずつ、いや同時に並行してこなさねばならぬか……そもそも、現状では停戦を結べたわけでも無い。仮に結べたとしても、間違いなく無理難題や賠償金等の問題もある上に、場合によっては突然一方的に破棄される事もあるか……時間を稼ぎたい所だ」


 眉間に皺を寄せ、考え込むアルバートにロータスが話しかける。


「陛下、でしたら北のアマダ王国に潜伏させているあれらと、今この国やあの戦場に居るアマダの手の物を弄って、当初の予定通りこのまま南進させるように仕向けてはいかがでしょう? 流石に強力な戦力を手に入れたと言っても、帝国とて二面戦闘は嫌うでしょうから」


「そうだな、それしかあるまい。それに、もしかすればあのモンスターの詳細な追加情報も得られるかもしれんしな。よし、後の細かい所は皆が戻って来てからにする。下がって良いぞ」


 三人は礼をして下がろうとするが、ふとロータスが思い出しかのように立ち止まる。


「ああ、それと陛下、前から帝都に忍ばせていたアレを使う。と言う手もあるのですが、どうします?」


 それを聞きアルバートは考え込む。そうした場合の今後の予定や再配備、発生する不利益と利益を天秤にかける。


「そうだな……本当は戦争中に使いたかったが……使った場合、我らが何かしたとバレる可能性はあるのか?」


「そうですねぇ……生け捕りにされれば確実にバレますね。しかし、その辺りはちゃんとしていますし、大丈夫でしょう。ですが状況的、技術的にはコチラの差し金かもしれないと思われるので意味があるのかはわかりませんね。しかし、アレは僕だけじゃなく、我ら五英雄の合作ですから、事前に能力を知って居たりしない限り、対応できるような物では無いと思いますよ。ともすれば、あれだけでこの話し合いが無意味になってくれるかもしれません」


 そういって挑戦的な笑みをロータスが浮かべ、それを見てアルバートは軽い笑みを浮かべる。


「自信があるようだな。それならそうだな……アマダ王国が南進するのに合わせて動いて、出来るだけ帝国がこちらに仕掛けるのを遅らせるために行動せよ。できるのなら作戦通りに動けとも。そして、最悪の場合でも痕跡だけは残すなと伝えよ」


「了解しました」


「よし、もうなにか付け加えることは無いな?」


 その問いに三人は沈黙で答える。


「では、下がれ」


 ロータス達三人は大部屋から出て行き、その後戻ってきた貴族や将軍たちとアルバートは話し合い、帝国との停戦協定はアマダ王国を囮に結び易くする。と言う方向で決まった。

 停戦協定を結ぶのに使用するのは、今回の作戦が万が一失敗した場合に即帝国首都へ向かって一日程度で行ける場所に潜伏させた使者である。持たせる書状は召喚されるモンスターに持たせ、早急な対応を可能にしている。

 書状の内容は、停戦協定を結ぶ見返りとして、ザイゴッシュ王国側の灼熱の山脈に近い領土を完全に帝国領として渡す事を記し、更に、第一王女を留学と言う名の人質として差し出す。更には戦費の負担という条件も追加した。

 一応の対応を実行したので会議は終わり、アルバートを除きすべての人間が大部屋から出て行った。そして、一人玉座に座っていたアルバートは誰に言う訳でもなく呟く。


「いざとなれば……いや、もはや勇者召喚をするしかあるまい。か……しかし、グレゴリーがやられるとはな……」


 少しの間目を瞑り、手を握る。


「しかし、いまの状態で召喚した者がはたして勇者と呼ばれる英雄になれるのだろうか? いや、ただの暗殺者になってしまうだろうな」


 そう言って、自嘲するような笑みを浮かべた。


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 更に時を戻し、ブリューナが戦場で戦っている頃、シクエーズ=セクレア帝国帝都ルーゴリアスにある皇城。

 その中央部にある大部屋。巨大な円卓だけが置かれた部屋に、この国の中枢を担う貴族達や将軍達が集まり、円卓を囲んでいた。

 その円卓を睥睨するかのような、高い位置にある玉座に座る人物が、シクエーズ=セクレア帝国の皇帝、ニール・マグノス・シクエーズ=セクレアである。

 青く輝く目には、英知の光を湛えており、年齢のためだろう、髪と髭は真っ白で、趣味なのか長く伸ばしており、着ている立派な赤いローブと相まってお伽噺に出てくる魔法使いのような外見である。ただし、頭には冠のような物を被っている。

 そして実際、見た目だけではなく、魔術師としても高い能力を持って居る。そんな人物である。


「よし、皆揃ったようじゃな。では、会議を始める。ミュー将軍、進行を頼むぞ」


「はい、分かりました」


 そう、皇帝であるニールに、ミュー将軍と呼ばれた強面の初老の男性が答える。


「さて、現在の状況ですが、北のアマダ王国もこちらに攻め入る準備をしている。との事です」


 淡々と状況を説明するミューに、対面に座った痩せた壮年の男性が反応した。


「将軍それは真ですか? そうなると挟撃作戦、と言う事ですかな? 裏で組んでいるとは、小癪なマネをしますな。というよりも、アマダ王国の北にはクートライン共和国があったはずですが、どうなっているのですかな?」


 責めるような矢継ぎ早な問いかけをする痩せた壮年の男性に対して、禿げ上がった髪に反して豊かな髭を持つ老人が髭を弄りながら参加する。


「ボール卿、あそこは現在インキズタント王国と戦争中だ。儂もてっきりアマダもそっちに向かうと思っていたのだが、おそらくザイゴッシュ何らかの手を回したんだろうな……さて、よその国の事はいい、それよりもこの国の事だ。今の状況は不味い。西の戦線に加え、北の戦線も維持せねばならないとなると、ジリ貧だ。間違いなく物資が足りなくなるぞ」


「でしたらタルバー卿、いっその事どちらかの戦線は下げて、片方を片付けてから動いた方が良いのでは?」


 言い争いそうな雰囲気を持った二人に対して、そんな事を中年の酷く太った男性が言う。すると、その場に居た全員がため息をついた。その反応に、太った男性が困惑しているのを見かねてタルバー卿と呼ばれた老人が答えた。


「ベイト卿、それが出来ればいいんだが、そうするとそれこそ相手の思うつぼだ。仮に西を諦めたとしよう。おそらく、北のアマダを追い返すのにはそれなりに時間がかかる。手を組んでいるなら、こちらがそんな状態だという事も知っているだろうから、かなり粘る事が予想されるからだ。そしてその内に、ザイゴッシュは西の国境付近を完全に占拠し、それを拠点に更に侵攻してくるかもしれん。そんな場所を物量で負ける我らが取り戻そうと思えば容易ではないだろう。ともすれば返り討ちにされ、更に大きく国土を削られるやも知らん」


 そこでタルバーは一旦区切り、手元にあるコップを傾け水を飲み、のどを潤してから話を続ける。


「逆に今度は北を諦めたとした場合だ。まずザイゴッシュと我らが帝国の戦力を考えて、確実に追い返す事が出来るかと聞かれれば保障でき無い。と言うのが答えになってしまう。しかも、仮に追い返せたとして、放置していた北のアマダはそのまま侵攻しているだろう。そうなると、仮にザイゴッシュを撃退できたとしても、今度はアマダを追い出さねばならなくなる。だが、ザイゴッシュの引き方にもよるが、そのタイミングで再度ザイゴッシュが攻めてくる可能性が高い。つまり最初に戻ると言うわけだ。場合によっては状況を悪化させてだ。そして、それを繰り返されるような事になれば、当然状況は加速度的に悪くなり、最終的にはこの国は消えるだろうな」


 タルバーがため息をつきながら言った内容に、ベイト卿と呼ばれた太った男性は、顔を青くしながら小さくつぶやいた。


「では、どうにもならないではないか。二国が手を組んだ時点で、帝国は滅びるしかないのではないですか」


「だから、こうやって皆で集まって考えておるのです。ベイト卿も、無駄な事をしゃべるのなら何か良い案を出してください」


 ミューはそう言ったが、玉座の間は重い空気に包まれ静かになった。その後も、思いついたように誰かが発言すれば、色々とあーでもない、こーでもないと言い合いながら会議は続いた。しかし、結局の所、何の結論も出なかった。

 会議も煮詰まり、どうしたものか。と、全員が黙ってしまったその日の夕方、西のザイゴッシュ王国との戦闘は、敵をほぼ全滅させ国境の防衛に成功した。と、報告が来た。

 そのため、先ほどまでの沈んだ雰囲気と打って変わって、北との戦闘をどうするか、いや、この好機に西へ攻め入って領地の拡大を、そんな事より西の守りを固めて北へ討ち入るのが正しい、等というよく言えば前向き、悪く言えば欲深な話に変わった。

 そして、西を注視しつつもまずは北をどうにかする。と言う結論に至った時、ザイゴッシュ王国の書状が、ワイバーンに似た合成獣(キメラ)に乗った使者によって届けられた。

 最初はあまりにも対応が早すぎるので、罠か使者を騙った偽物かと疑われたが、筆跡鑑定や、使者の身分を証明するものを何度も確認し、それが本物だと言う事が分かった。

 本物だと言う事が分かったので、内容を確認すると、圧倒的にこちらが有利な内容が書かれているので、そこで再度罠かと疑った。

 しかし、戦闘報告を受けたミューがその場に居る全員に、その圧倒的な戦果を聞き、そんな状態になればこの内容も理解できる。となり、停戦協定を結ぶことにした。

 仮に、罠だったとして、相手の最大戦力は潰しているのだ。仮にアラン・レッドマンがこちらに戻っても、多少の兵は当然残すのだから、少なくともすぐにあの辺りを占領されることは無い。

 それに、最初は状況が一気に好転したので気が大きくなっていたが、冷静に考えれば今まで仕掛けてくる事の無かったアマダ王国が攻めてくるという事は、何か策が有るに決まっている。そうであれば、二面戦闘は避けたい。無限に兵力や物資があるわけではないのだから。

 なにより、流石にザイゴッシュ王国の方から言って来た停戦協定を、一方的に破る事は無いだろう。もっと言えば内容が内容でもある。ならば、これを結びさえすれば、西のザイゴッシュ王国からの攻撃に気を取られることも無く、北のアマダ王国へ対応することが出来る。そう考えたためだ。

 皇帝はすぐさま筆を取り、停戦協定を結ぶ事をこちらも求む。という内容の書状を作成し、使者に渡した。使者は夜間にも関わらず返事の書状を受け取り、そのままザイゴッシュ王国へと戻って行った。

 そして、今度は西の戦線で武勲を上げた者達の話と、北の戦線をどうするかの話に変わって行った。


「そうだ、そう言えばアラン・レッドマン騎士隊長はかなりの劣勢だと聞いていたが、どうやってその状況をひっくり返したんだ? いや、戦果は聞いているからその具体的な内容が知りたいのだ」


 ボールがそう、今更な質問をする。それにミューが答える。


「なんでも、この間捕獲したモンスターを使ったらしいですね。捕まえる前から相当強力なモンスターと分かっており、その力をもって殲滅及び撃退を成したらしいです。なんでも、魔法での蹂躙だったらしいですよ。とんでもない威力で敵兵をなぎ倒していくのは、味方であっても背筋が凍るほどの恐ろしさだったそうです。その力を、今度陛下も見てみたい。と、仰っていたので、現在はレッドマン騎士隊長と共に帝都へ呼び戻し、近日中に闘技場で能力の試験をするのですが、ボール卿もご覧になられますか?」


「その時はぜひ。それで、まさかモンスター単体な訳ではないだろう? 使役者は誰だ? 冒険者なら、さっさと確保して軍に入れるなり、モンスターを接収するなりしたのだろう?」


「ああ、接収は無理と判断されました。なんでも、使役方法が不明で、どうにもならないそうです。ですので、使役者をそのまま軍に入れ、今は騎士になっています。書類上はと注意書きが付きますが」


「なるほど妥当だ。しかしなぜ、書類上なのかね? ああ、そうか……叙任式だな? 時期としては早くなるな……それに、そもそも冒険者か、騎士学校にも通っていないから……なるほど」


 ボールの言葉を聞き、その場に居る者は納得したような表情で頷く。それを確認し、再度ミューが話始める。


「まぁ、そう言う事です。それで、今回の功績を持ってその者を騎士隊長にしたいと思うのですが、どうでしょうか?」


 それに、タルバーが答える。


「いいだろう、変な気を起こされて他の国に行かれたら面倒だ。どうせ、西の国境に築く要塞に騎士隊を回さないといけないのだ。いずれにしろ、騎士隊はもう一つ必要であろうよ。まぁその場合、誰を西に回すか? だが……」


 追従するようにボールが続ける。


「そうですな、レッドマン騎士隊長しか居ないでしょう。最悪を想定した場合、抑えられるのはあの者しか居ないでしょうしね。そのモンスターを連れた冒険者上がりの騎士は一度帝都に戻すとして、問題は北に送る戦力ですが……何か策が有ると言ってもアマダ王国はザイゴッシュ王国と違い、帝国の最大戦力を送るほどではないでしょう。そもそも、送れと言われても不可能ですしね。誰か、手の空いている騎士体長と将軍を、増援の兵士や騎士と一緒に送るのが良いかと思うのですがいかがでしょうか?」


 その問いかけに、居並ぶ貴族や将軍たちは首肯や沈黙で同意を示す。


「では、その方向で宜しいですね? 次は、北に送る物資の話になるのですが……」


 そしてその後、アマダ王国に対する行動の方針が固められて行き、朝方にはおおよそが決まったので、部屋にいた貴族達や将軍達は眠い目を擦りながら出て行った。


「んお? 終わっとった……まぁよい、コレに記録しておるしの。それにしても、規格外のモンスターか……たしかに、そうじゃな」


 そう言って、玉座に座る皇帝であるニールは、腕輪に付いた青い水晶のような物を触りながら呟いた。

王国側


国王⇒ナイスなオジサマ、目付が鋭い

シブン伯爵⇒小太りオジサン、良い人っぽい

Drロータス⇒人間男、胡散臭いボサボサ頭

セレナ⇒女エルフ魔法使い、美人

ヴェラ⇒女ドワーフ、トランジスタグラマー


帝国側


皇帝⇒魔法学校の校長とか、指輪を捨てに行きそうなお爺さん

ミュー将軍⇒強面マッチョオジサマ、将軍

ボール卿⇒痩せた中年男性、伯爵

タルバー卿⇒禿げているけど髭の長いお爺さん、侯爵

ベイト卿⇒気持ち悪いデブ、THE小物系悪役顔、伯爵


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